ゲリラで“自分”を救済する青年たち「We Live This」

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生きていける場所を、地下鉄に求めて。

Autosave-File vom d-lab2/3 der AgfaPhoto GmbH

“It’s showtime, showtime!(さあ、ショーの時間だぜ)”と自らでハンドクラップしながら車両に乗り込み、ものの数秒で自分たちの存在を車両一杯に知らしめる。
「逮捕」のリスクをおっても、パフォーマンスをする青年たちがいる。グループ名は「We Live This」、自分たちはこうして生きているとでもいいたげに、乗客の戸惑いも、困惑も迷惑も勢いで押し切るような必死さがある。踊る彼らは、年長ですらまだ20歳。子どもたちだ。
その彼らを2年前から追い続けているフォトグラファー、佐藤康気 (こうき)に話を聞いた。

「おまえ、写真撮ってるの?」

 某ファストフード店で一人の中年の男と交わした会話。それが、佐藤の“彼ら”を追い続ける決め手となる。
「2年前、地下鉄で『We Live This』の子たちのパフォーマンスをみて夢中になったんです。それで、彼らのパフォーマンスに同行して写真を撮りはじめて。でも、最初は単に、『地下鉄のパフォーマンス』という認識でした」。
 その日も、佐藤は彼らが稼いだお金を数えるファストフード店に一緒に居たのだが、その中年(ホームレスらしき)の男は佐藤に近づき、話しかけてきた。
「おまえ、写真撮ってるの?そいつらは、そのパフォーマンスで食ってるんだ。周りの子たちがギャングかドラッグディーラーになっちまうのに、偉いよなあ」。
 ただのパフォーマンスとして撮っていた姿が、熱を帯びて見え出す。佐藤が彼ら「We Live This」を本気で撮り続ける日々がはじまった。

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 車両に乗り込んで、持ち込んだスピーカーで音楽をならし、車両の床を踏みならして彼らのパフォーマンスははじまる。車両のポールでポールダンスをし、手すりなど利用できるものすべてを利用して、とにかくダイナミックに踊る。はじまりや合間に乗客と拳をつけ合うコミュニケーションも忘れない。そのため、指笛を吹いたり手を叩いて盛り上げる乗客も多い。
「We Live This」を追ったドキュメンタリー映画『We Live This』が、昨年のニューヨークのトライべッカ映画祭でも上映され、青年たちによる地下鉄でのパフォーマンスは注目を浴びた。

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 しかし、皆に歓迎されるわけではない。「冷ややかな目で見ている人も少なくはないですよ、特にここ近年では」と佐藤。彼らの後追いのグループが増えたために、パフォーマンス自体が珍しいものではなくなり「ああ、またか」とため息をする乗客が増えている。
 歓迎されにくくなった大きな理由の一つとして、車両でのポールダンスが今年の春、地下鉄の「正式な禁止事項」に加わったという事実もある。筆者も一度、ポールでぐるんと大胆にまわる少年のつま先が顔をかすめたことがあり、あまりいい印象を持っていなかった。目立つためには迷惑関係なしか、と 少々憤慨の念もあったことを正直にいっておこう。

逮捕より一日の稼ぎをとる14歳

 実際に先日のパフォーマンスでは「あんたたちの行為、迷惑なのよ」と乗客に一蹴され揉めた。
「なんだよ、俺たちはここで踊って生きてくしかないんだよ!」とタンカを切ったのはメンバーのカルーで、彼が「We Live This」に加わってパフォーマンスをはじめたのは14歳のとき。
 彼も含め、ほとんどのメンバーが学校には行っていない。メンバーの一人は高校をドロップアウトして10代にしてホームレスになった。どこか眠れる場所、物乞いのできる場所として行き着いたのが地下鉄だった。

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 地下鉄では日頃から覆面警官が巡回しているため、常に「逮捕」のリスクがついてまわる。それでも「150ドルから200ドルが一日で稼げる」この“仕事”は、そのリスクを負う価値がある、という。
「メンバーの最年少のカルー、僕が“追っかけ”はじめたころはまだ14歳だったんですけど、お金が必要だったんですよね。両親は、彼が小さい頃からずっと刑務所。タタ(メンバー)のおばあちゃんに育てられてきたようです。それから、フォティ(メンバー)もホームレスだった。どうにかして自分でお金を稼がなくちゃならなかったんですよね 」。14歳じゃもちろん“正式な”働き口などない。

「彼らはプロジェクト(低所得者団地)育ち。あのファストフード店の男性から聞いた通り、周りの恵まれない家庭に育った子たちは例をなぞってギャングになるかドラッグディーラーになるかしかないみたいです。つまり、一日150ドル(約3万円)を地下鉄で稼げているうちは、そういう仕事をしないでいられるということですよね」。地下鉄でパフォーマンスをし続けていれば、“犯罪”をしないでい続けられるということでもあるのだ。

いつか、地下鉄を降りられるか

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「それから、やみくもに車両に乗ってるわけでもないんです。どのライン(線)に乗って、どの時間帯がいいのかなどもきちんと把握してるんです。We Live Thisの子たちは『橋の上』を見せ場に選びます。橋の上では駅の区間が長く、まとまった時間がとれますから。それから、車両乗り換えは常に駆け足。一日大体7時間くらいは(パフォーマンス)をやってるんですけど、ほとんどぶっ通しです」。

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 映画でその存在を知られるようになってからは雑誌に出たり、とあるブランドのモデルになったりと何かとオファーが止まない。ブルックリンミュージアム、ニューミュージアムでのパフォーマンスも果たした。映画を機にトントン拍子かと思えば、しかし佐藤はこう続けた。

「いまが過渡期なのかな、と彼らを追い続けてきて思います。彼らも、それを撮る僕自身も。これから彼らがどうなっていくのか、この地下鉄で生きてきた3年間で、彼らがどれだけ自分の人生を変えたのか、これからどうやって生きていくのか」。

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 彼らの生き様が映像になり人々の視線を集めたのは、パフォーマンスの派手さと身勝手ゆえのカリスマ性や、純粋な興味に所以するだろうが、加えて“10代特有の危うさ”のようなものもあっただろう。若さゆえ、人生を大胆に無駄遣いするような、そんな刹那的な危うさが。それを武器に生きてきて、それを許されてきた“青年”という時期もいつか終わる。

「地下鉄が、俺らをどこか違う場所に連れてってくれるんだ」。
 そう映画の中で話した彼ら。迷惑も人の目も通り越してがむしゃらに生きてきた青年たちのこの先は、一体どこに向かっているのか。
 明確なのはただ一つ、明日すら考えずに“その日暮らし”をやってのける人間のエネルギーは凄まじい。地下鉄の轟音とあいまって、彼らのパフォーマンスをひきたてる。

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Koki Sato / 佐藤康気
東京工芸大学の写真学科卒業後、2009年にニューヨークへ。 フォトグラファーとして活動をはじめ、現在雑誌など多方面で 活動している。今年『We Live This』のソロエキシビションをNYで行う。その内の一枚がドキュメンタリー映画『We Live This』のポスターに使用された。
kokisato.viewbook.com

Photos by Koki Sato
Text by Sako Hirano

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