家電だと1年、車だと3年、住宅だと10年。いざという時にあって嬉しいのが保証期間だが。
家よりも長い保証を約束するファッションブランドがイギリスにある。しかもレザーのコートや革靴とかではなく、Tシャツ。そのブランド、Tシャツに30年の保証期間を付けて売りに出した。
たかが?されど? Tシャツにあるから光る「30年保証」
30年保証付きTシャツこと「30 YEAR T-SHIRT(30年Tシャツ)」と名づけられたコレクションを手がけたのは、Tom Cridland(トム・クリドランド)、25歳。
彼の名前であり、ブランド名でもある「Tom Cridland」で販売するスウェットやTシャツ、ジャケットには30年間の保証が約束されている。
Tom Cridland(トム・クリドランド)
ファッションのトレンドがいくらめまぐるしく変化しようとも、いつでも必要なのがベーシックなアイテム。トムが提案するのは、時代に左右されず飽きのこない無地のTシャツやスウェット。しかも使い捨てが当たり前になりつつあるTシャツに、30年も保証を付けてしまったのだから驚きだ。
いくら頑丈な服作りを約束したからと、いまの時代安くて気軽に買えるTシャツやスウェットに、長期間保証のビジネスが太刀打ちできるのか?
「顧客が戻ってくることは、決して難しいことじゃない。30年保証するということは、僕たちが耐久性のある生地を使った誠実な服作りをしていることの裏づけでもある。新鮮なデザインも顧客を維持できてると信じているよ」とトム。
創業から2年たったいま、ブランドのサステナビリティに賛同する顧客たちからの修理依頼はこれまでに10,000着以上にのぼる。
クオリティの高さが値段に反映されない服
さすがに洗濯を繰り返せば生地は縮むだろうし、いくらなんでも30年は言い過ぎじゃ、と思ったが、その徹底ぶりに信憑性はある。
ブランドの柱でもある耐久性とクオリティを実現するため、生地に使う糸の使用量を増やすことで、毛玉をできにくくしたり、袖の縫い目を補強。生地が縮むの防ぐため、特殊なシリコン加工を施す。
そのため、クラフトマンシップと生地、そしてテクノロジーへの投資に二の足は踏まない。ポルトガルの田舎にある彼らの生産チームは、なんと50年以上もスウェットを生産し続けていて、その専門性や熟練された技術がブランドを支えた。それが、30年保証というアイデアに繋がったそうだ。
十分すぎる品質と耐久性へのこだわりを見せるからこそ気になる値段だが。Tシャツ一枚約4,500円、スウェットは約6,800円。30年を保証しているのに、価格は高くない(1年あたり150円だ)。
というのもトム・クリドランド、オンラインのみの販売で顧客に直接届けるので、中間業者が入らないことによって価格が上がることがない。
ディカプリオに導かれる。23歳で起業へ
デザインは独学だというトムがブランドを設立したのは2014年、当時23歳。政府のスタートアップローンシステムで6000ポンド(約76万円)を獲得したことがきっかけだった。しかし、未経験の業界でそう簡単に成功するわけもなく、一番苦労したのはブランド立ち上げ時期だと話す。「6000ポンドでビジネスを始めるのは大変だったよ。マーケティングに予算を割り当てられるほど余裕はなかった。それでもなんとかしなければならない状況は、とても貴重な経験だったよ。その過程で、とにかく全力でいい服を作ること、一生懸命働きそれを世界に届けることの二つだけが大切だということにたどり着いたんだ」
当初は、ただただ理想的なメンズパンツを作りたいという想いだけだった。サステナブルファッションの道は、レオナルド・ディカプリオがきっかけ。「ディカプリオにパンツをあつらえたことがあるんだけど、それで彼がサステナブルな地球の実現のために素晴らしい活動をしていることを知ったんだよね」
ミレニアル世代を巻き込む。「サステナブルファッションは当たり前」
ファストファッションの人気はしばらく続くだろうと考えるトム。それと同時に、ミレニアルズ世代によって、サステナブルファッションのムーブメントが確実に起きつつあると感じている。
「僕たちの世代は、当たり前ベースで健康や地球のこと意識している。これからは、みんなで協力すればファストファッションによる浪費に終止符を打つことができると思う」。
自身のブランドと業界の可能性を信じるトムはこう続ける。「サステナブルビジネスには未来があると思う。トム・クリドランドを世界一のサステナブルファッションにすること、そしてサステナブルのムーブメントを牽引することが僕の夢だね」。
ミレニアル世代が牽引するサステナブルファッション、仰々しい纏いものよりも日々のTシャツやスウェットからはじめようとするのがこの世代らしい。ファッション業界に差し込む、面白さを備えた強みだ。
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All images via Tom Cridland
Text by Akihiko Hirata