NYで俳句が占いに変身〜世界初、俳句詩人エージェントの誕生と長蛇の列の秘密〜

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Even The Faces (仏頂面が忙しなく行き交う)
Darkened by Their Furrowed Brows (眉根の間のしわに、)
Gleam with Potential (それでも一筋の希望が混じっている)

 これは、「愛すべきニューヨークの人々」をテーマに詠まれた、俳句(ハイク)だ。もし、あなたの心に浮かんだテーマを俳句にしてくれるサービスがあったら、何をリクエストするだろう。そんなユニークなアイデアを、ここニューヨークで形にした三人がいる。世界初の俳句詩人エージェント「The Haiku Guys(ザ・ハイクガイ)」。人生に答えを求め、言葉を渇望するニューヨーカーに、愛をこめて俳句を送る。ハイク三銃士にアタックせよ。

 イベント会場のワインショップの倉庫で戦闘服に着替えていたのは、The HaikuGuys(ザ・ハイクガイ)のErick Szentmiklosy(エリック・シェントミクロシー)とDaniel Zaltsman(ダニエル・ザルツマン)。お互いに「お前、寝癖がついてるな。俺の髪型はキマってる?」と見合いっこしながら支度する姿が、なんともかわいらしい。ヴィンテージスーツにタイプライターが彼らのお決まりのスタイルのようだ。

「俳句の古いスタイルの文芸にマッチしたノスタルジアを僕らのスタイルに込めたんだ」とエリック。そこに遅れてやってきたのは、ブルーの髪で三つ編みをしたHaiku Gal(ハイク・ギャル)ことLisa Markuson(リサ・マルクソン)。「ハーイ!」と飛びつきハグする。「未だに三人で俳句を交換し合って遊んでいるところなんか、二年前に出会った頃と変わらないよね」とエリック。するとリサが「私たちって三銃士みたいな感じね」と付け加え、「三匹の野良犬かもよ」とユーモアのある切り返しをするダニエル。息ぴったりの三人は、ニューヨークで俳句という共通の目的に引き寄せられ集まった。

五七五で商売はじめました

 彼らが世界初の俳句ビジネスを立ち上げたのは一年前。「俳句詩人として生計を立てられている人はほんの一握り」。確かにこの時代、詩集を出版し、印税で食べていくのは難しい。そこで、彼らは「俳句で食べていく」ために、ユニークな方法に打って出た。イベントやパーティに出向き、ゲストたちと談笑しながら、リクエストされたテーマに沿って俳句を詠み、その場でタイプライターで打って無料で手渡すというもの。2014年の起業から一年足らずで、イベントの盛り上げ役として引っ張りだこ。あまりの人気っぷりに、本人たちだけでは手が足りず、ニューヨーク近郊に散らばる詩人たちの中から選りすぐった精鋭を10人ほどメンバーに加え、クライアントのもとに派遣する。イベント派遣のギャラは時給数百ドルからと、だいぶ良い。

都会的ミニマルな新表現

 一人ひとりに向けて、一番正直で純粋な答えを俳句に託す。「人も俳句も一期一会だと思ってる。二度と同じ俳句は作れないから一回一回が失敗の許されないショーみたいなもの」。並ぶのが嫌いなニューヨーカーが彼らのタイプライターの前に長蛇の列をなす。悩みを抱えた人々が、まるで占い師や、精神科医に頼るように言葉を求めやってくることもあるという。「ある時、恋人との関係に悩む一人の女性がやってきて、悩みを話しはじめたの。一つ俳句を詠んであげたんだけど、もっととせがまれて。パーティが終わる頃には、『あなたのおかげで、すっかり決心がついた』と涙を流していた」とリサはこの時、俳句の力を確信した。三人とも、昼はマーケティングや会計の分野でフルタイムで働きながら、“The Haiku Guys”を起業し、いまではクライアントに大手銀行や、高級アパレルブランド、雑誌社などそうそうたる面々が名を連ね、ビジネスが拡大しはじめている。

個人密着型ハイク

 英語にしてしまえば、五七五の音節こそ同じでも、かなり違ったものになる。それでもあえて俳句にこだわる理由を尋ねると、「俳句は世界でも最も知られたポエムの一つ。シンプルだからこそ、そこに込められた意味を考える面白さがある」と俳句に惹かれた理由を話すのはダニエル。「ツイッターやメール。近頃のコミュニケーションはすべてが短くて文字通りで味気ない。

 そんな時代だからこそ五七五のシンプルなフレーズに隠された言外の含みに、想像力をかき立てられてみてほしいんだ」と、取り出したのは日本語で書かれた俳句の本。アルファベットで振られたふりがなと英訳に照らし合わせながら、伝統的な日本の俳句を熱心に学ぶ三人。

「季節や自然に触れる日本の俳句は美しいよね。ここからさらに一歩踏み込んで、お客さん自身の個性に触れるのが、僕らのスタイルなんだ」 「世界中のすべての人に、その人だけのオリジナル俳句を詠むのが夢」と顔を見合わせにっこり微笑む三人。

 数年内にはニューヨーク以外の都市に、また、将来は日本をはじめ、世界中に俳句詩人たちを派遣し、ビジネスを拡大していきたいと話す。自分だけのために詠まれた一句は、時に占い師よりも鋭く、時に精神科医よりも愛情をもって、見失っていたものに気づかせてくれる。モノや情報が溢れる都会だからこそ、人々はどこかでシンプルな言葉と表現を求めているのかもしれない。

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Photographer: Omi Tanaka
Writer: Haruka Ue

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