「これが、私の仕事です」。売春と司法の狭間で訴える女たち

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特に酒の場で、下世話な話は盛り上がる。ちょっと変わった体験話は、“武勇伝”にもなるだろう。時々、そのうちの一つの話の種として持ち上がる「セックスワーカー」。

売春婦。「それが、私の仕事です」と、胸を張って主張する女性たちがいることを知っているだろうか。

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Photo by Matt Thopmson

「セックスワークは、単純に他の業種と変わりません」

「自由の国アメリカ」の性に関する考え方はシビアだ。全州が同性婚を認めた一方で売春行為は二つの州のごく一部の地区を除き、違法。日本で目にするようなラブホテルはアメリカにはない。
 それでも、売春婦は確かに存在し彼女たちは訴える。

「売春が『仕事』として認められていないのはなぜ?『労働の自由』を謳っておきながら、私たちに自由なんてないじゃない」

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Photo by PJ Starr

 Red Umbrella Project (以下、RedUP) は、セックスワーカーの権利を主張し、その声を広げようとする組織だ。2010年の設立から、売春経験者や、団体の存在意義に共感した人々を巻き込みながら、今に至るまで世論にメッセージを送り続けてきた。
 その一つが『Red Umbrella Diaries』というドキュメンタリー映画作品。7人の売春婦(/元売春婦)たちが、一人ひとりきらびやかなパブのステージ上で自身について話す。

「セックスワークは単純に他の業種と変わらない『仕事』なんです。大変だけどお給料をちゃんともらえる。そこに恥じるべきものなんてないじゃない。だからこそ、今、自分の仕事について胸を張って話すわ」

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Matt Thompson

 彼女たちの姿勢は、売春に対する新たな視点を人々に与えようとしている。そのスピーカーうちの一人Audacia Ray(アウデシア・レイ)こそ、RedUPの創設者。彼女自身も、元売春婦だった。

モラルの問題ではない

 現在は、ニューヨークを拠点とする作家のアウデシア。大学を卒業後、ローカル情報を交換するためのサイトcraigslistで“顧客”を探し、生計を立てる道を選んだ。理由の一つは、単純に「稼げるから」。

「テクノロジーとセックスを組み合わせることに過度に恐れることはない。たとえば、オンライン上で誰かと出会うことは、バーで知らない誰かと出会うよりも安全でしょ」という持論もあり、そこから「オンラインでの出会いによる女性の生計の立て方」についてを著し、出版。さらには、教授として大学の教壇に立ちセクシャリティーについての教鞭もとってきた。
 
「多くの人が性産業に飛び込む一番の理由は、収入が不安定であったから。売春はモラルの問題なんかじゃなくて、経済の問題です」。だからこそ、仕事自体を否定するのではなく、語るのもタブーとされる売春を「ポジティブ」にしてくれる人間が必要だと思った。売春婦の権利を求めるRedUP団体設立は、自身が売春婦だったから理解できる思いが多かったからだ。

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Photo byPJ Starr

 設立当初は数名だった団体も年々メンバーが増え、活動の規模も拡大。目的は、売春に対する世間の見方を変えること、だ。

「専門家と言われるような人たちも結局、刑事上の善悪でしか私たちについて語れないことのほうが多いのです。性産業でなければ雇用の機会なんてなくて、性産業でなければ安定した住居もヘルスケアも満足に得られないような、そんなセックスワーカーだっているんです。問題なのは、性産業の経済的な側面やそこで働く人々の価値観といった根本的な部分にあまり言及していないこと。売春が仕事としてなくては困る人も多くいるのです。それが、モラルという観点だけで法に縛られ、法に基づくレベルでしか討論がなされていない。売春婦になったことのない人々の、机上の議論やレポートが世間に与えているインパクトを覆えしたいんです」

「売春を取り締まられたくはありませんでした」

 裁判時にそう言ったのは、団体メンバーの一人、Jenna Torres(ジェンナ・トーレス)。売春婦として逮捕された当時、まだ17歳だった。

 2013年の秋、ニューヨーク州は、売春を理由に逮捕された人の取り扱い方を変える法令を制定した。
 裁判所は、包括的な審査、サポート体制、裁判所のモニタリングを組み合わせた「性交渉の断絶を手助けする」社会奉仕プログラムを用意。逮捕された売春婦は、それを数回受けることと引き換えに申し立てをする機会が提供され、逮捕の記録が残るだけで刑期は免れる、というもの。
 それまでは、彼女たちの司法からの扱いは他の犯罪者と同様。売春行為は摘発されれば刑期すら与えられることもあった。法が制定されたことにより、逮捕された売春婦の厳しい扱いは緩和されたかもしれない。ただ、今も、逮捕されるということ自体は変わっていない。

 アウデシアはいう。「売春について報じるメディアのほとんどは、『売春婦だって人だ!』『売春婦は食い物にされている』というようなものばかり。そんな情けとか同情だとかを頂きたいのではなく、経済的な必要性、仕事として選択肢の一つであるという考え方、売春について公に話すことの意味など、もっと議論の幅を広げたいんです」

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Photo by FOSIM/Steve Rhodes

「JOBS NOT JAIL(刑務所ではなく仕事を)」

「PORVERTY IS NOT A CRIME(貧困は犯罪ではない)」

 思い思いのメッセージを書き、プラカードを掲げて主張する売春婦たち。
「売春で食べて行くしかない」「そうやって子どもを育てていくしかない」。そういう状況に生きなくてはならないとき、“腐らずに”いられる人間はどれほどいるのだろう。
 売春行為がよいか悪いかというのは一概に決められない。しかし、必死に生きる姿は、彼女たちの生き方を肯定するには十分じゃないだろうか。


Text by Ryohei Ashitani, edited by HEAPS

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