リッチなFoodieだけの「決断しない贅沢」アプリ

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日本人女性起業家二人が、ニューヨークで挑む

いきなりだが、皆さんはレストラン選びにどれだけの時間をかけているだろうか。デートや友人とのハングアウト、接待など様々なシチュエーションでレストラン探しに奔走させられてはいないだろうか。
増えゆく奔走の数に合わせて「もっと手軽に、素早く、あなたにとってベストなレストランを選び出します!」というWebサービスが増えてきた。

近年、ニューヨークで最もよく使われているものといえば、実名制のクチコミCGMサービス「Yelp」だろう。昨年日本にも上陸を果たし、そのビジネスモデルが似ているため「食べログの対抗馬」といわれていることでもお馴染み。

また、予約サービスといえば「Open Table」、その他にもレストランからの広告収入で成り立つラグジュアリー系のレストラン情報を提供する「Urbandaddy」や、ユーザー課金制の予約困難な人気レストランの席を確保するサービス「Resy」などが存在する。

これだけあれば、グルメ系のWebサービスはもう飽和しているのではないか、と思いきや「欲しいサービスが全然なかったんですよね」と、目を合わせる二人。

昨年12月よりニューヨークで本格的に始動した新アプリ「NeuroDining」の創始者、中澤英子と木村仁美だ。「富裕層向けの外食コンセルジュ」をうたう彼女たちが狙うのは、年収2,500万円以上の“金持ち働きマン”。情報多寡のこの時代、多忙な人たちに「選ばせない、決断をさせない贅沢」を提供するという、そのサービスの実態に迫る。

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「食べ友」から「起業パートナー」へ

 1980年生まれの木村(上写真右)と中澤(上写真左)は、慶應義塾大学の同期。だが、知り合ったのはニューヨークにきてからだという。共通の知人から「食べるのが好きな者同士」という括りで紹介され、意気投合したのは4、5年前。

 当時、日系企業のニューヨーク支社で多忙な日々を送っていた二人にとって、「美味しいレストランで過ごす時間」は何物にも代え難い至福のひとときだった。

 食べ友から起業パートナーとなったきっかけは、単純に「もっと自分のニーズにあったレストランが検索できる手軽な検索エンジンがあったらいいのに」という会話からだった。自分たちが欲しいサービスをつくろうと、平日の仕事の後や休日に会って起業プランを練る。そんな生活が6ヵ月程続き、「本気でやるなら今の仕事を辞めて100%コミットしないと」と、昨年末に前職の退職を決めた。年収4ケタの仕事をしていた彼女たちにとって、安定した生活を手放すのは、勇気のいる決断だったに違いない。

 そんな彼女たちが狙うのは、年収2,500万円以上の“金持ち働きマン”たち、つまり富裕層市場だ。もともと、JPモルガンや三菱東UFJ銀行に勤めていた木村は「前職では、お客様(投資家)をよく接待する立場で、週に6回以上は外食という生活だったのですが、ニューヨークのレストラン選び&予約って、面倒なんですよ…」とこぼす。人気のレストランの予約は、最低でも3日前。加えて、ウェブサイトのレビューだけで選ぶのは非常にリスクが高いという。

木村:「プライベートならまだしも、勝負をかけた接待やデートで『行ってみたらハズレ』というのは、笑いごとではすみませんからね」

中澤:「それに、情報が多すぎて、どれが信頼できるものなのか分からないし、検索エンジンを使っても絞り切れていないことが多い。選択するのに一苦労」

 だから、信頼できる人にニーズにあった確実なものだけをキュレートしてもらえる『外食コンセルジュ』というサービスを立ち上げた。つまり、自分たちの「あったらいいな」を実現したのだ。

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レストラン検索と予約で、50万円の損失!?

 王族に生まれたことがない人に王族の気持ちが理解できないように、富裕層でない人が、富裕層の求めるものはわからない。彼女たちの強みは、ニューヨークでの前職で「富裕層の同僚を多く持っていた」こと。そして、彼女たちが認めるかはさておき、自分たちもターゲットと同じ、“金持ち働きマン”たちだったことだ。

 自身の経験も踏まえて、事業の収入源である会員費について「いまは、月額65ドルでやっていますが、ゆくゆくは100ドル、もしくはそれ以上にしたい」と話す。レストラン検索&予約に「月100ドル」というのが適正価格かどうか。正直なところ、年収4ケタ以上の世界など、縁もゆかりもない筆者には全く判断がつかない。

 そこで、彼女たちが分かりやすくグラフで見せてくれたのが下記の「手間によるオポチュニティーコスト(機会費用)」である。

 たとえば、「年収1億クラスの働きマンが月に10回の頻度で、毎回レストラン検索&予約に10分以上かけていた場合、年間の機会損失額は50万円近く※になる」という。そういわれると、月100ドル×12ケ月で1200ドル(約12万円)というのは妥当、いや、むしろお得に思えてくる。

※年間250営業日、1日8時間勤務を前提とした場合

 早速、アプリを開いてみると、まず希望のエリアを選択する画面が表示される。エリアを選択するとアルゴリズムにより、そのユーザーにピッタリなレストランを二つ選び出してくれる。どちらか気に入った方の予約ボタンをクリックし、希望日時と人数を入力すれば、それだけで予約完了だ。

木村:「会員であるということは、すでにNeuroDiningのセンスを信じてくれているということです。そこに信頼関係があれば、提示する選択肢は二択で十分です」

中澤:「決断プロセスをなるべく簡単にしてあげるのが私たちのサービスのウリですから」

 なるほど。勝負は、会員に「確実なものをいかに手軽に提供できるか」にありそうだ。

スターシェフが「本当に求めているお客さん」を知っている

「じゃ、会員になろうかな」と思って、すぐに会員になれるかというとそうではない。NeuroDiningは会員の紹介でのみ入会できるシステムを貫く。その理由は「富裕層であるかだけではなく、マナーを守って食事とサービスを楽しんでくれる人を集めたいから」だ。
 確かに、どんなに資産があろうとも、一番安いワインと、アペタイザーを数品頼んで、十分にチップも置かず帰るようなケチな人や、また、お金はたくさん使っても、横柄でリスペクトのない人ばかりが会員なってもらっては困るだろう。

木村:「レストラン側にも「NeuroDiningのお客様であれば良い席をご用意しますよ」、と思ってもらえるくらいのブランドを築くのが目標です」

中澤:「楽しいディナーは、双方の理解があって成り立つものだと思うんです。レストラン側の努力ももちろん重要すが、お客さん側も自らも楽しもうとし、おもてなしを受ける準備が必要ではないでしょうか。そうした準備のお手伝いもできればと思います」

 一方で、敷居を高くしている分「NeuroDiningの会員として店に行くことで得られるメリット、特典サービスの充実に力を入れていきたい」と意気込みを語る。今のところ、具体的には毎回シャンパンやワインが無料になったり、VIP専用ラウンジや有名シェフのキッチンに案内されたり、また未公開メニューを試せるなど。会員が、NeuroDiningを使ってそのレストランで良い経験をすれば、リピーターになる可能性は高い。それがレストラン側のニーズにあっているのだという。

 彼女たちが、ニューヨークのレストランシーンを牽引するスターシェフたちからのヒアリングから得たのは、「一回の食事で、何千ドルも落としてくれるお客さんがたくさんいても、本当に求めているのは、お互いリスペクトをもって長く付き合っていける『常連さん』だということ」。そう目を輝かす二人は、「まだまだ、夢と情熱と利益追求のはざまで、どうなるか分からないことも多いですが、会員とレストランの双方に利点のあるエコシステムを築きたい」と、日夜奔走中だ。今後の展開に期待が集る。

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