俺と彼女と、子羊のスモーキーと。

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ーラムをserve(提供)せずにsave(救う)したシェフ

Smokey the Lamb in the City

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これは、とあるレストランのオーナーシェフのサンディーと彼女のマキシーン、そして、子羊のスモーキーのお話。二人が母羊に捨てられた生まれたての子羊と出会い、「スモーキー」と名付け、育てた3ヶ月間の記録だ。

冬のある日、サンディーは食材の仕入れのため、いつものようにニューヨーク州のアップステートにある牧場へと足を運んでいた。

すると、牧場主は、「また、母羊が産み落とした子供を拒んでいて…」とこぼした。

この日、サンディーが出会ったのは、生まてたった数日の小さな小さな子羊。オムツをつけてヨチヨチ歩くその子を抱きかかえると、腕の中にすっぽりと入った。そして、驚くほどに軽かった。

「数日前に母羊に捨てられて、雪の中で凍え死にそうになっていたんだ。救助したけど、あと一週間生きられるかどうか…。育てる人手も足りないし…」と、顔を曇らす農夫。

「心配しないで。俺が育てるよ」。サンディーは、子羊を引き取ることを決意した。

その日から、ブルックリンの自宅アパートで、サンディーと彼女のマキシーンと子羊の共同生活ははじまった。二人は、1.5キログラムにもみたない、ちいさなちいさな子羊を「スモーキー」と名付けることに。

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“Hey Smokey, Come here (さあスモーキー、ミルクの時間だぞ)”

 人肌にあたためたミルクを哺乳瓶で飲ませてあげるのが日課。
「犬や猫は、皿にご飯を盛って『どうぞ』ってかんじだけれど、この子は私たちの手でミルクを飲ませてあげなればいけないの」とマキシーン。
「まるで、人間の赤ちゃんのようにね」

 サンディーとマキシーンは、ブランチやお出かけのときにも、いつもスモーキーと一緒だった。すれ違う人々や居合わせた人々、みんなをたちまち笑顔にしてしまうスモーキー。「可愛い!写真撮らせて!」と、瞬く間に街の人気者に。そうして、サンディーとマキシーンが気づかぬ内に、スモーキーはインターネット上でちょっとしたセレブになっていた。

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そんなある日、警察からサンディが経営するLESのレストランへ一本の電話が。

「ニューヨークシティで羊をペットとして飼うことは違法なんだ。君の気持ちはわかるが…、キマリはキマリなもんでね」

別れの日は突然やってきた。

今、スモーキーはどこで、どんなふうに過ごしているのだろう。「スモーキーと過ごした時間は、かげかえのない想い出」と振り返る二人。今なにを想うのだろう?サンディーとマキシーンにコンタクトを試みると、すぐにメールを返してくれた。

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― さて、今、スモーキーはどこに?

アップステートの牧場で、他の羊たちと元気にやっているよ。そこは家畜としてではなく、動物としてちゃんと育ててくれる環境だから、僕らも安心しているんだ。先日、会いに行ったんだけれど、スモーキーは僕らのことをまだ覚えていて。嬉しかったね。けれど、やっぱり一番の喜びは、人間に育てられたスモーキーが、ちゃんと他の羊たちと“羊らしく”共存している姿をみれたことかな。

― 人間とも仲間(羊)とも繋がりを持てるスモーキー。立派に育ちましたね。ところで、ニューヨークシティでは、子羊をペットとして飼えないなんて知りませんでした。

そうなんだ。僕らも言われるまで知らなくて。連れて帰った当初は1.5キログラムにもみたなくて、小型犬よりもずっと小さかったんだ。おとなしいしね。ただね、近隣住民の中には「ひづめ」を嫌がる人がいたりはしたかな。

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― 警察はどうやってスモーキーの存在を知ったのでしょうか?

口コミだよ。僕らが気付いていた以上に、スモーキーはインターネット上で有名になっててさ。僕も彼女も違法だとは知らなかったし、悪いことをしているとは思っていなかったからね。写真は「好きなだけどうぞ」って感じで、いろんなところで撮られて。それがブログで記事になってたり、ソーシャルネットワーク上でシェアされたりして、あっという間に噂が広まってたみたい。

まぁ、でも警察も、僕らがやっていることは「モラル的には何一つ間違ってないと思うが…」と、いってくれて。嫌な感じではなかったよ。どちらにせよ、すぐにスモーキーも大きくなるだろうし、そしたら僕のアパートでは飼えなくなる。そうなったら彼にとっても幸せじゃないからね。それで、代わりに育ててくれる里親を探したんだ。

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― 巷では、「save(救う)」と「serve(食事を提供する)」を掛け合わせて、「ラムを“serve”する代わりに、“save”したシェフ」などと、いわれたりもされていましたが、 飼われていた間、ご自身のレストランでは、ラム料理を控えていたそうですね。

まぁね。子羊を育てながら、羊を調理するっていう気にはなれなかったし、食べる気にもならなかった。だけど、「食べるなんて考えられない」と思った羊は、この世にスモーキーだけ。ヤツとは家族のような関係を築いた仲だからそう思うだけで、他の羊はスモーキーとは違う。だから、またいつか、昔みたいにラムを調理したり、食べたりする日は来ると思う。

これは僕の昔からの料理人としてのポリシーの一つなんだけれど、「まだ子供である動物は調理しない」ってのがあって。だから、今後も扱うのは羊は羊でも大人の羊ね*。

ちなみに、彼女(マキシーン)は、「羊を食べるなんてもう絶対にムリ!」っていってる。母性かな(笑)?

ラム肉とマトン肉の違い
「ラム」は、生後1年未満の仔羊のことで、「マトン」より臭みが少なく、味にもくせがない。「マトン」は、生後2年以上から7年位までの成長した羊肉。独特の臭いあり。(ちなみに、この間の生後1年以上2年未満の羊を「ホゲット」と呼ぶ、ラムとマトンの良いトコ取りをした味なんだとか)

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― 興味深いですね。「育てた生き物を食す」というのは、人によって意見や感じ方が分かれますよね。やはり、「家畜」として育てるのか、名前をつけて「ペット」として愛情を持って育てたのか、というのは大きなポインドではないかな、と思うのですが、「家畜」と「ペット」の違いについて、どのようにお考えですか?

「名前をつけるかどうか」は、確かに大きいと思う。あと、スモーキーの場合、死んでしまいそうなところを「レスキューした」という責任感なんかも僕らの思考に影響を与えたんじゃないかな。食事を手で与えてあげたり、お風呂に入れて綺麗にしてあげたり。そういうケアを施すことで、より「家族(=ペット)」という意識が強くなった。

一方、僕がお世話になっているアップステートの牧場は、動物を「家畜」として育ててはいるけれども、どこも愛情をもってケアしているのが見てとれる。彼らが最終的にどうやって、折り合いをつけて「食肉」にしているのかは分からないけれどさ。僕は彼らの仕事っぷりには、頭があがらないよ。まぁ、スモーキーだって、そういう牧場で生まれたから「母親に捨てられた」ってことを牧場主に気づいてもらえたわけで。

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― やっぱり、恋しいですよね。

そりゃね。けれど、恋しいのは僕らだけじゃないみたい。スモーキーに出会った人から、今でもメールが届いたりするんだ。「どうもありがとう。あの日、あなたの子羊に会うまで、本当に最悪な気分で一日を過ごしてたの。けれど、あの子に出会って、フワっと気持ちが明るくなったのよ!感謝の気持ちを伝えずにはいられなくてメールしました」とかさ。

短い期間だったけれど、スモーキーが多くのニューヨーカーを幸せにできたことを、僕は誇りに思うよ!

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Sandy Dee Hall(サンディー)

マンハッタンのLESにあるニューアメリカンの店「Black Tree」のオーナーシェフ
lacktreenyc.com

Photos by Candy Kennedy
candykennedy.com
Writer:Chiyo Yamauchi

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