正統派ユダヤ教徒の“次世代を纏う”服「伝統は破らない。でも、自分らしく着飾る」

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「ヒジ、ヒザ、鎖骨の露出、および、派手な色や模様、ボディーラインのでる服の着用は禁止」
(超)正統派ユダヤ教徒の女性たちには、上のような厳しい「服装規定」があるため、服選びにはひと苦労。お洒落にミクロの興味もなければいいが、“自分らしい”服を纏いたいのがこのご時世の常。
「『Modesty(慎ましやかさ)』とは、お洒落をすることを否定するものではない」

その言葉のもと、二人の正統派のユダヤ教徒の女性がファッションブランドを立ち上げた。それは、制約の中でクリエイティビティを開化させた次世代のジューイッシュ・ガールたちの挑戦だ。宗教観の垣根もこえて分かち合おうとする、彼女たちのファッションへの想いとは。

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「結婚したら、女性は髪を剃る」

 正統派ユダヤ教、彼らの世界は謎に包まれている。住んでいるのはたった数ブロック先の超ご近所なのに、だ。
 ニューヨーク、特にブルックリン地区には「超正統派(オーソドックス)」と呼ばれるユダヤ教徒コミュニティがいくつか点在する。コミュニティ内では、英語よりもヘブライ語が主流。2016年現在も、何千年も前につくられた旧約聖書の教えに基づく生活を実践する彼らの思考や習慣は、しばし外部の目には“特殊”に映る。
 中でも、身なりや服装の「浮世離れ感」は凄まじい。(多くの)女性は、成人または結婚すると髪を剃る。外にでるときは、スカーフを巻いたり、ウィッグを着用…。また、スカートはひざ下、ブラウスのボタンはしっかり止める。

「ヒジ、ヒザ、鎖骨の露出、および、派手な色や模様、ボディーラインのでる服の着用は禁止」と、下手したら私立の女子校よりも厳しい。女子校は数年の辛抱。だが、こちら様は「一生」である。

「H&Mのようにあれだけの服が並ぶところへいっても、私たちが選べる服は、全体のたったの2割にも満たないの」。そう話すのは、Mimi Hecht(ミミ・へヒト)とMushky Notik(ムシュキー・ノティック)。彼女たちも、ブルックリンのクラウンハイツ地区に住む、「ハシディック」という正統派ユダヤ教徒だ。

 実際に会うまでは、正直一抹の不安があった。「“外部者”の私が質問したところで、答えてくれるのだろうか」と。だが、それは杞憂に終わる。

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左からミミ、ムシュキー

 ロングヘアを風になびかせる彼女たちが、ファッション・ブランド「MiMu Maxi(ミミュ・マキシ)」のファウンダー。それぞれが二児の男の子のママであり、妻でもある。
「11年に私の弟とムシュキーが結婚して以来、すっかり意気投合しちゃって!」とミミ。「ファッションの話では特に」と、仲良し義姉妹でもある。

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 たとえば「このロングスカート最高でしょ?けど、見て、この深いスリット。私たちには買えないわ、残念…」。そんな日頃の不満がお互いの共感につながったそうだ。
 妥協しながら服を選ぶことに、いい加減、嫌気がさした。
「自分たちが、本当に着たいものを着たい」そんな長年の鬱憤が原動力となり、2013年にブランドを立ち上げた。

ユダヤとイスラム。宗教の垣根をこえて共感し合えた服

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Photo Via Mimu Maxi

 二人とも「ファッションのバックグランドは一切なかった」と明かす。ファッション・ブランドを立ち上げると宣言したときの周りの反応は好意的ではあったが「みんな内心は、お遊びだと思っていたみたい」。活き活きした妻たちの姿に、「旦那たちも一応、応援している“フリ”はしてくれてましたけど」と笑う。
 最初は、デザイナーやパタンナーに相談して「こんなのを作って欲しい」を言葉とイラストで伝えて試作品を作ってもらっていたという。その中のアイテムの一つ「スカート・レギンス」が彼女たちの転機となった。

 これは、レギンスのようにストレッチ素材で動きやすく、前からみるとロングの巻きスカート、後ろからみるとガウチョパンツという代物。これが、ファッション関連ウェブサイトにも取り上げられるなど大きな話題に。飛びついたのは、同じく「妥協して服を纏う」に不満を溜めていたユダヤ教徒の女性だけではなかった。
「イスラム教徒女性の多さに驚いたわ」。どのコミュニティにもトレンドセッターというのは存在し、イスラム教徒女子界のイットガールがこのスカート・レギンスを着用したことから人気に火が付いたそう。「米国内はもちろん、遠く離れたインドネシアからの発注もあったほど」。「Modesty(慎ましやかさ)を重んじる、厳粛なイスラム女性と私たち。通じ合うところは多いはず」。

「世の中では、ユダヤ教徒とイスラム教徒の対立が取りざたされているけど、宗教の垣根を超えてつながり合うことは可能だ、と改めて痛感じた」

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コミュニティ内では「変わり者」。女性がデニムを履いたら村八分?

「MiMu Maxi」のアイテムは「すべてユダヤ教徒女性の伝統的なドレスコードに沿ってつくられている」という。伝統を破らずに、スタイリッシュに服をデザインする。しかし中には、それを否定する人もいるのも事実だ。というのも、正統派ユダヤ教徒の中で女性が「レギンス姿で街を歩く」というのはそもそも御法度だからだ。実際に彼女たちの「スカート・レギンス」をみてみると、決してボディーラインを露にするものではないが、“レギンス”という言葉に過剰反応を示す者や、「女性が(男性と同じように)ズボンを着用するなんてありえない」と批判する声もあったそうだ。

 それに対して彼女たちはそれぞれこう切り返す。「私たちは、“新しいこと”をしているだけで、規律を破っているわけでも、信仰をおろそかにしているわけでもないわ」(ミミ)。
「Modesty(慎ましやかさ)」とは、お洒落を否定するものではないはず。それに、ユダヤ教は、『クリエイティブであること』を奨励しているわ。私たちはそれを体現しようとしているだけよ」(ムシュキー)

 彼女たち曰く、クラウンハイツ地区のコミュニティではユダヤ教の教えを「どこまで実践するか」においては、各々の判断が尊重されているという。もちろん、度合いにもよるが、「女性がデニムパンツを履いたくらいで『信仰心がない、もう同士ではない』と村八分にされることはないわ。陰口は叩かれているかもしれないけれど」と、笑い飛ばす。

あくまで最優先は子ども、宗教、家族

 創設から2年が経った今、「MiMu Maxi」のファンは拡大している。「夫に借りた」頭金の返済も終わったと誇らしげだ。成長の理由について「ありそうでなかったモノを、手の届く価格で提供しているからじゃないかしら」と語る。
「もう少し首回りがタイトだったらいいのに」「このデザインで、ヒジを隠せる七分袖丈だったら完璧なのに」…。ユダヤ教徒の女性たちが切望していた「ありそうでなかった」は、まさに同じく厳粛な生活環境に身を置く彼女たちならではの発想だ。制約があるからこそ、研ぎ澄まされた創造力。それは、信仰をも超えた共感を生み出した。そこに私は「Mimu Maxi」の類まれなる価値を感じている。

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 なにはともあれ、いまはさぞビジネスに邁進(まいしん)しているのだろうと思いきや、意外にも「それだけってわけにもいかないわよ」と冷静。
「午後3時には学校に子どもを迎えにいかなきゃいけないし」。その後は家族のために食事の準備をし、食後は子どもをお風呂に入れ寝かしつける。空き時間にはもちろんお祈りも。 仕事時間は「フルタイムと呼べる程もないかもしれない」。制約にしばられずにもっと仕事がしたい、という欲はないのだろうか。

「最優先は子育て。次に宗教と家族行事、そして仕事」と、しかし優先順位は明確で、彼女たちの言葉に揺らぎはなかった。

 一方で、私たちが生きる現代社会は、自由と権利を追い求める。男女平等を叫ぶ声も喧しく、外で働く女性は増えるばかりだ。自由だからこそ余計に迷って悩み、決断には勇気がいる。自由と制約、どちらが良いという話ではないが、ライフスタイルが根本から異なる彼女たちの発想と行動は、「自由」がのさばる私たちのライフスタイルにも大きな刺激となるはずだ。

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Mimu Maxi
mimumaxi.com
instagram@mimumaxi
——–
Photos by Keisuke Tsujimoto
Text by Chiyo Yamauchi

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