ニューヨーク中の$1ピザを食べ尽くす男。$1に賭けた狂気

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ニューヨークに突如現れた、「Pizza Hero」

 ニューヨークに星の数ほど(軽く1,000は超すので数え切れない)存在する1ドルピザ、通称ダラースライスを、「すべて」食べ尽くそうとしている男がいる。ニューヨークに住む者なら、それがいかに無謀で、しかし偉大な挑戦であるかを疑わないだろう。
 空前の窯焼きピザブームが起きている一方で、チープなダラースライスはニューヨーカーの胃袋を支える長年のソウルフードだ。そんなニューヨーク・シティにあるすべてのダラースライスショップのピザを食べてレビューし、どこが旨いのかをマッピングするという、狂気に近いプロジェクトを断行している男がいる。フランシスコ・バラグタスだ。現在、すでに100店舗制覇に達そうとしている。

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 きっかけは同僚との些細なやりとり。遅くまで仕事をしていたある夜、フランシスコは夜食を買いにすぐ近くにあるダラースライスショップへ行った。「これなら毎晩食べられる」と同僚に言ったところ、「無理にきまってんだろ」と言われて100ドル賭けたところからはじまった。

「なぜ不味いピザを作るのか、理解できない」

 ダラースライスは生地にトマトソース、チーズをトッピングしただけのシンプルなピザだが、店によって味が千差万別なのはニューヨーカーなら知るところ。だが「どこが本当に旨いのか?」それは誰も知る術がなかった。フランシスコはそれを生地・ソース・チーズの3項目を5点満点で料理批評家並みに厳しく評価し、Instagrmに詳しくレビューをポストしている(彼のInstagramのポストはピザのみ)。

 一見おなじみ見えるピザに下す評価の、フランシスコの基準は以下。

生地:「クリスピーで裏地が焦げすぎてないか、汚くないか。生地の重さも大事で、薄すぎたり分厚くて重すぎると、ピザを折り曲げるときによくない。(一般的にピザは折り曲げて食べられる)」
ソース:「味はもちろん、ジューシーで乾いてないか。トマトがフレッシュでおいしいか」
チーズ:「厚すぎず全体的に広がっているか。そしてチーズをケチっていないか」
その他:「耳の部分が大きすぎないか、ソースとチーズが最後まで行き渡っているかも重要だね。一番残念なピザは一口食べた時に香り、味が欠如しまくっているピザ。基本的にシーズニングはしないけど、その時だけはする」

*ダラースライスのオーソドックスなシーズニングには、塩、こしょう、レッドペッパー、パルメザンチーズ、オニオンパウダー、ガーリックパウダーがあり、どこの店にも常備してある

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「実はファストフード嫌いなんだよね」

 その暴露に、思わず吹き出す取材陣。週に7、8枚、多い時は1日に4、5枚ものピザを食べるにも関わらず、フランシスコはファストフードを好まないという。ピザ以外は健康的な野菜中心の食生活で「ピザは特別」なんだそう。さらには週に70〜80キロは走るマラソンフリークでもあるから驚きだ。「毎朝毎晩走るし、ジムにも行く。マラソンシーズンもスタートしたし、そっちでも忙しくなっちゃうね」とフランシスコ。

 この日の取材にもフランシスコはスケートボードで「Hi, How’s going!(やあ、調子はどうだい)」とフラっとやってきた。日中のワークタイムに、だ。てっきりランチタイムに時間を割いてくれるのかと思ったら、「別に時間はあるからゆっくりで大丈夫だよ!」と二コリ。「会社もこのプロジェクトをサポートしてくれている」らしく、仕事中も「Pizza」キャップを身につけている始末。この大いなる矛盾と奔放さが、フランシスコの最大の魅力だ。かと思えば、フランシスコは世界最大手のスノーボードブランドに勤務するバリバリのビジネスパーソンでもある。そんな得体の知れないところも、ニューヨーカーらしいの一言で片付いてしまう。

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今日も明日も毎日ピザ。まるで「スー○ーサイズミー」

 フランシスコのプロジェクトは2年がかりだ。その間毎日毎日ピザを食べることに関しては、「まったく飽きないね!やめようと思ったこともない。」と話す。このプロジェクト中の最悪の体験や辛いこともひたすらマズかったピザの話。結局はピザが純粋に好きなので、まったく苦になっていない様子だ。
 しかしフランシスコが好きなことをただ自由にやっているだけかというと、そうではない。クレイジーでぶっ飛んでいるだけはなく、このプロジェクトは彼のしたたかなストラテジーの上に成り立っている。フランシスコのInstagrmのタイムラインには、まったく同じようなピザ(しかもちょっと汚い、お世辞にはいい写真とはいえない)が並んでいる。
 昨今、数多のブロガーが、フォロワーを増やすため毎日血眼になって違うカフェに通っては、おしゃれな写真をポストしてしのぎを削る。それをおちょくっているとさえ思うほど、彼のタイムラインは痛快だ。

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 実はそれも彼のバックグラウンドスキルであるソーシャルマーケティング、ビジネスマネジメントに基づいている。またデザインワークやブランディング、スポンサードイベントも行うことによって、去年の8月、誰にも知られずフランシスコが1人でスタートしたこのプロジェクトは、多くのフードブログで取り上げられ、瞬く間にニューヨークで広く知られるところとなる。
「起業はしていない」が、「CEO – Cheese Slice Executive Officer」というフランシスコの肩書きも、クスッとこぼれてしまうが、本人はいたって大まじめ。

 そんな純粋でピュアな初期衝動としたたかさが周りを巻き込み、かつて「Yelpで地道に探して店を当たっていた」というやりかたも、今では「ネイバーが勧めてくれる店に行く」というやり方に変わった。ネット上に載っている情報は、ダラースライスショップの絶えず開業と閉業を繰り返す回転の激しさに追いつかない。「行っても潰れちゃってる、って困ることは少なくなったかな」とフランシスコ。

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 最後に、ダラースライスの最大の魅力を「誰でも、どこでも食べれることだよ」とフランシスコは活き活きと話してくれた。ニューヨークでは金持ちも、建設業者も、警察官も、学生もみんながピザを食べる。「ニューヨーク・シティは本当に小さい街だけど、ピザを語るには欠かせない場所。ダラーピザは特別な誰かのものじゃない、みんなのものだから好きなんだ」

 たかがダラースライス、されどダラースライス。フランシスコもまた激動の非日常を日常として生きるニューヨーカーだ。そんな中でも彼が自分らしく生きているのは、「好きなことを、徹底的に」やっているからに他ならない。
 この日フランシスコはスケボーで飄々と現れ、楽しそうにピザの話をするとまた颯爽と去っていった。そんな彼の姿はまさに「Pizza Hero」だった。

 

食べ尽くし続けるフランシスコのみぞ知る、真のダラースライス・ベスト5

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1、Stanton Street Pizza
LES 127 Stanton St. Essex St. & Norfok St. Manhattan
コメント:「ソースが最高。近くによく行くバーとスケートショップもあるしね」

2、Vinny Vincenz Pizza(インタビュー場所)
EAST 231 1st Ave. East 13th St. & East 14th St. Manhattan
コメント:「ここのダラースライスは特別。この周辺でもっとも成功しているダラーピザショップだと思う」

3、San Remo Pizzeria
BK 1408 Cortelyou Rd. Marlborough Rd. & Rugby Rd. Brooklyn
コメント:「生地が最高。とにかく行ったらわかる」

「ここからは、レビューの点数はそこまで高くないけど、個人的にすごくおすすめな場所だよ」

4、Joey Pepperoni’s
TRI 381 Broadway Walker St. & White St. Manhattan
「職場から近くて、ダラーピザにハマったきっかけの店で、記憶に残った最初のショップ。まさにNYCのダラーピザという感じの店。未だに通ってる。味は普通だけど、特別な店」

5.Kennedy Fried Chicken (KFC)
UES 2232 3rd Ave. East 121st St. & East 122nd St. Manhattan
「これは本当に驚いた。デカイし、チーズもいい。KFCのダラーピザが旨いだなんて誰も知らないんだ。Yelpじゃ載ってないよ!」

Photos by Sayaka Sakamoto
Writer: Takuya Wada

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