南部テキサスがみせた「ストーリーのある服作りの極意」

Share
Tweet

グラフィックTシャツで問われるのは、デザインやアート性だけでなく、メッセージ性もである。伝えたいことをシンプルに分かりやすく、かつ独自の捻りを入れて落とし込む。ゆえに、単に「可愛い、カッコイイから」「新作をいち早く」着るというのもいいが、身に纏うことは「その思想に賛同します」「私も同じ考えを持っています」の意思表示であることも忘れたくはない。作り手と、古き良きストリートの流儀を大切にしたいと思うのだ。

No Grits No Glory Crew Neck

Tシャツから広がる会話

 私はバスキアのグラフィックTシャツを着ていると、よく見知らぬ人に「I like your T-shirt!(そのTシャツ、いいね!)」と声をかけられる。また、セサミストリートのキャラクターがプリントされたトレーナーを着ているときも然りである。なぜか。
 あくまでも個人的な考えだが、それは相手の『私もバスキア(もしくはセサミストリート)が好きです」という意志表示なんじゃないか、と解釈している。つまり、着ている私はバスキアの思想に賛同しているか、少なくともバスキアのファンであることが期待されているのだな、と感じるのだ。

IMG_0190_2

 ある日、友人が着ていたグラフィックトレーナーには、こんなメッセージが書いてあった。「No Grits No Glory」。Grit は「不屈の精神」「気骨」などと訳される言葉。「気骨なくして栄光なし」といったところか。土臭く、真っ正面から「ハングリー精神」な言葉である。が、価値観の揺らぎに翻弄されキナ臭い現代を生きる我々にも、突きつけられるものを感じた。

テキサスらしい、南部らしいは、この「服」から学べ

 さて、そのメッセージがどこのブランド発なのかが気になり、聞いてみると、「Grits Co.」という 「(アメリカ)南部テキサス州の黒人ファミリーのブランド」なのだそうだ。だが「南部らしいブランドだろ?」といわれて、正直ピンとこなかった。

“NYらしい”や”LAらしい”は、感じるものがあるが、米国南部らしいってなんだ?カウボーイか?
「知りたきゃ、この『Grits Co.』を調べたらいいよ」

Riding Dirty Short Sleeve Front

「Grits Co.」はReuben Levi(ルーベン・リーバイ)と、妻のToya(トヤ)が二人で営む「Mom and Popshop(家族経営店)」だ。はじめたのは2008年だが、当時はあくまで趣味に過ぎず、本格的に始動したのは2012年のことだという。
 Grits Co.は、ルーベンとトヤ、二人の愛娘が暮すテキサス州ヒューストンで生まれた。ヒューストンといえば、アメリカ航空宇宙局(NASA)のイメージが強いかもしれないが、「テキサスはミシシッピーのデルタに匹敵するブルースミュージックの故郷。古くは綿花の集散地として、また油田が発掘されてからは石油精製・石油化学産業の中心地と栄えた街」である。
 また、両親、祖父母世代もみんな南部出身だというルーベン。アフリカン・アメリカンとして南部で生まれ育ったことは、自身のアイデンティティはもちろん、ブランドにも大きく影響しているのだという。

デザインのインスピレーションは、「家族らが着ていた昔の洋服とブルースと昔話」

「僕の家族は代々、人種隔離制度のジム・クロウ法下で『黒人はお断り』とか、そういう看板が街のあちらこちらで見られた時代をハングリー精神で生き抜いてきた人たちなんだ」

 ブランドのマスコットのカラス(CROW)はジム・クロウ(JIM CROW LAW)法の「クロウ」にもかけている。ビンテージ調のタッチがユニークな「ROSCROW」という名のカラス。
聞けば、「僕は30-40年代に放送されていたポパイなど、昔の米国アニメが好きでそこからインスピレレーションを得た」のだそうだ。

Processed with VSCOcam with c1 preset
moonshine&mayhem_hoodie_2
DownHome

 そもそもマスコットにカラスを用いたのには理由がある。「カラスの持つ、黒くて不吉といったネガティブなイメージをポジティブに変えたかった。だって、カラスは本来、躍動感があって賢い動物なんだから」。と同時に黒いカラスに、黒人としてのアイデンティティも重ねている。「黒人は人間ではなく「モノ」。そうしてきたジム・クロウ法による南部のネガティブなイメージも払拭したかった。いまの南部はあの頃と違う。暗い過去をポジティブに昇華していきたい想いがある」

Sling Shot Grits

現存の約90%のストリートブランドは、“同じ”

 2012年に本格始動した同ブランド。以来、マーケットは拡大し続けている。 成長のきっかけは「ある人の助言」だった。ある人とは、米国で「ストリートファッションのパイオニア」と名高いAlyasha Owerka-Moore(アリーシャ)である。アリーシャはこういう。

「現存の約90%のストリートブランドは、“同じ”。アイデンティティを明確にしたり、自分自身の主張を持とうとするより、お互いの軌跡をなぞり合あう。サンプリングしかせ
服にプリントされたグラフィックロゴを取って、その上に他のブランドのロゴをのせてごらん。見分けなんてつかないだろ?つまり同じなんだよ」
 
 過去のアイコン的なものを縦横無尽にサンプリングだけして、自分流のリミックスができてない、つまり自分のテイストに落としもうとしていない、と指摘する。
 
 この助言にルーベンはヒントを得た。「南部のGritsとは何か」を多方面から熟考。「先祖たちは、ただ辛かっただけじゃない。40年代頃にはブルースがあった。それに、車に乗ったり、改造したり、家族や仲間とのバーベキューや食事の時間など、生活の中の娯楽も明日への糧、Gritsだったに違いない」
 この気づきが転機にじゃん。南部に脈々と受け継がれてきた“Gritty American Dream” のライフスタイルをサンプリングし、再構築してブランドに落とし込もう。

THe Levi's

 娯楽には世代や国を越えて人をつなぐ力がある。「面白いことに、僕と買い手だけではなく、Gritsブランドを買ってくれた人たち同士の間にも、様々なところで会話が生まれているようで」。たまたま道で会った人、またセルフィーをみた他州や異国の人たちから、「I like your shirt!」「I have the same Grits T-shirt!(おんなじGritsのTシャツ持ってるよ!)」と、Gritsブランドをきっかけに生まれる会話がある。そんなフィードバックが「嬉しくてたまらない」とルーベン。「Gritsトライブ(仲間)が育っている=Gritsスピリットが育っているってことだからね!」

 ブランドを調べることで、その土地の「らしさ」が分かる。なんとも新しい経験に胸を打たれ、さっそく私も「No Grits No Glory」トレーナーを購入。絶讃愛用中である。Gritsトライブなった今、私の心意気が「No Grits No Glory」であることは、言うまでもない。

Grits Crew Neck

Moonshine Zip Up Back

Grits Co. / weargrits.com

————————————–
All images Via Grits. CO
Text by Chiyo Yamauchi

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load