今週の金曜はただのカラオケじゃない。「ヒップホップ・カラオケ」だ。

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カルチャーとして根づく、「ヒップホップ・カラオケ」

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居合わせた隣の人と「ヒップホップ」の話で盛り上がり、誕生日パーティーでヒップホップが流れれば誰もが“完璧”に歌い合わせる。60代のママも軽快にリリックを口ずさみ。そりゃあ発祥の地だもの、アイデンティティ並みにヒップホップが染み付いているこの街で存在するは「ヒップホップカラオケ」。イベントとして、カルチャーとして立派に根づいているという。さっそく、金曜の夜遊びにと「ヒップホップカラオケ」へ繰り出してみた。

「ヒトカラ」なんてありえない。大勢の前で歌い盛り上げるがマイクの仕事

「カラオキ」こと、カラオケはここアメリカでも人気だ。誰もが楽しめる娯楽としてしっかり根付いている。ただ、多くのアメリカ人が思い描く「カラオケ」は、日本人の思い描くそれとちょっと違う。我々は「カラオケ=個室で仲間と楽しむもの」を想像するが、アメリカではオープンマイクスタイル。BARなどで、その場に居合わせたみんなの前で歌うスタイルが主流だ。マイクを握った者には「その場を盛り上げる役目」がもれなくついてくる。それを進んで引き受けて、楽しめるところが「アメリカ人だな」と、つくづく文化の違いを感じる。

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 さて、そんな背景をちょっと頭に入れて今回触れたいのが、ヒップホップカラオケというエンターテイメント。ヒップホップ発祥のアメリカはもちろん、英国やカナダなどでも、文化として根付いているんだとか。オープンマイクスタイルなので、「勇気」と「自信」さえあれば誰でも参加できる。その場でサインアップし、ステージにあがってラップする、という明解なコンセプト。だが、「分かる人にしか分からぬアンダーグラウンドな曲をふてぶてしくラップして自己満で終わる」なんてことは許されない。
 重複するが「マイクを握ったものは、その場を盛り上げる」のが流儀。よって、誰もが知っているような、イントロだけで「おお!」と思えるヒットチューンを選ぶのが鉄則だ。また、観客が、腰パンのお兄ちゃんと若いセクシーギャルだけだったらイケイケのDrake(ドレイク)でもいいが、基本的には、90年代〜2000年代初期の「よくラジオで聞いた」名曲がベター。

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ふいに魅せられた、HIPHOPカラオケの夜

 人並みにヒッピホップは好きだが、最近のヒップホップアーティストの写真を並べられたら、誰が誰だかわからない。その程度の私が、あえて今回ヒップホップの話しがしたいと思ったのは、どうしても誰かに話したくなるような、心を揺さぶるモノをみたからだ。

 ある日、近所に住む友人から「旦那のためにサプライズバースデーパーティーをやるから、もしよかったらきて!」と誘われた。彼女の自宅から1つ通りを挟んだ先にある、昔ながらの小さなバーを貸し切ってのパーティー。彼女の旦那さんは、長いドレッドヘアーが印象的な、生まれも育ちもブルックリンの35歳。そこに集っていたのは、旦那のお友人や母親、親戚など総勢30人ほど。「他人でも知り合ったらみんな家族」といった古き良き下町ブルックリンが垣間みれるアットホームな雰囲気だった。

 パーティーの演目は、「まず、カラオケ」。あとは自由に踊って騒ぎましょう、というラフなものだった。何も事情を知らされてない主役(旦那)が、ひょっこりバーに現れると、みんなで「サプラーーーイズ!」というドッキリ計画。

3・2・1、サプラーイズ!!!

 と、同時にカラオケスタート。曲は、90年代のヒップホップの名曲、A Tribe Called Quest(NY出身) の「Scenario(シナリオ)」だ。“♪ Here we go Yo, here we go Yo So what so what so what’s the scenario ♪ ” からはじまるこの曲。セレクトしたのは、なんとバースデーボーイの母親だった。ヒョウ柄のタンクトップがよく似合う、マイクを握った60代のママ。軽快なリリックを口ずさむ姿に会場が沸く。DJの流すトラックに合わせ、その後もマイクリレーは続く。マイクを渡された者は四の五のいわずにラップするしかないのだが、こりゃまたみんな上手い!示し合わせを練習したかのように、その場にいたみんなの間の手も完璧だ。
 同じ空間にいるのに、映画をみているかのような錯覚に陥った私。「なにこれ?ヒップホップしばりなの?」と、隣にいた男性に聞くと、「ああ、“ヒップホップカラオケ”だからね(当然でしょ?)」というリアクション。「なんだその暗黙のルール…」

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隣の人と「ヒップホップで盛り上がれる」街

 彼らにとってヒップホップは「好きか、嫌いか」などのレベルではない。生まれたときから慣れ親しみ、もはや彼らのアイデンティティと切っても切れないレベルのスペシャルな音楽なのだ。
 なんだろ、日本でいうところの「サザエでございまーーす」というイントロがくれば、「お魚くわえたドラ猫♪」であり、「空を自由に飛びたいなー」とくれば、「はーい、タケコプター♪」みたいな(違うか?)。だから、彼らにとって、「O.P.P」とくれば「Yeah, You Know Me?」が正解。正解であることに理由はない。(こちらも90年代の名曲、Naughty By Nature の『O.P.P. 』より)。

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 アドリブとは思えぬ彼らのあうんの呼吸に、私はただただ武者震いした。なんとなく居合わせた人々と「ヒップホップで盛り上がる」って文化、日本じゃ絶対にありえん。さすが、ヒップホップの発祥地だ。
 奇しくも、その日はスティービーワンダーのライブの日で、他の友人の多くはそれに観にいっていた。「チケットちょっと高いけど、スティービーだもん、見る価値絶対あり!」だと。だが、「お金さえだせば観れるスティービーよりも、こんな『ザ・ニューヨーク』と思える光景に出会えたことに、私は多大な価値を感じた!」と、パーティーに誘ってくれた友人に話すと「あんなのお遊びだよ。本物を観た方がいいよ」と、いわれた。
 本物?どうやら、ヒップホップ好きによるヒップホップ好きのための「ヒップホップカラオケ」は、イベントとして、また、カルチャーとして立派に根付いているものらしい。それで、その“本物”のヒップホップカラオケとやらを観に行ってみたというわけだ。

暗黙すぎてわからない。「金曜日のはダメ」のルール

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 結果からいうと、私が観に行ったヒップホップカラオケは、ハズレだった。みなそれなりにラップしていたが、マイクを握る右手に対し、ビートに合わせてリズムを刻もうとする左手のぎこちなさが気になって仕方がなかった。なんか、手首が変なことになっているしさ…。
 きっと、会場がウィリアムズバーグという土地柄(ヒップスターの街として知られている)のせいか、今回のレジャー施設のせいか、と疑ってみたが、どうやら問題はそこじゃないらしい。というのも、後日、前述の夫妻に「観にいったけれど、微妙だった」と感想を伝えてみたところ「金曜はダメ、土曜日にいかないと!」と笑われたのだった。

「それ、先に教えてよ…」と、落胆しているとこに、もう一撃。「ってか、『ヒップホップカラオケ、微妙だった』とか、レビュー書くなよ」と、釘をさされた。
「本物はスゴイんだから!」。そんなにいわれたら、また行くしかないな。次回、“土曜日の”ヒップホップカラオケ。

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Photographer: Kohei Kawashima
Writer: Chiyo yamauchi

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