「得意なのは子どもを産むだけ」。スラム少女たちはITで人生を変えられるか?IT教育革命「GirlsCoding」

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「テック」「IT」「プログラミング」。
これら職業に就く人々をイメージしたときに思い浮かべるのは、男性ではないだろうか。

まだまだ男性優位のIT業界に対し、昨今アメリカでは「サイバーフェミニスト」ムーブメントも起こり、「Deep Lab(ディープ・ラボ)」や「Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)」、「Black Girls Code(ブラック・ガールズ・コード)」などの団体が女性のIT業界進出に向け支援活動している。

そんな中、地元の子どもたちにITスキルを無料で教えるプロジェクトが昨年末、新たにスタートした。場所はテクノロジーの中心地シリコンバレーでもなく、IT産業に強いインドでもない。
アフリカはナイジェリアの旧首都ラゴス。生徒はスラムに生きる少女たち。

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スラム少女たち、ITスキルを学ぶ

 高層ビルがそびえ立つ大都市ラゴスの中心街。アフリカ大陸ではカイロに並ぶメガシティのとあるコミュニティセンターには毎週土曜日、10歳から17歳の少女たちが通ってくる。彼女たちがやって来て帰って行くのは、近隣地区「Makoko(マココ)」。ラゴス最大級のスラム街だ。

 センターでは、午前10時から午後4時まで、マイクロソフトオフィスやコーディング、プログラミング、アニメーション、グラフィックなどの実用的なITスキルの授業が実施されている。

 少女たちの先頭に立って教えるのは、Abisoye Ajayi(アビソイェ・アジャイ)。
 ナイジェリアのスラムに生きる少女たちにIT教育を与えるプロジェクト「GirlsCoding(ガールズコーディング)」創設者で、31歳の若きITウーマンだ。

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郊外の少女がITウーマンになるまで

 アビソイェが生まれたのは、南西部にあるオンド州アクレ。大都市ラゴスから5時間ほど離れた郊外の街である。

 はじめてパソコンに触れたのは12歳の夏休み。兄に勧められて、パソコンを開放している市のセンターに行ってみたときだった。「当時わたしの街ではインターネットは“贅沢なもの”。センターでは、キーボードでタイプを練習したり、マイクロソフトのワードやエクセル、パワーポイントをいじっていました」。テックワールドにすっかり魅了されたアビソイェは次の夏もそこで過ごすように。

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 15歳のとき、暴力的な父から逃れるようにしてラゴスへと移り住んだ彼女は、初めてインターネットに出会う。その後も本格的にITスキルを身につけようと、ラゴス大学でプログラミングとデーターベースを学んだほか、IT会社で研修生としてコーディングやマイクロソフトのプログラミング、オラクルのデータベース管理システム、グラフィックの技術を習得、そしてその会社でITコンサルタントとして勤務した。

「グラフィックにしてもプログラミングにしても“何もないところからなにか新しいものを作る”というコンセプトが好きです。コーディングしているときやバグを解決しているときにこう思うんです。『不可能なことは何もない』って」

ITが女性に与える“力”

 ITまっしぐらのキャリアを積んでいたアビソイェ。そんなある日、手伝いをしに行ったIT関連の研究会であることに気づいた。それは参加女性の数があまりに少ないこと。
「参加者リストを見ていたのですが、40人の男性の中に1人しか女性がいませんでした」

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 IT業界への女性進出が遅れている。この問題点に気づいたアビソイェは「IT業界に進出することで女性が社会的・経済的に自立すること」を目指し、2012年にNGO団体「Pearls Africa (パールズアフリカ)」を設立した。

「IT業界の市場は大きくなり続けています。時代はデジタル、テックですから、雇用も増えています。それにインターネット環境がありさえすれば、結婚して子どもを産んでも家で仕事ができますしね」

スラムに生きる女性たちの真の姿

 女性に力を与えるには幼いころからの教育が大切だと信じる彼女は、昨年の11月、ナイジェリアの米国大使館協賛のもと、ガールズコーディングを立ち上げた。その1ヶ月後には「経済的に恵まれていない少女たちにIT教育を与えたい」と、ラゴス最大級のスラム街マココを視察しに訪れる。

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「マココにはその時はじめて行ったのですが、そこでの人々の暮らしを目の当たりにして愕然としました」

 マココは水上に浮かぶスラム街。10万人以上もの人々が海沿いの水辺に違法な住居を作り、漁業を営み生活している。
 テクノロジーの普及も遅れており、先進国のような誰もがパソコン、スマートフォンを所持する暮らしとは程遠い。

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 そして次に目にしたのは、マココの女性たちの送る生活。
 一夫多妻のため、妻を5人、子どもを7人持ちながらも、職につかない男性や稼いだお金をすべて酒につぎ込んだりする男性も多い。そんな彼らの元で抑圧され生活するしかない妻たち。親の家事や家業の手伝いのために学校を休む子どもたち。14歳で妊娠してしまった少女。識字すらできない姉妹。
「得意なのは子どもを産むことだけ」。多くの少女たちがそう思っていることを知った。

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「それが彼女たちの日常生活だったのです。彼女たちにとっては当たり前のことですが、私たちにとってはまともではありません」

 ラゴスの中心街から徒歩で20分、車で5-10分しか離れていない場所にあった“女性が力を発揮することができない世界”。アビソイェは、コミュニティを自分の足で周り、子どもたちの親や地域の年長リーダーたちに、このプログラムを紹介し、いかに少女たちに大切なものかを説明し参加を促すことにした。

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「『教育とは、子どもたちに与えることのできる一番大事なもの』ということをスラムの親たちに“教育”しなければならないのです」とアビソイェは語る。

女性による女性のためのIT教育

 マココのコミュニティ内でガールズコーディングのことが知れ渡り、いまでは毎回のクラスに24人ほどがやってくる。姉妹や従姉妹と一緒に来る子や友だちを誘って来る子の姿も。

 子どもたちが夏休みにはいった今月末からは20日間の夏期集中講座を開校。デジタルリテラシー(マイクロソフトワード・エクセル・パワーポイント)やウェブページ作成に欠かせないHTML、HTML文書の表示やデザインを指定するCSS(カスケーディング・スタイル・シート)、グラフィック、ロボット工学などの授業が用意されている。

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「HTMLはみんなのお気に入り。ですがこの前Java(プログラミング言語の一種)を教えようとしたら、みんな難しくて好きじゃないって(笑)。反対に人気があるのはロボット工学。床の上を動くロボットを作ったときはみんな興奮しまくりでした」

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 飲み込みが早く他生徒よりもスキルをいち早く習得した生徒では、いまでは他の生徒に基本的なウェブサイト制作やHTML編集を教えられるレベルになった者もいるそうだ。

「生徒たちが授業でスキルを身につけて仲間同士で教え合っている。その姿を目にするのが何よりも嬉しいです」。新しいことを学び課題を達成することで、自分に自信を持てることも重要だという。

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 ガールズコーディング、講師も基本的には全員女性。
「意図的に女性だけのプログラムにしました。男性講師が教えると少女たちは“女性がテクノロジーに携わること”への興味を失ってしまいます。彼女たちにはプログラマーやエンジニア、リサーチャーなどIT業界で働く女性をロールモデルにしてほしいのです」

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 またインターシッププログラムも開始、アビソイェは自身のコネクションを生かして企業にインターン受け入れを交渉。現在は2人の生徒が現地のIT企業でインターンをし、データ入力などの業務を行っている。

「女性」「有色人種」「貧困」というマイノリティグループに当てはまるスラム街の少女たち。その彼女たちの背中を押しはじめたのは、日々躍進し続けるテクノロジー社会とITスキルを身につけ自活するアビソイェをはじめとする女性のロールモデルたちだ。

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All images via GirlsCoding
Text by Risa Akita

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