「オススメ商品はポイズンボトル。種類は大腸菌にガソリン、鉛もあるけど…私はヒ素が好きだわ」
なんのこっちゃと首をひねるのも無理はない。
むしろこれだけで何の店だか分かったあなたはド級のブルックリン通。
なぜならそこはまだ開いたばかり、つまりニューヨークでいま一番新しい「土産屋」。
もしやブルックリン産の大腸菌と中古車が垂れ流したガソリンと、それからヒ素でも売っているのか?ブルックリンならやりかねない…。
だーれも寄り付かない、嫌われ運河
恐らく面白半分のおふざけでやっていると思われる、ちょっと趣味の悪そうな土産屋さん。まず位置する場所が「とびっきりの嫌われモノ」…。ズバリ言ってしまうと、鼻もつまみたくなるほどの“全米で最も汚染された運河”の「真横」なのだ。
ゴワナス地区を申し訳なさそうに流れるそのゴワナス運河、「ブルックリンの産業を支える肝心かなめの動脈」として重宝されたときもあったが、それはもう随分と昔のハナシ。周辺のガス発電所からの長年にわたる産業性汚染物質なんかのせいで、あっという間に“全米で最も汚染された運河”の仲間入り。言い訳のしようがない汚染っぷりを見兼ね、水質汚染防止法が施行されたこともあった。が、むなしい程に変化はナシ。しまいにはスーパーファンド・サイト(廃棄物による汚染のため近隣住民の健康が脅かされている土地)に指定される始末。
なんでそんな嫌われ運河の隣に土産屋なんか…。「一体誰がそんなところにわざわざ土産を買いに行きたいのか」と思いつつウェブサイトをチェック。目に飛び込んできたのは半魚人のマスクを被った薄気味悪い男の写真。さぞかしグロテスク系の諸々が並んでいることだろう。
が。「いらっしゃい。ゆっくり見ていってね」
出迎えてくれたオーナーのUte Zimmermann(ウタ・ツィンマーマン)の爽やかな笑顔に、店に入って数秒、予想はあっけなく崩された。
センスが光る“嫌み”なお土産
「あれ、想像と違う。全然グロくない。というか、お洒落だ」
広々とした店内に丁寧にディスプレイされた商品の数々。そのラインナップは実にユニーク。続けて商品を紹介してくれたウタ。
運河の悪臭を皮肉った作品、人気フレグランス“Chanel N°5”をもじった“Canal N°5”(Canalは運河の意味)のポストカードに、
実際の科学調査で運河から検出された“ヒ素”や“細菌”がたっぷり詰まったボトル。(安心してください。中身は空です)
他にも運河から生まれたモンスターを題材に製作された架空の映画ポスターや、
「こんな運河で泳げるか!」と突っ込みたくなる水泳チームのTシャツ。
「どれもおもしろい商品ばかりですが、詰まる所、ゴワナス運河をバカにしているだけですか?」。単刀直入に聞いてみた。「もちろん皮肉って楽しませてもらっているわ。でも、ただおもしろがっているというより、貢献に近いかしら」
昨年10月、プライベートでのパートナーでもある共同設立者のJoel Beck(ジョエル・ベック)とともにこの「Gowanus Souvenir Shop」を設立。かつては産業化の残滓を留める冷たい鉄筋コンクリートの世界だったゴワナス地区も、時代の流れと共に着々とお洒落なアートスペースやライブハウスが増え、悪評を払拭するかのように劇的な変貌を遂げている。ゴワナスに住みながらその変化を肌で感じていた2人にとっては、この場所で店を構えたのはそんなに変哲なことではなかったようだ。
土産屋、兼みんなのダベリ場
「ビルの大家が『まずは様子見で』と、3ヶ月の試験期間を与えてくれて」とはじまり、結果は大反響。すぐに延長願いを出し、そのユニークなコンセプトゆえ、オープンと同時にその人気は瞬く間に広がった。
現在取り扱っているのはすべて“ゴワナスのみ”に特化した、30以上の地元メーカーと地元アーティストの商品のみ。「地元のアーティストへのサポートにも焦点を当てている」というのにも納得のラインナップだ。なかにはゴワナスの歴史を辿る書籍、お店や工場の看板だけを撮ったフォトグラファーの写真集、ハンドメイドのソープやプレートなどの“真面目なお土産”も豊富に揃う。
「アーティストもそうですが、コミュニティのプラットフォームにもなれたらと思ってるんです」。開放感のある店内は半分がお土産スペース、もう半分がギャラリースペースといった間取りで、最終的にはミス・ゴワナス(実際過去にあったらしい)や催し物スペースとしての活用も視野に入れているそうだ。
「Gowanus Souvenir Shop」は利益を目的としたビジネスだが、同地区にある非営利団体への募金活動も計画中とのこと。なるほど、地域の活性化にも一役買っているというわけだ。
ニューヨーク旅行を考えているあなたに朗報
変貌をとげているとはいえその汚染っぷりは想像以上に深刻で問題山積みのゴワナス運河。しかしこの悲劇的な現状をうまく逆手に取り、喜劇的ユーモアで上手くビジネスを構築した「Gowanus Souvenir Shop」にはアッパレだ。オープンからわずが4ヶ月ながら、今では地元アーティストのプラットフォームとして、なくてはならない場としてコミュニティから愛される。
こういうローカルのデザイナーがつくり、ローカルから発信するといった類いの店はホットだし、リアルだ。何を買うでもなくふらりと立ち寄り、なんとなーく世間話をしているだけで刺激や情報をもらえる。衰え知らずの日本のブルックリンブームだが、観光本に載ってないこういうコアな店に足を運ぶのも旅の醍醐味ではなかろうか。
そこで美味しいお知らせ。卒業旅行シーズンでもあり、ニューヨーク旅行の計画を立ててる日本人も多いはずと話すと「じゃあ『HEAPSを見た』っていってくれたお客さんに、何かプレゼントしちゃうわよ」と、太っ腹な提案を持ち掛けてくれたウタ。
「I read HEAPS(ヒープス読んだ)!」でヒ素ボトルがもらえるかも。
The Gowanus Souvenir Shop
543 Union St, Brooklyn, NY 11215.
—
Text by Yu Takamichi edited by HEAPS
Photos by Tetora poe
—