マリファナもストーリーテリングと世界観へ。緑の葉っぱより、たとえば漂う宇宙飛行士で

そのブランディングの変化を、大麻関連プロダクトを専門に取り扱うスタジオと振り返る。
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効能、性能もそうだけど、「ブランドのストーリーを伝えることが大事」。これはいま、マリファナ関連のプロダクトデザインにもいえること。2019年まではもっぱら「緑!」だったが、合法化とコロナ禍をへて消費者も増え文化も成熟していったことから、ブランディングは多様化し、成熟している。
リラックスしよう、などというだけのコミュニケーションではない。ブランドのもつストーリーと世界観を伝えていく。

米国でマリファナ関連商品のブランディングを専門におこなうクリエイティブスタジオ「Studio Linear」に話を聞いてみよう。

合法化から。魅せ方はどう変わった?

宇宙飛行士をモデルにハイなトリップへと導くアートディレクション。吸引時の煙を彷彿させる、キュートなタイポグラフィー。…プロダクトの性能や推しポイントよりも、そのブランドがもつ「世界観」を表現するのは、もはやマリファナ関連のプロダクトも、だ。
「Studio Linear」は、2019年からマリファナやCBD関連商品のブランディングを専門に行う、女性創業の米クリエイティブエージェンシーだ。マーケティングにブランド戦略、ウェブデザインに製品パッケージ、タイポグラフィー制作までを幅広くこなし、一つひとつのマリファナプロダクトのブランドの世界観をビジュアル化している。

2014年、米国ではコロラド州が全米で初めて嗜好用マリファナを合法化。これを皮切りに現在、全50州中21州+ワシントンD.C.とグアムで合法的に嗜める※1。陳列棚に並ぶ関連商品はとにかく増えた。数年前まで、パッケージやウェブサイトのビジュアルは、まだまだ緑の葉っぱがドーン!や、タイダイをあしらったものなど、いかにもなものが多かったように思う。

2017年、創刊後に取材し取り上げた『Broccoli(元Kinfolkのクリエイティブディレクターが手がけている)』は、そこからいち早く脱し、丁寧な暮らし×女性×マリファナの世界観をビジュアル化した一例だった。
そして、現在。最近のマリファナ関連のプロダクトは、ただ吸うにしてもオーガニックな質推しが多いことや、もっぱらセルフケアやウェルネスとも結びつけているためか、ライフスタイルブランドと見間違う、というか、ライフスタイルブランドっぽく洗練されてきている。

Studio Linearがブランディングを手掛けたディスペンサリー※2のプロジェクトは、メイン州のデザインアワードで金賞を受賞した。昨年は、マリファナをインフューズしたノンアルコール飲料のブランドデザインを手がけ、世界最高峰の広告コンクールであるクリオ賞にてマリファナ関連のプロダクトのデザインで初受賞を果たした。

マリファナ好きで有名なコメディ俳優Seth Rogenのブランド「Houseplant」のソーシャルメディア用テンプレートデザインが直近の仕事だ。「彼も、IGで私たちを見つけたみたい。より多くの女性にリーチしたいからと、女性視点のクリエイティブなデザインを求めていると依頼があって」。

合法化以降、とにかくプロダクトが増える、マリファナ関連のプロダクト。この世界観をビジュアルにしていくデザインの仕事、気になる。

「学生時代にバンドをやってたんだけど、ステージに上がる前は不安や緊張を緩和するのによくマリファナを吸ってた。でも子どもを産んでからは産後うつや免疫低下を経て、THCではなくCBDを摂取するようになったんだ」。自身やライフスタイルの変化に合わせてTHCからCBDに移行したと話す、創設者でクリエイティブディレクター、そして2児の母であるAndrea Beaulieuにズームを繋ぐ。

※1:2023年1月時点。
※2:医療用・嗜好用大麻を合法的に販売する店。

HEAPS(以下、H):こんにちは。あら、外にいるんですか。

Andrea Beaulieu(以下、A):家のテラスにいるの。夫と子どもたちが映り込んじゃったらごめんね。

H:はは、それはそれで賑やかなのでOKですよ。いま住んでいるのは、フロリダ州ですよね。

A:うん。もともとメイン州に住んでたんだけど、半年ほど前にフロリダ州に越してきた。ちなみにメイン州では、マリファナは医療用と嗜好用ともに合法だけど、フロリダ州では医療用のみが合法※。州によって法的規制が異なるから、この仕事をするうえで把握しておくことは大前提。

※2023年1月時点。

H:そんなトリッキーな仕事を請け負うStudio Linear。2012年には始動していたんですよね。

A:うん。当時、私は朝から晩まで園芸に関する仕事をしていて。1歳だった息子を寝かしつけた深夜、キッチンで副業としてデザインビジネスをはじめたんだ。

H:園芸ですか。

A:植物とデザインが好き。いまのStudio Linearは理に適ってると思わない?

H:ごもっともですね。2018年には正式なクリエイティブエージェンシーになっています

A:これはねえ、夫に頼んで「彼が家事育児を、そして私がバリバリ働くスタイル」にシフトチェンジしてもらったことも背景にある。クリエイティブエージェンシーとして、あらゆる業種のクライアントと仕事が入るようになって。Google、Dropbox、ミュージシャンで俳優のNick Jonas、そのNick Jonas率いるポップ・ロックバンドのJonas Brothers。他にも飲食企業やライフスタイルブランドとか。

H:当時は一般企業と仕事をしていたんですね。2019年、初のマリファナ関連のクライアントを担当。それがディスペンサリーの「Garden Remedies」。

A:Studio Linearの製作をとても気に入ってくれて、向こうから「いまの大麻特有の典型的デザインを変えたい」と連絡があったんだ。当時、ディスペンサリーといえば“いかにも”なデザインが多くて。

H:黒い背景に緑の葉っぱがドーン!って感じのやつですね。

A:そういったデザインとの差別化を、とにかく切望していたの。ブランディングやパッケージデザイン、ウェブデザインにディスペンサリー内の壁画などを手掛けたこのプロジェクトは、メイン州のデザインアワードで金賞を受賞。
このとき初めてデザイナーとして誇りを持てたのと同時に、マリファナを扱うのクライアントと仕事をする情熱を見出したんだよね。



H:その流れで2020年には、マリファナ・CBD関連の企業専門のスタジオに舵切り。合法化もあって、グリーンラッシュが盛り上がりを見せていた頃ですね。いける、との確信が結構あった?

この受賞で初めてデザイナーとして誇りを持てたし、同時にマリファナ関連のクライアントと仕事をする面白さ、情熱を見出したんだよね。決断は、正直少し怖かった。クライアントだった大手アルコール会社を手放すってことは、安定した収入が保証されなくなるってこと。

H:ですよね。マリファナ専門=他からの仕事はとらない ですし、ダメだったからまた元に戻そう、というのも、シフトが極端ゆえ、そう簡単にはいかないでしょうし。

でもその頃、私自身が生活からアルコールを排除したくて。「自分の作品は人を助けられるのか、それとも毒であるか」と考えるようになった。それにアルコールより健康的なものを扱う方が、自分の子どもたちに胸を張れるしね。いまでは最善の決断だったって思う。

H:なるほど(マリファナはアルコールより健康的なものという認識がやはりあるんだなあ)。ちなみに、2019-2020年当時まだ“いかにも”なブランディングが飽和していたなかで、Andreaが早くから注目したマリファナ関連の商品やブランドって、あった?

A:「Miss Grass」と「Rose Los Angeles CBD」かな。この2つのブランディングは、もうただただ美しい。「Miss Grass」では実際にチンキ(生薬やハーブをエタノールまたはエタノールと精製水の混液で浸出した液剤)を購入したこともあって。この時に消費者として、そしてクリエイティブ業界にいる身として、パッケージに惚れ惚れしちゃった。大麻における“違う見せ方”を知った瞬間だった。

H:自分にとってのそれが、過去に取材したマリファナ愛好家向けカルチャー誌『Broccoli Magazine』でした。

A:私も初めて『Broccoli Magazine』を手に取ったときのことはいまでも覚えてる! クールでイケてて「これがマリファナ雑誌?」って驚いたもん(笑)。ちなみにいまStudio Linearでコピーライターとして働いているエレンは『Broccoli Magazine』のライターでもあるんだ。

H:やっぱり繋がるものですねえ。

A:『Broccoli Magazine』Broccoli Magazineを通してStudio Linearを知ってくれる人も多い。こうやって業界でコネクションができるっていいよね。

H:マリファナ関連のブランドが、ブランディングやビジュアルコミュニケーションをしはじめたのって、いつ頃だった印象があります?

A:個人的な観点から言うと、コロナ禍だと思う。パンデミックは命を脅かし、世界経済を停滞させた恐ろしい時間だったけど、同時に立ち止まって人生を見直す大切な時間でもあった。そこで新しくマリファナの業界に参入した人も多かったと思う。

H:ああ、そうですね。消費人口も、右肩上がりでしたね。マリファナをセルフケアとして取り入れる人、周りも増えていましたもん。ロックダウン中、米国の多くの州においてディスペンサリーは「不可欠なビジネス」に区分され、薬局や食料品店などと同様に営業していました。そして2021年の米国におけるマリファナの年間売上高は、2020年から43パーセント増えたという報告も。

A:事実、Studio Linearのクライアントの多くもコロナ禍で関係がはじまって。コロナ禍でマリファナ業界は大きく成長していたからね。

H:人生や生活を見直す時期に参入したマリファナ関連のプロダクトが「ライフスタイル」「ウェルネス」を意識したブランディングやビジュアルコミュニケーションを求めるのは、そりゃそうですね。

A:ストーナー(マリファナ愛好家、マリファナを吸ってハイになった状態)向けの“いかにも”なデザインが業界を支配していたなかで、マリファナ関連企業が「商品に付随するライフスタイルとしても定着させたい」と言いはじめたのがコロナ禍だった。消費者側も知識を深めた時期だから、企業側にそういった変化が起きたんだと思う。

H:実際にブランディングやデザインを請け負ううえで、一般企業とマリファナ関連企業とではどういった違いがあるんでしょうか。

A:冒頭でも少し話したけど、州ごとに法的規制が大きく異なること。一部の州では、結構クレイジーな規制があったりする。

H:クレイジーな規制!?

A:たとえば「マリファナ」の文字をパッケージ上で一番大きなサイズにしなければならなかったり、グラフィックを使用してはいけなかったり。

H:だいぶデザイナー泣かせな規制です。

A:あとはティーンズにアピールしてはいけないから、カートゥーンや動物を含んではいけなかったり。だからプロジェクト開始前に、クライアントの拠点である州や販売予定地域を明確にする必要がある。

H:はーなるほど。ティーンズは魅了してはいけないけど、21歳以上の若者(米国でマリファナ商品が購入できるのは21歳から)にはアピールすると。バランス感。

A:色や独自のフォントを駆使して遊び心を出して。制限がある場合は、カラーやタイポグラフィーといったデザインの別の側面を活かしてバランスを取る。これがティーンズを魅了しないよう願ってるよ(笑)

H:タイポグラフィーは、制限のかかる中ではキーになるひとつですね。マリファナコミュニティを繋ぐカルチャークラブ「PUFS」のものが特に印象的です。吸引時の煙を彷彿させるようなキュートなタイポグラフィー。

A:タイポグラフィーは、ブランドを表現しストーリーを伝える方法として、私たちが最もクリエイティブになれる分野の 1 つ。Studio Linearはみんなタイポグラフィーが大好きで、Slack(ビジネスチャットツール)にタイポグラフィーのインスピレーション専用チャンネルがあるくらい。




H:クライアント側も、自分たちの州の規制をわかったうえで希望を出してくる感じですか?

A:クライアントのほとんどが社内に(同分野に有識な)弁護士や法務チームを設けていて、彼らが規制や情報を共有をしてくれる。デザイン完成後は印刷屋にまわす前に彼らと擦りあわせをして、フォントサイズの規定やティーンズの安全を配慮したものであるかの最終確認を行う。こういった制限があるなかでバランスをとってデザインしなければならないから、なかなか難しい業界だと思う。

H:そうした限定された状況でありながら、昨年はマリファナやオーガニックCBDオイルを注入したノンアル飲料「Ganja Girls」のブランドデザインが、世界最高峰の広告コンクールであるクリオ賞にて、マリファナ関連のデザインとしては初の受賞となりました。おめでとうございます。

A:ありがとう。自分たちのやっていることは正しいんだと証明されたようで、この受賞はStudio Linearにとってとても大きな意味がある。

H:Studio Linearは、マリファナ関連のプロダクトの“世界観”をビジュアル化していると思います。近年のあらゆるプロダクトがそうであるように。
たとえばCBDオイルやTHC注入チンキなどを取り揃えるブランド「REBEL BLENDS CANNABIS」のアートディレクション。ノスタルジックなビジュアル、素晴らしいです。ブランドの世界観を作る際はどんなことに気を付けているんですか?

A:商品やブランドのビジョンにもよるけど、ブランドの背景にあるストーリーを知って、表現すること。
商品の特徴だけでなく、創設の理由やブランドの強みなど、もっと深く掘り下げる。そうしたバックストーリーを知ることが、ブランディングの出発点になることがよくあるかな。あとは、ブランドが生まれた土地やターゲットオーディエンスがいる土地を知ることで、カラーやイメージが想像しやすくなる。

H:マリファナも、もはや表でなく“バックストーリーテリング”なんですねえ。それだけ消費者も増え、文化もできてきたということだ。

A:同感。これって世間が自分の消費するものに注目し始めて、ブランド自体に興味を持つようになったからだと思うんだ。消費者はそのバックストーリーに共感したり信頼を寄せることで、購入意欲が湧くものだからね。

H:ふと、クラフトビールのデザインの流れを思い出しました。クラフトビールが増えていった頃、ホップや農場風景などのビジュアルは一切使わず、ビールであることを感じさせない商品のノリや雰囲気を伝えるラベルが一気に増えた(詳しくは取材記事「「毎週新しいビールに新しいビジュアル」」)。ブランドが増えていくからこそ、それぞれの雰囲気や意思、感情を伝えていくのは大事ですね。

A:あるブランドは生産するマリファナの花や葉に重きを置いているかもしれないし、あるブランドは商品で得られる感情を重視しているかもしれない。こうしたメッセージは、パッケージ上でしっかり伝えるべきだよね。



H:それ以外に、この業界でいま感じている流れの変化はありますか?

A:ブランディングについては、ストーナー向けだったのがライフスタイルブランドへと進化しているでしょ。そして業界については、いま新しい変化を感じてる。それがプラント・メディスン(治癒効果のある植物)。マッシュルームやハーブをブレンドしようとする動きがある。

あと、私自身も期待を寄せているのが、マリファナとサイケデリックの組み合わせ。来年はオレゴン州にとって大きな年になるんじゃないかと踏んでいる。

H:オレゴン州は、米国で初めてマジック・マッシュルームを治療目的で合法化した州です。事実、マジック・マッシュルームの幻覚成分シロシビンに「従来の向精神薬を上回る抗うつ効果」が見られたとの研究結果がありましたね。

A:今後(嗜好用での合法化など)、このあたりもどうなるかワクワクしてる。ちなみにStudio Linearは、サイケデリックの分野でも多くの企業と協力しはじめているんだ。その1つが、YAWN TOGETHER。

H:女性2人によって創立された、西海岸拠点のサイケデリック・カルチャー ブランド兼教育プラットフォームですね。ここも実は、取り上げる予定です。いずれまた、Studio Linearも取材させてくださいね。

A:サイケデリックを含め、今後マリファナシーンがどう変わっていくのか楽しみだよね!

Interview with Andrea Beaulieu

Andrea Beaulieu
Studio Linearの創設者でクリエイティブディレクター

Images via Studio Linear
Text by Yu Takamichi and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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