1枚や2枚じゃない。大量に貼られたモノクロの張り紙。
マンハッタンはダウンタウン周辺で目にした張り紙。電柱に、セロハンテープで雑に貼られていた。あれ、電柱だけではない、既に閉店した店のシャッターやバス停の時刻表、更には自転車のハンドルにまで。
ワークショップの公募か、はたまたMissing Person(行方不明者)の捜索願いかとよく目をやると、違った。中央にはげた中年男の白黒写真、その下に「Looking for a Girlfriend(彼女募集中)」の文字。恋人探しの張り紙だった。
この中年男の正体はDan Perino(ダン・ペリーノ)。どうやら恋人を探しているようだ。なぜわざわざ張り紙なのか。そもそも本当に彼女を探しているのか。だとすれば、真意を問わずにはいられない。
「ふざけてやってるんじゃない」どうやら彼は本気らしい。
約1年間続けているらしいこの行為が話題となり、アメリカ最大の放送局CBS New Yorkをはじめ、世界最大級の音楽・エンターテインメント専門チャンネルMTV、世界35ヵ国に展開する若者向け媒体VICEなど、国内外問わず数多くのメディアからの取材を受けてきたダン。「日本のメディアではHEAPS MAGAZINが初めてだよ」と、自分の張り紙がプリントされたティーシャツを着用した彼が、薄ら笑いを浮かべたところで取材が始まった。
(以下、H):まず自己紹介をお願いします。
Dan Perino(以下、D):ダン・ペリーノ、52歳。僕は俳優であり画家だ。これらは僕が描いたんだ、面白いだろ?と、すかさずインスタグラムをこちらに見せてくる。張り紙?昔から貼ってたんだよ。それは画家として自分の仕事を探すためにね。だからこの彼女募集の張り紙もその延長線上って感じ。今まで貼った張り紙は80,000枚以上、受けた電話はもう数えてないけど、最後に数えたのは9,000回くらいだったかな。デートは167回したし、ウェブサイトの閲覧数は約120,000。もっと簡単に彼女を探せるっていいたいんだろ?ナンパしにバーに行ったことは一度もないよ。賢い男は泥酔した女を持ち帰る。でも僕の場合、ただ一夜を過ごしたい訳じゃなくて、ちゃんと彼女が欲しいんだ。
H:貼り続けてるってことは、まだ彼女がいないってことだよね?
D:あぁ、いないよ。同時に4人の女性とデートしてた時期はあったけどね。
H:過去の恋愛事情は?
D:18年前までは韓国人の妻がいたんだ。離婚後は家とかお金とか…全てを彼女に渡した。娘は今年で18歳になる。大学に進学するらしいけど詳しくは知らない。最後に話したのは去年の夏だったかな。「パパ、もう二度と電話してこないで」って言われたよ。その時の心境といったら…。娘は僕のやってることが嫌いなんだ。恥ずかしいんだろうね、実のお父さんがこんなことやってるのが。
H:お気の毒に…。気を取り直して。お気に入りの張り紙スポットはどこ?
D:ソーホーだね。常に人で溢れてるし活気がある、高級ブティックなんかも多い。逆にブルックリンはあんまり好きじゃない。特にウィリアムズバーグ、あの独特の雰囲気が苦手なんだ。あんまり貼れなさそうじゃない?静かだし。昔貼った事はあるけど、もう貼ってない。
H:今までの最悪のデートってどんなの?
D:ある日のラテン系の女の子とのデート。待ち合わせに15分遅れて来たうえに、もう1人女の子を連れて来て何故か3人で食事することになったんだ。この時点でデートじゃないだろ?カフェで注文する前に「ねぇ、ダン。あなたってお金持ってるの?」と聞かれ、そりゃあ「当然さ」と答えたら、彼女たち、突然スペイン語で話しはじめた。もちろん何を話してるのか分からなかった僕。数分後、女の子たちは6人分の食事を注文しはじめたんだよ。「私の友達、お金が無いからご飯が食べれないの。ね?いいじゃん?」て。冗談じゃなかったよ。もちろんお金は払わなかったさ。こうやって時々、金づるになりそうなこともあるんだ。
H:嫌がらせとかされたことないの?
D:僕の真似事をしてる人は何人かいたな。目から下を隠した写真を載せて同じ事をする人や、「Looking for a girlfriend TOO(僕“も”彼女募集中)」とか「Looking for an IDEA(アイデア募集中)」とか。まぁ、全然気にしないけどね。皆途中で辞めちゃってたし。あとは嫌がらせじゃないんだけど、道を歩いてたら、女の子に突然肩を触られた。「何なんだ?」と聞くと、「ああ、本物のダンペリーノに触りたかったの!」だってさ。驚いちゃったよ。あと、張り紙の最中に警察に捕まって、裁判所に行ったこともある。罰金20ドル払ったよ。で、そのあとその警察官に「ダン・ペリーノ、一緒に写真撮ってくれ」っていわれたり。
H:好みの女性のタイプは?
D:ふふ、巨乳だよ。ちなみに日本人とはまだデートをしたことはない。君らのメディアでも宣伝しておいてよ。僕のウェブサイトのアドレスはwww.dan…
H:大丈夫、知ってるから。
D:あ、そう。ちなみに嫌いなタイプは嘘つき。ある日1人の女性からの電話を受けた。お茶でもしましょうって。声の感じは若くて、本人は45歳といってた。でも実際に待っていたのは、僕より遥かに年上の65歳のおばあちゃん。20歳もサバを読んでたんだ。最初に65歳だと伝えてくれればよかったのに…すぐにその場を立ち去ったよ。あと僕はゲイじゃない。男性からの電話を受けた時のこと。「残念だけど、僕は彼氏じゃなくて彼女を探してるんだ」と伝えると、「挑戦してみようよ、新境地を開けるかもしれない」って。オェッ、そんなのお断りだよ。ちなみにお酒とマリファナも好きじゃない。
H:数多くの、しかも世界規模のメディアからの取材を受けて、生活に変化はあった?
D:もちろんさ。取材を受けてから色んなことが起こったよ。「張り紙男」が僕を軌道に乗せてくれた。フィルムメーカーのディレクターが、僕の短編映画を撮らせてくれといってきた。映画に出れるなんて俳優としてはこの上ない喜びさ。出演のため約18キロ減量したよ。ディレクターには「このままだと誰だか分からなくなるから、これ以上勝手に痩せないで」ってとめられたけどね。他にもトークショー、コメディショー、ラジオにも呼ばれた。毎回同じ事ばかり説明してたから飽きちゃってたところはあったけど。今では自身のウェブサイトも運営してて、僕がどんなことをしているのか世界中の皆に伝えているんだ。
H:本当に彼女が欲しくて続けてるの?これだけ有名になった今、彼女を探すことより「張り紙男」でいることの方が大切って思ってない?
D:もちろん彼女が欲しくてやってるさ。僕の最終目標は結婚することと、俳優として生きること。そして、画家として描き続けることは僕の人生そのものさ。
取材後、撮影も兼ねてどのように張り紙を貼っているのか実際に見せてもらった。手際の良さに驚く。左脇に張り紙を抱え、歩きながら右手でセロハンテープをちぎり、立ち止まることなくペタペタと貼っていく。場所は選んでいない。貼れるとおもったら所構わず貼る。そこに躊躇など全く見られない。なるほど、約1年も1人で貼り続ければこんなにも効率よく進むものなのか。
別れ際に「今日はこれからデート?」と訪ねると、「いや、今日はこれから歯医者の予約があるんだ」とのこと。離婚、娘との決別、それでも自分のやり方で生涯の伴侶を探し続ける男。去っていく彼の背中に、どこか淋しさを感じた。
Photographer: Takeshi Abe
Writer: Yu Takamichi