セクシャル・マイノリティ「Q」が歌う。現代カントリー・ミュージック

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ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、それからトランスジェンダー等を含むセクシャル・マイノリティを指す、Queer(クィア)。自分自身を表現する手段として音楽を選択する者は多い。
昨今のブルックリン、そんなクィア・ミュージシャンたちが情熱を注ぐのはパンクロックでもヒップホップでもない。保守的な音楽とされる、「カントリー」。

テンガロンハットやネルシャツ、男らしいシンガーといったこの音楽につきまとうイメージを払拭した、クィアたちによるカントリーミュージックシーンがいま賑やかだ。

「カントリーがやりたいのに、パンクバンドにいるんだね」

 ブルックリンのクィアたちによるカントリーミュージックシーン、いうなれば「ブルックリン・クィア・カントリー」のキーパーソンは、カントリーバンド「 Karen & The Sorrows」 のフロントウーマン、Karen Pittelman(カレン・ピテルマン)。
「ここ、パイが絶品なのよ」と、お気に入りのカフェでインタビューに応じてくれた彼女。
さえずりのような可愛らしい声でころころとよく笑いながら、同音楽シーンの全貌と自身の音楽人生、カントリーミュージックへの愛について教えてくれた。

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「ライアン・アダムス(ノースカロライナ州出身のシンガーソングライター)の曲に、こういう一節があるの。
『君はカントリーミュージックをやりたいのに、パンクバンドにいるんだね』
ああ、私ひとりだけじゃないんだって思った」

 カレンは、ニューヨークのアッパーイーストサイドで生まれた。テレビ局への販売用にカントリーミュージックのコンピレーションアルバムを制作する会社を経営していた父が出張先のナッシュビルから持ち帰ってくるカントリーミュージックのレコードに囲まれ育った彼女だが、30歳で結成したバンドはパンクバンド。カントリーミュージックの虜になったのは、もう少し後のことだった。

「カントリーミュージックって、自分の気持ちと向き合うときにすごく率直で、嘘をつかないで寄り添ってくれる。落ち込んでいるときに皮肉なんて聴きたくないでしょ?自分の気持ちを映し出してくれるようなものを聴きたいわけで…。カントリーミュージックはそこに長けているの」。長年の恋人と別れ、悲しみに暮れていたときに聴いて救われたのは、パンクではなくカントリーミュージックだった。以来、次第にその「人の気持ちに正直な音楽」に想いが傾いていった。

 ニール・ヤングをこよなく愛するという。パンクバンドをやめてカントリーミュージシャンとしての人生がはじまったのは、5年前。自身のパンクバンドと、アラナ(Karen & The Sorrowsの現メンバー)のカントリーバンドが一緒にショーをしたときのこと。その頃からカントリーミュージックをすでに何曲か書いていたカレンは、ペダルスティールギター(カントリーでよく使われる)を弾くアラナに惚れて、思い切って声をかけた。「一緒に一曲、演奏してくれない?」。ドラムのタミーやベースのブラックも加わり、2011年バンド結成。「ブルックリン・クィア・カントリー」シーン誕生前夜となった。

Karen & the Sorrows

Photo Credit: Syd London

クィアたちが「パートナーと楽しめる居場所」

 同年、カレンはGina Mamone(ジーナ・マモーン:LGBTQレコードレーベル、Riot Grrrlの創設者)をはじめとする仲間たちと、大規模なショー「Gay Ole Opry」を開催、地元のクィアカントリーバンドを招いて、一緒に演奏した。結果は予想を上回る大盛況、300人以上の観客が集まった。嬉しいことに、多くの人がカレンに、こう喜びを表した。

「まさにこういう音楽を聴いて育ったんだけど、この音楽に、こうやってパートナーと踊って楽しむような、(クィアである)自分の居場所があると思わなかった!」。これを機にKingsやThe Paisley Fieldsなど多くのクィア・カントリーバンドが徐々に生まれ、シーンが形成されてきた。
 いまでは3ヶ月ごとにブルックリン、プロスペクトハイツのバーでイベント「Queer Country Quarterly(クィア・カントリー・クォータリー)」を開催、新たなバンドたちがステージに立つ。

「もし世界が、私たち(クィア)がここにいることを望まないとしたら?すべての権力を使って、私たちの存在を否定したら?」。ある曲でこう投げかけるカレン。ライティングコーチとしての顔も持つカレンは、ラブソングや失恋ソングなど個人の出来事や心情に焦点を当てた歌詞を書く一方で、クィアである自分たちを映しだした詩も書く。
「批評っていうものは、議論したり書いたりするものであって。音楽には、聴く人に何か意味をもたらすような存在になってほしい」。だから、同性愛に保守的とされるカントリーミュージックを批判するわけでもなく、皮肉るわけでもない。一人の心を鏡のように映し出し、寄り添ってくれるようなカントリーミュージックを自ら楽しみ、愛し、リスナーに届けようとする彼女の姿勢が歌詞に優しく宿る。

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半世紀前にもいた、ゲイについてを歌うカントリー

「DIY(Do It Yourself)=自分が欲しいものがなければ、作ってしまえ」の精神を持つカレン。自身のバンドもそのスピリットで結成したが、決して新しいことをしているわけではない、と強調する。

 カトリック、保守的、白人主義といったイメージがつきもののカントリーミュージックだが、必ずしもジャンルそのものがホモフォビック(同性愛嫌悪の)なわけではないと彼女は強調する。
 政治においても保守的な態度をとっているハンク・ウィリアムズJr. (カントリーミュージックのレジェンド、Hank Williamsの息子)をはじめとするミュージシャンがいるのも事実だが、一方でMary Gauthier (メアリー・ゴーサー)やChely Wright(チェリー・ライト)などセクシャルマイノリティを支持するミュージシャンも多くいる。過去に遡れば1970年代、Lavender Country(ラベンダー・カントリー)という名のカントリーバンドが初めてゲイをテーマにしたアルバムをリリース、ワシントンやシアトル、オレゴン、カリフォルニアのゲイプライドやイベントで演奏した。

 カントリーミュージックという枠組みの中で、自らの性に対してオープンに、そしてリスナーにもその手を差し伸べてきたクィアミュージシャンたちが築き上げてきた意志と情熱。21世紀のブルックリンで、カレンと仲間たちがその系譜を引き継いでいる。

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Photo credit: Carol Litwin

 現在のバンド活動はというと、ニューアルバムを制作中。将来の展望についてはこう話す。
「私の目標は、クィアカントリーミュージシャンの輪を全国に広げてること。ネットワークが築けたら、お互いの土地を訪ねた時に一緒にプレイできるわ」。事実、ニューヨークを訪れた際に彼女たちとプレイしたカリフォルニア出身のクィアカントリーミュージシャン、Eli Conley(イライ・コンリー) が今年2月、サンフランシスコで「Queer Country West Coast」を開催したばかりだ。

「このミュージックシーンはどんどん大きくなっているから、そろそろ国外にも進出しないとね。カントリーミュージックはインターナショナルな音楽で、クィアたちやカントリーミュージックのファンは至る所にいる。バンドをはじめたら、私に連絡して。ブルックリンに来て、一緒にプレイしましょうよ」。彼女のころころと笑う声が店内に心地よく響いた。

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Interview Photos by Sako Hirano
Text by Risa Akita

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