2011年頃から突如現れはじめ、いまではニューヨークの街中のそこここに出没する“いつも同じ顔”の生き物のグラフィティ。ぬっと佇み、どこから見てもなぜか目が合うような気がする。
サボテンかと思いきやApe(猿)らしく、“Frank(フランク)”という名前まであるという。フランク、一体何者?
生みの親はブルックリンはブシュウィック・エリアのアーティスト、Brandon Sines(ブランドン・サイン)。スタジオへ押しかけると、ちょっと二日酔い気味だったが快く迎えてくれた。
ー“Frank(フランク)”って2011年頃にニューヨークの街中で発見されてから、いまでは本当に色々なとこで目撃されています。
実は僕のアパートにもほとんど壁に同化したフランクがいまして…。フランクってどんなヤツ?簡単に説明してください!
Brandon(以下、B):オッケー。フランクは、まず「Ape(猿)」。“何なんだ?”という第一印象を持つ人は多いね。猿にしたのは、やっぱりシンプルだし僕たち人類の“原型”だから、「僕であり、君」で“誰でもある”んだ。だから「誰にでも、何にでもなれる」し、誰もが何かしらの共感を持てるものだと思ってる。グラフィティを見ても分かるように、ある日はマリリンモンロー、違う日はタイガー・ウッズ。ビヨンセにだってなるしね(笑)明後日は一般人になってるかも。とにかく、何でもなれるんだ。そして、とにかくポジティブなやつだよ。
via @frank_ape
ーちなみに、“Frank(フランク)”って名づけた理由は?
B:実は2011年の描きはじめには名前をつけてなかったし、つけるつもりもなかったんだけど「名前、なに?」と聞かれることが度々あって、その場で思いついたんだよ、フランクって。結果すごくぴったりな名前だと思うけどね。フランクって、かなりユニバーサルな名前でしょ。
ーなるほど。読みやすいし、呼びやすいし覚えやすいですね。ブランドンはフランクを通して人間のやりたいことを表現しているのでしょうか?いろんなシーンのフランクがいますよね。あと、表情が大体同じなのは何か狙いが?
B:そうだね。みんなだけじゃなくて、僕自身がやりたいことも表現してるよ。僕はスケート好きだけど、あんまりうまくないんだ。でもフランクはカッコよく乗りこなしてるよね(笑)。
いつもは大体似てる表情なんだけど、最近はちょっとずつ変わってきてて。新しいものは時々ちがう表情をしてる彼もいるんだよ。ちょっとした違いがあるんだよ、目をつぶってたり、ちょっと笑ってたり。
ーなんだかコアラのマーチみたいですね。でも確かに、フランクが「いつもポジティブ」な印象がつくのも、どういう状況にいてもオーバーな表情じゃないからこそかもしれない。
マイリーサイラスのコンサートで周りのみんなが興奮してる中、彼だけ無表情なのはすごいですけどね(笑)
B:そうそう!ただ、同じように見えても、角度も違えば描く時の線の太さを調節して毎回フランクに魂を注入してます!だから、無表情に見えても、なぜだか楽しんでる様子が伝わると思う。無表情だけど、退屈してるようには見えないでしょ。
ー確かに。ちょっとハロー・キティ的なところがありますね。いつも同じ表情だけどマイナスなイメージがないし、なんにでもなれてしまう、という。
B:キティちゃんに関しては、キーホルダーにもTシャツにも、カバンにも本当に何にでもなってるから。フランクもそなれたらいいなって。これは僕の目標だね。
ーそこに女の子に囲まれてるフランクの作品があるけど、フランクは女の子が好きなんでしょうか。
B:もちろん彼は女の子が好きだよ。でもそれ以上に女の子が彼のことを好きだよね!そして、もっと言えば女の子が好きというよりは誰もが好きで、誰からも好かれるのがフランク。アメリカで同性婚が認められたときに作った作品があるんだけど、それは、二人の男性と二人の女性が手を繋いでる真ん中にフランクが立っている。レインボーアーチをその背景に描いた。だからそういうこと。男とか女とかじゃなくて、誰からも好かれるのがフランクだし、フランク自身もみんなのことが好きなんだ。
ーフランクを描くときのプロセスは?あまり下書きをしていないイメージがあります。
B:そうだね、あんまりしないかな。ストリートに描くときは短時間で仕上げないといけないし、それに細かいミスがあっても、それはそれでフランクっぽくていいかなって思ってる。失敗もフランクの自然体によく合うんだ。
ーストリートで見るフランクはブラック&ホワイトが多いですよね?でも実際はブラウン。
B:そうそう。みんなフランクはブラック&ホワイトがだと思ってるよね。フランクを世の中に広めるに当たってバッドマンやパンク・ロッカーに彼を変装させたステッカーを貼ったり、彼の真顔のグラフィティー描いたりするときにblack and whiteの方がストリートアートっぽいと思って。それにブラック&ホワイトは、ポップストリートアートの代名詞でもあるからね。
via @frank_ape
ーそういえば、2011年にニューヨークに来る前はどこに?
B:カナダのトロント。
ートロントにいる時から、アーティストとして活動していてニューヨークにきた、と。
B:ううん、全然!その時は、音楽に夢中でラップしてたよ。友達とユニット組んで、アメリカとカナダを行ったり来たりしてて、それはそれなりに楽しかったんだけど。みんなで色々ハッチャケ過ぎちゃって(笑)法律上アメリカとカナダの往復が出来なくなりそうだったし、それじゃツアーも組めないって訳で、辞めてニューヨークに来たって訳。
(ニューエラを被り細いサングラスを掛け、”ガンを持つ手が震える!”みたいな内容のラップをしていたようです。※ガンを手にした事は一度もないようです(笑))
ー若気の至りってやつですね(笑)。子どもの頃から絵を描くことが好きだった?
B:イエス!ちっちゃい時はアニメが好きで、ずっとアニメのキャラクター描いたりしてた。
特にグレッグ・カプージョが大好きだったね!(バットマンの作者)。彼の作品って、暗い色がベースで、建物の描写が凄く細くて。だから以前の僕の作品はそういったテイストのものが多かったよね。今は真逆。とにかくシンプルでポップな色が多いよね。
ーそういった絵を学ぶために特別に学校に行ったり?
B:そんなことしなかった!絵を学ぶために特別に学校に行ったとかそんなことはなく、全部独学。
ーなるほど。引っ越してきてアーテイストとして活動しはじめたということですが、どういうきっかけでアーティストとしてのキャリア活動をはじめたんでしょう?
B:こっちに引っ越してきて、しばらくして初めてアートショーに参加したんだよ。そのきっかけが面白くてさ。近所で飲み歩いてたら、偶然ある女の子と仲良くなって。会話も弾む弾む。まぁお互い酔っ払ってたしね(笑)。で、彼女が『誰か絵描いたりしてる子知らない?』と。で、『おれおれ!俺、やってるよ!』。
蓋開けてみたら、その子も絵描きで、ブシュウィックにあるLoom(昔は工場だった巨大な建物)にペイントすることが決まっていて、そこで一緒にペインティング出来る人探してた、と。で、その日中に、話がトントン拍子でまとまって実際一緒にアートショーをしたんだ。それが、初めてのキャリアかな。でも、その時はまだ“フランク”もいなっかったし、アーティストとしての活動なんてしたことなっかったよ(笑)
ーその偶然からフランクに繋がっていったんですね、その女の子に感謝です。ところで、実際にストリートでグラフィティー描いたりしてる時に逮捕されたことは?
B:一回だけ。
ーほう。ちょっと詳しく教えてください。
B:ステッカーを街中に貼ってるとこ見られちゃって(笑)。まあ実刑とかは無かったし、罰金とかも無かった。ただ、マンハッタンで1日ゴミ収集しないといけなかったよ。でも、実はそこでも面白いことがあって。
その日たまたま、もう一人同じ状況で捕まった少年がいたんだけど、その子がどんなグラフィティー描いて捕まったんだって聞いてきたから、フランク見せたんだ。そしたら『お前がフランクかよーっ!』って。そんなこともあったよ。
ーそんな状況でもフランクが出てくるとは。捕まったことも忘れて和みますね。
B:うん。でもさ、来年の1月で30歳になるんだ。あんまり悪いことしちゃダメだよね(笑)もっと有名になってメイクマネーしないと!
ーこれからのブランドンとフランクの活躍期待しています!ブランドンがブルックリンのポップアートを担っていると思いますし、次世代のキースヘリングだと思っていますから。
B:オーマイガー!それは最高の褒め言葉だよ!彼は僕の目標でもあるからね。ありがとう!
Brandon Sines
Instagram/@frank_ape
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Photographer: Kohei Kawashima
Interview: Yoshi Stoop
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