筆者が「カドル・パーティー」、見知らぬ人同士がパジャマを着て集まり、ただただ抱き合うというイベントの存在を知り、その主催者「カドリスト」を名乗るアダムという男性に会い、イベントについて色々聞いてみた話は2週間前にしたと思う(詳しくは記事<前編>へ)。
セックスはNG。カドル(=抱き合う、抱っこ)と、純粋にぬくもりだけを求める人のために行われるそのイベント…。
アダムは一を聞けば二十返してくれる人だったが、やはり“百聞は一見にしかず”。ということで、4月2日土曜18時半(そう、つい昨日ですよ!)、参加してみたのだ。
参加者はまさかの30人越え
アダムが提供してくれた実際のカドル・パーティーの写真
さらっと、参加してみたと書いた筆者だが直前までかなり悩んだ。だって、「男女比」もわからなければ人数もわからないし、さらには恐らく自分と偶然隣り合った人とカドルすることになるのだが、これって“合わない”人だったら地獄の時間になるじゃないか…?
開催ビル近くのスターバックスの前を何度もか行き来したが、前編で「2週間後、行ってきます!」と書いたからには行くしかあるまい。自分を奮いたて、やっとビルのエントランスをくぐったのは開始3分前だった。
会場のドアを開けてみると、「あれ?思ったより明るい…」。そこは多目的ホールのような感じで、窓がいくつかあり陽が差し込んでいる。広さは15畳くらいだろう、ブランケットが敷き詰めてある。
時間ギリギリだったためかすでに参加者のほとんどが集まっていた。33人もいた。まず、驚いたのが「参加者の年齢層が割と若い」こと。アダムの話から年齢高めと予想していたが、平均30代半ばだろう。男女比も6:4。好青年、美人なお姉さんもいて挨拶も社交的。「あなたは、なぜここに?」という思いが込み上げる…。
「ここでは、誰もあなたを否定しません」の雰囲気
とりあえず空いていたスペースに座ると、すぐに隣の人たちが話の輪に入れてくれた。全体的にピースな雰囲気が漂う。何を話しても、笑って頷いてくれるような…。参加者の半分はリピーターらしい。
開始時刻の18時半がすぎて30分くらいしてだろうか、「はい、じゃあみんなこっちを見て」とアダムの号令が部屋に響いた。
ここでアダムのスピーチ。内容は彼の自己紹介とカドル・パーティーの趣旨とルール。そこから一人ひとりが順々に自己紹介をしていく。
「もうずっと独り身で、誰かのぬくもりが必要なんだ」
「私は人と触れ合うことが好き。とても素晴らしいことだから」
「僕は女性とつき合ったことがなく、人と触れ合う練習になればと思って…」
素直すぎやしないだろうか。こんな感じで、皆正直に「なぜカドル・パーティーに参加したのか」を述べていく。いい年して誰ともつき合ったことがない、妻と触れ合っていなくて、なんて大勢の前では言いづらくないのか?
と思っていると、筆者の隣は例外だった。「大手銀行に勤めていて、友だちに誘われたんで!今日が初めてです〜」とプライドお高めそうな男性。よりによって隣が…。ここにいる人たち、こんなこと言われてどうなの?と思うも、「そうなんだ、よく来たね」という微笑みを浮かべて拍手。
アダムが繰り返す「ここでは、否定的なことは何も言われません」が効いているのだろうか。自己紹介と談笑が終わると、「それじゃあはじめましょうか」。いよいよだ…。
カドル前の3段階
すぐにカドルがはじまるのかと思えば、ウォーミングアップの3段階があった。
1、隣の人とペアになり、A「キスしていい?」B「嫌です」という問答をする。これは、「NO」と断る練習であり、実際にカドルを求めれた際に断りやすい雰囲気を作るため。
2、全員その場に立ち、隣や近くの人と抱きしめ合う。時間は30秒。
3、4人グループになり、「どんなカドルが好きか、嫌いか」についてを話す。これはそれぞれの、して欲しいこと・欲しくないことを事前に把握するため。それを終えたら、4人で寝っころがってみる。
筆者はというと、先ほどの大手銀行ではないもう一方の隣の人とペアになった。年は30後半の男性で、「靴下の裏が真っ黒」ということを除いては、穏やかで好感の持てるいい人だった。
3段階を終えると、「それじゃあ話したい、触れ合ってみたい人と自由に時間を過ごしてください、フリースタイル・カドルタイムです」とアダム。
その前にカドルパーティーでの重要ルールを全員でおさらい。
・無理に「カドル」しなくてもよい
・誰かに触れる前に必ずその人から「口での明確なYES(承諾)」をもらうこと
・オファーがいやであれば「NO」ときっぱり伝えること
・NOと言われたら無理に抱き合おうとしない
・清潔を保つこと(ブランケットの上でお菓子を食べない、等)
「全員カドルしなくはならないわけではないので、嫌な人は断ってください。また一度OKしても嫌だと思ったらいつでも断ってください」とアダムが念を押した。ちらりと時計を確認する。19時45分。あと1時間45分もある…。
一人、瞑想スタイルへ突入
それぞれが近くの人と話はじめたり、肩のマッサージからと、段階を踏みながら相手を探っている感じ。筆者はといえば近くにいた女性に、「ねえ、スプーンしない?」と唐突に誘われ、スプーン? なんだろうと思いながら、「う、うん」と承諾。
「じゃあ、ここに寝っ転がって!」と言われ恐る恐る横たわる。すると「スプーンがいい?それともスプーンされる方がいい?」と聞かれ、筆者、早くも困惑。
「(やり方わからないし)される方かな?」と言うとその女性も横たわり、後ろから抱きしめてきた。
つまり、スプーンとは、重ねたスプーンのように同じ方向を向いて片方が後ろから抱きしめる、というものだった。
ギュギュギュ、っと遠慮なく抱きしめてくる彼女。数分でしんどくなり、トイレに行きたい、と筆者、逃げた。
戻ると今度はさっきの大手銀行…。絶対に嫌だ、と思い目が合ったが気づかないフリをして「瞑想スタイル」へ。座禅はできないので体育座りをして、頭を起こした状態でとにかく目を閉じ続けた。銀行が遠のいたことがわかり、薄眼を開けて周りを観察してみた。
セクシャルなことは″一応″ナシ
だいたいが気に入った相手と二人でカドルをしている。横たわり、かなり密着している組もいれば、ただ手を繋いで仰向けになりゆったりとおしゃべりを楽しむ組。
「女性に慣れたい」と言っていた男性も、きちんとパートナーを見つけかなり密着した体勢でカドルしていた。
セクシャルなことは一切なし、とあったが、キスをする者も数人いた。相手からのOKをもらえば、キスまでなら問題がないようだった。
さて、もちろんのことパートナーが見つからない人もいるわけで…。そういう人は、すでにカドルしている組に混ぜてもらい、複数でカドルしていた(ジョインしていい?と聞かれた組は100%承諾していた)。
筆者にはかなり長い時間だったが、「あと5分です。そろそろ輪に戻りましょう」とアダムがいうと「あと5分だって!?早すぎるよ!」と嘆いていたのは隣の組。50代の男性ともうちょっと若めの黒人女性の組で、最後はキスをして残り時間を慈しんでいた。
それぞれカドルから起き上がって再び大きな輪に。名残惜しそうにする人たちを見ると、これって、カドル・パーティーが終わったあと余計寂しくなったりするんじゃないの?と思ったが、すかさずアダムが「今月末もまたありますよ」。明らかに何人もが安堵の表情を見せていた。
予定通り、21時半に一応解散の号令があったが、「ここで終わりますが、もう少し話したいという人は出かけてもいいですね」と促す。何人かは、食事やバーに行く約束をしたり、連絡先を交換している人も多かった。
ぬくもりだけを求めてカドル・パーティーに参加する人ももちろんいると思うのだが、やはりその後の繋がりまで期待している人が多かったように思う。自己紹介でそれぞれが正直に思いを吐露しているから、つき合いのハードルも下がるだろう。NOと断る、断られるセッションも体験しているから、お誘いもしやすそうだった。
「『こういうふうにカドルして欲しい』と今回のパートナーに伝えることができて『人に甘える練習』ができました」とアダムに話している女性が印象的だった。
「誘えた、甘えられた、正直な気持ちを伝えられた」。それは実感となって、それぞれが帰っていく日常でもある種の自信となって作用していくのかもしれない。
その日の温もりという一過性のみに留まらない効果に、こういうイベントがあってもいいじゃないか、アダム、あっぱれと心の中で拍手をして、その場を後にした筆者だった。
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Text by Tetora Poe