たかが下着、されど下着。人目に見えないけれど、毎日身につけるもの、自分の肌に一番近い距離にあるものだから、納得できる「デザイン」と「着け心地」を求めたい。
そう思うのは、女性も男性も同じ。そして、トランスジェンダーも。
“真ん中”の下着「ミドルウェア」
下着「middlewear(ミドルウェア)」。心も体も女性から男性になりたい、あるいは男性から女性になりたい、つまり「トランスジェンダー男女両用」の下着だ。ラインナップは、3種類。
プロダクトを説明しよう。まずは、女性から男性の体になりたい人のための下着。
一番左「Boy Friday(ボーイ・フライデイ)」は、バインダー(胸のふくらみを目立たさせないように補正する)機能つき、右の「packer(パッカー)」はバインダーはないが、男性シルエットを意識したもの。
真ん中は、男性から女性の体になりたい人のための「tucker(タッカー)」。女性らしいシルエットが特徴だ。
昨年、米クラウドファンディングサイト、キックスターターで下着開発の資金集めに成功し、販売開始を今年9月に控えている。価格は30ドル(約3,300円)から70ドル(約7,700円)、と手の届きやすい値段になる予定だ。
「体と服に挟まれて服の“一部”になる。そんな下着を作りたい」
ミドルと聞いて、てっきり男女の中間なのかと思ったが、「この下着たちは、体と服の“狭間”にあります。だから『ミドル(middle)ウェア』というのです」と話す。
このジェンダーレス下着の仕掛け人で、“ミドルウェア”という造語を生み出したぺレグリン・ホニッグ(Peregrine Honig)だ。
「下着はなにも服の下に隠したり恥じたりするものではありません。体と服に挟まれて服の一部になる。そんな下着を作りたいのです」
本職はマルチメディアアーティストであるペレグリン。22歳の時、ニューヨークのホイットニー美術館が所蔵コレクションとして彼女の作品を買ったこともあるほど、若い頃からアート畑で活躍しきたプロフェッショナルなアーティストだ。
そんな彼女が今回手掛けた、トランスジェンダーにフレンドリーな下着。自らの経験が理由かと思いきや、自身はトランスジェンダーではないという。
では、“キャンバスで描くアート”から“布で紡ぐ下着”に自身のクリエイティビティを投入したのはなぜなんだろうか。
冴えない下着に「ちょっと待った」
「(ミドルウェアの)アイデアは2年前に思いつきました。男性の体になりたいと思っているトランスジェンダーの友人が、彼のバインダー(胸のふくらみを目立たさせないようにつけるスポーツブラのようなもの)見せてくれたのです。それが質も悪く、着心地も悪そうなものでびっくりして」
その友人のものに限らず、市場に出回っているバインダーが“冴えない”ことに気がついたペレグリン。男女の下着があれほど美しいものばかりのこの時代に、サイズも色もバリエーションも少ない、そして生地の質もよくない。
確かに、トランスジェンダーの下着は強調しすぎなのか“不自然”なのだ。特にバインダーはサラシっぽく、胸潰してます!感が満載…。毎日身につける下着に、「自分はトランスジェンダーだ」と意識させられてしまう。人目に見えないからいいとはいかないだろう。
というわけで、ファッショナブルで着心地もよく、それでいて服の一部となるような下着を自分で作ってしまおう、と昨年アパレルブランド「All Is Fair In Love And Wear(オール・イズ・フェア・イン・ラブ・アンド・ウェア)」を立ち上げた。
アーティストとして持つセンスやデザインスキルを生かし自らペンをとりデザインを手掛ける。素材は、動きやすく通気性があるもの、かつシンプルで美しいシルエットを崩さないものを使用し、知り合いのデザイナーたちとともにミドルウェア開発に取り掛かった。
ミドルウェアの出身地はアメリカの真ん中 カンザス州
「ミドルウェアの“ミドル”、実はアメリカの中央から誕生したから“ミドル”でもあるんです」とペレグリン。
ゲイフレンドリーなニューヨークでもゲイカルチャーの聖地サンフランシスコでもなく、アメリカ中西部のミズーリ州カンザスシティ。美大生のころからペレグリンが住む地で、この下着は生まれた。
そんなカンザスシティのLGBTコミュニティはというと…。
「カンザスシティにも素晴らしいトランスジェンダーコミュニティがあります。しかしながら残念なことにトランスジェンダーが被害者になる暴力事件も発生しているのが現状です」。
トランスジェンダーを受け入れるコミュニティが確かにありつつも、未だ絶えない差別意識が残る。ペリグリンは、トランスジェンダーが生活しやすい街づくりに加担したいと、ミドルウェアの売上金の一部をトランスジェンダーの啓蒙活動を行う地元の暴力反対プロジェクトやヘルスケアクリニックに寄付する予定だそうだ。
「この下着たちは“ランジェリー”ではありません」
ランジェリーという言葉が好きではないという。「ランジェリーというと、“商業的に女性らしさを強調するもの”とどうしても考えてしまいます。レースが施されていたりセクシャルな意味合いを持つもの」。ミドルウェアは、だからランジェリーではない。機能的で快適、そして同時に魅力的でいられる下着だ。
男性っぽい、女性っぽい下着を身につけているというだけで気分はきっと、いつもより晴れる。女性がとっておきの下着をつけたときに、なんだかいい女になった気持ちがするように。
ミドルウェアのいいところはそのナチュラルさだ。服の一部どころか体の一部のように馴染んで、どこまでも自然体でいることを許してくれる。体が自然なら、それは心まで伝わる。
今後トランス女性、トランス男性、双方の顧客の要望や声に沿って新しいジェンダーレス下着を展開していきたい、とペレグリン。
ひとりのアーティストが創りたいもの、それは男女のための美しい下着だ。
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All images via All Is Fair In Love And Wear
Text by Sally Lemon