「モデルは肌を見せきゃいけないなんて、誰が決めたの?」。慎ましく最先端で表現する。世界初、“モデスト・モデルエージェンシー”、UNDERWRAPS AGENCY

Share
Tweet

慎ましく纏うことは、大人しく生きることと同義ではない。

「私の夢はモデルでした。でもイスラム教なので肌は出せませんし、出したくありません。でもいま、私はモデルです」。
自信をのぞかせながら話すのは、世界初のモデスト・モデル専門のエージェンシー「UNDERWRAPS AGENCY」のモデルだ。

露出する肌が多く時にはトップレスの女性が行き交うなか、谷間どころか顔と腕しか見せない。
その慎ましさ、“モデスト”がハイファッションとは相容れないという固定観念は壊れつつある。同時に、モデルという定義も。

1b4d9c_e3603b0de05dce863db3d7e3fc0a6475
Amirah Creation, Photo by Sheba Atiqi

ファッションと宗教が両立されないなんて嘘

「モデルになりたくても肌を出せない、出したくない人もいる。モデルになるには露出をしなくちゃいけないだなんてことはない」。
 不敵に微笑んでみせるのは、カラフルなヒジャブがよく似合うNailah Lymus(ナイラ・ライムス)、2011年より始動したUnderwrap Agencyの立ち上げ人で、自身もイスラム教徒。
 露出していいのは基本的に顔と手(腕)だけ、体にぴったりとした服はダメ。そんな「肌を隠さなきゃいけないムスリム女性はファッションとは無縁」。これまで蔓延ってきたそのステレオタイプをついに壊す自信が、彼女にはある。

MAY_0336
Nailah Lymus(ナイラ・ライムス)

 近年、ムスリムファッションへの視線は熱い。昨年はドルチェ&ガッバーナがムスリム女性のためのコレクションを発表、ユニクロがモデスト・ファッションを展開しはじめたのも記憶に新しい。
 アメリカ、中国に次いで3番目の市場といまでこそ大注目だが、その10年以上前からファッション業界にムスリム・スタイルを参入させようと誰よりも早く動いてきたのがナイラだ。

 ヒジャブを初めて身につけたのは5歳のとき。ブルックリン生まれのアメリカ人だが、両親がイスラム教に改宗していたため、ムスリムとして生まれた。
  現在31歳、彼女の思春期には昨今のようなネットを介してのムスリム・コミュニティはもちろんない。いまよりもムスリムに対してのステレオタイプは強かった。だが、「楽しい思い出しかなかった!」。

「もちろんからかわれたこともあったけど、私自身が、ヒジャブを被っている自分が好きだった。誰よりもファッショナブルだった自信がある」と笑う。

MAY_0118

 親がクリエイティブの仕事に従事していたからか、“目覚め”も早かった。7歳ですでにジェムストーン(パールやアメジストなどの半貴石)を使って「自分の身に着けるアクセサリーは自分で作っていた」というから驚く。
 当時はヒジャブのお洒落な巻き方の手本などもないから、とにかく自分で試行錯誤してきた。それが楽しかった。

“正しいサイズ”を強要しない

1058x1600-3
Photo by Mindlense

 そんなナイラがファッション業界に飛び込んだのは自然なこと。いまはモデル・エージェントのCEOだが、それより以前からデザイナー兼スタイリストでもあり、2004年にはムスリム女性、それからモデストを好む女性のためのファションブランド、Amirah Creation(アミーラ・クリエーション)を立ち上げている。2011年よりニューヨークファッションウィークに参加を果たし、多くの注目を浴びた。

_DSC0314 copy-2
Photo by Mindlense

 彼女のブランドの特筆すべきは、「Zero to Infinity(ゼロサイズから無限)」。

「多くのファッションブランドは、着る人に“正しいサイズ”であることを求めるけれども、それは私にとってはナンセンス。服は、あなたを飾るもの。服を着させるために土台(人)があるのではなく、人に着られるために服がある。生まれ持った自分の姿を美しくするものなのだから、それぞれの美を生かせるものであるべき」 とナイラ。

MA2_9781

 その自身の哲学は、「ムスリムだからヒジャブを被る。体の線が出るものを着ることはできないし、腕はまあOKだけど、厳密には顔と手先しか出しちゃNG。ましてや谷間なんて見せた日には追放(笑)!」、それでいて、ファッショナブルでいられることを証明したいという長年の思いがあるから。

「私たちムスリムは、普通の人よりも少しだけ、“破れない大切な約束事”が多いというだけ。それがファッションに差し支えるなんてことはない」
 どんな制限があっても、どんな女性も美しくスタイリッシュに纏うことができる。幼い頃よりの信念がある。

 ファッションにおけるすべてが独学。学校には行かずにすべてを現場で学んできた。いわゆる「ファッションとは」を学んでも、まだ芽も出ていないモデスト・ファッションの展望に狙いを定めていた彼女にとっては、あまり重要ではなかった。それよりも、走り出したときに絶対に自分の助けになる、現場のスキルが欲しかった。

MA2_9834

裏切らない信念が持つ美しさ

 Stay true to your faith(自分が信じるものを、裏切らない)。ナイラの人生において、そしてファッションにおいてのモットーだ。

 モデルは、服を美しく見せるために求められる美に忠実である方が好ましい。たとえば、多くの黒人モデルは縮れたヘアを潰してストレートウィッグを被らなくてはならない、など。

「それはある種のプロフェッショナルの姿勢だけれど、事実、美の定義は広い。自分のライフスタイルを偽らない、だからこそできる表現がある。そんなモデルがいてもいいじゃない」という言葉は力強い。
 現在、UNDERWRAPS AGENCYにはモデルが8人。4人がムスリム、もう4人はムスリムではないがモデストを好み、またナイラのコンセプトに同調する女性たちだ。

ARTL1377-Edit-Edit
ARTL1388-Edit-Edit
Photograph: José Pagan, MAU:Rayyan Akhdar, Model: Ayana Wildgoose

 自分が信じるものを裏切らない、それは宗教に限ったことではない。自分のライフスタイルに欠かせないものを曲げず、「らしくいる」ということ。
 Being Model and still stay true to your faith.(モデルでいながら、自分であり続ける)。それが、ナイラの思うモデルの定義だ。

 世に求められる美には沿わないからこその表現は間違いなくある。それを証明しているのが、慎ましく纏いながら、颯爽とキャットウォークでランウェイを歩くモデスト・モデルたちだ。

[nlink url=”https://heapsmag.com/?p=10045″ title=“毎月の“7日間”、女をさげない。男らしさを削がない。 自分らしくいられる下着、THINX”]

——————-
Interview Photos by Mami Yamada
Text by Sako Hirano

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load