いま最も斬新なマガジンは、ライ“ブ”スタイル。 記録されない、シェアされないがいい『POP UP Magazine(ポップアップ・マガジン)』

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ポップアップ・ストア、ポップアップ・イベント…。いろんなことが「ポップアップ」するご時世である。そんなわけで「雑誌」がポップアップしても何ら驚くことはない、のか?

紙でもデジタルでも、雑誌「=読むもの」というのが万国共通かと思っていた。が、「観る」という新しいスタイルで、コアなファンを集めている媒体が存在する。米国カリフォリニア州発『POP-UP Magazine(ポップアップ・マガジン)』。彼らは、雑誌を「劇場で”観せる”」という。一体、どういうことなのか。

ライブスタイル。ステージで3次元表現

「あのPOP-UP Magazineがブルックリンにやってくる!」。ということで、百聞は一見にしかず。その実態を探るべく、劇場に足を運んでみた。チケットは、最安のもので25ドル。映画館のラグジュアリー席で3D映画を一本見るのと同じくらい、といったところ。約2,000席分のチケットは、講演1、2週間前には完売という人気っぷり。

 で、POP-UP Magazineとは結局何か、を先にお話しすると、雑誌という2次元の媒体を、ステージ上で3次元表現した「公演」とも「講演」ともとれるものだった。100分間で12人のパネラーが出演。その多くはジャーナリストや作家、評論家。彼らは記事を朗読するのだが、それに合わせて映像や写真が映し出される他、オーケストラが音を奏で、ダンサーが舞う。内容は、ファッション、音楽、食、科学、政治、アート…と多岐に渡り、平たく言うと、米国のカルチャー誌に含まれる要素を、ライブスタイルで表現していた、ということになる。

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イメージ画像だが、本当にこんな感じ。劇場でステージを見る(私たちは中二階だったので、見下ろした)。

 100分間、休憩をも挟まず、ぶっ続けで濃い話を聞くというのは、なかなかの体力を要したが「盛りだくさん」で「内容が充実していた」ことは間違いない。いくつもの刺激あるネタが一つのパッケージで完結している、それが雑誌(マガジン)の極意だとすれば、POP-UP Magazineはとても良くできたマガジンであると思う。

「ジャーナリズム × シアター」。録画しないから、“シェア”されない、がイイ?

“It’s ephemeral” 。「エフェメラル。かげろうのように、すぐに消えてしまう、ほんの短い間だけ存在するものです」。POP-UP Magazineの編集長でジャーナリズムライターのDouglas McGray(ダグラス・マクグレイ)は、自らの雑誌をそう表現する。

 2009年、同誌はサンフランシスコの席数360程の小さな劇場からはじまった。それが、1年後には900席規模、さらに翌年には2,600席規模に拡大。現在は、年に2、3回ツアーを行うほどに成長している。

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こんな感じで、全員がコンテンツに集中。

 編集長が「エフェメラル」と表現するのは、雑誌のコンテンツ公開が「一夜限り」だからだ。また、初回から「録音、録画は一切行わない」姿勢を貫き、無論、観客にもそれを求めてきた。そのため、09年から、かれこれ7年間も開催を続けているのにもかかわらず、インターネットで検索しても、過去の録画動画はほとんど出てこない。

 まるで「いつでも、どこでも」を合言葉に利便性や即効性を追求するトレンドに逆らうかのようだが、「ネットを介さないリアルな人間関係サイコー」というありがちな美談がウリ、というわけでない。彼らが追求しているのは、あくまでも、「ストーリーをより相手の心に響かせるにはどうすれば良いか」「情報過多の時代で、ジャーナリズムの可能性をどう広げていくか」である。

“わざわざ”観る、だから忘れない。「多くに届く」より「記憶に残る」を

 もちろん、ネットに記録がなければ、SNSでシェアされることもない。この点も近年の「シェア」文化の流れに逆らう。しかし、伝え手としては、より多くの人々にストーリーを届けたいのではないのだろうか。

「より多くの人に届いても、誰の記憶にも残らなければ意味がない。紙やデジタルで読ませるより、劇場で“わざわざ”観るという体験を伴わせることで、読者(観客)のストーリーへのエンゲージメントは高くなる」とダグラス氏。“わざわざ”体験した者たちも、このアイデアに賛同する。

「ちゃんと聞いてほしい。読んでほしい」は、伝え手のエゴだ。だが、そのエゴをオーディエンスが受け入れているからこそ、POP-UP Magazineというステージ上の総合芸術は成立しているのだろう。情報の消費速度がいたずらに速まる中で、腰を据えて時代の出来事や人物を活写する、ジャーナリズムの必要性は薄らいでいない。

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ネットで拾えない情報。その一瞬だけ生まれる、そこにしかない体験に価値あり。

 演劇とジャーナリズムを掛け合わせると、ステージ上のスピーカーとオーディエンスの間にどんなケミストリーが起こるか。ダグラス氏は創刊当初をこう振り返る。

「他のメディアと同じことをしたくなかった。特に、人は何故、POP-UP Magazineを観たいと思うのか、の動機の部分で、差別化を図りたかったんです」。 

 便利なデジタル世代に生きる私たちは、テレビ番組や映画もライブも事件も、「話題の出来事は、すべて録画・録音されていて、インターネットで検索すれば何でも観れる」という考えに慣れ切っている。だが、POP-UP Magazineは、その期待を見事に裏切った。

「POP-UP Magazineは、”その場”にいないと、内容を知ることができない。だから、人は観にくるのです」

 限定された場所で、限定された時間に、専用に作ったコンテンツを複数の人々で共有する貴重な体験。それは、夏の風物詩、地域の「打ち上げ花火」にも共通点がある。そして、打ち上げ花火こそ、同誌の編集長の言葉、「エフェメラル」を表すのに最適な言葉である。

[nlink url=”https://heapsmag.com/?p=6019″ title=”作り手は全員、黒人でゲイ。ダブルマイノリティが、雑誌で切り開く新時代”]

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Text by Chiyo Yamauchi

 

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