あなたは捨てる派? 捨てない派?
うーん…モノに罪はないしねえ。という会話だけで、何のことかわかりますよね?
そうです、“かつての恋人との想い出のモノ”。
誕生日にもらったぬいぐるみ、初めてのデートで行った映画館のチケット。ゴミ箱行きもなんだかな。だからといって手元に置いておくのもなんだかなあ。
なんならいっそのこと、“寄付”してみませんか。
Photo by Kisså
失恋から立ち直る新しい方法は、「思い出寄付」
世界中から寄付された失恋アイテムを集めた博物館、「ミュージアム・オブ・ブロークン・リレーションシップ(Museum of Broken Relationships)」が本日6月4日にオープンする。それも、ロサンゼルスはハリウッドのど真ん中!
クロアチアの首都ザグレブにある第一号館に次いで二号館となる“失恋ミュージアム”だ。
コンセプトを噛み砕くとこんな感じ。
「あなたの恋の痛手、作品にして展示して、洗い流してしまおう」
Photo by bored-now
「このミュージアムが大切にしていること。それは訪れた人に“感情の旅”(emotional journey)を体験してもらうことです」と語るのは、館長の Alexis Hyde (アレクシス・ハイド)。来た人は、はっきり言ったら、どうでもいいかもしれない他人の失恋話を読みながら、アイテムを鑑賞し、自分の失恋の思い出や気持ちに重ね合わせたりする。人間のゴシップ心や野次馬根性をくすぐる、ちょっと変わったミュージアムだ。
アイテム、ぞくぞくとLAに集結
さて今年2月に寄付を募ってから、失恋ミュージアムにはアメリカ全土だけでなく、カナダやロシア、トルコ、ブラジルなど世界中から250以上のアイテムが届いている。
展示予定のアイテムたち(とその失恋ストーリー)をちょっとのぞいてみてみよう。
思い出品の名前(item)、交際の場所(Relationship origin)と期間(Relationship length)が、展示品に明記されている。
“PHOTO: COURTESY OF THE MUSEUM OF BROKEN RELATIONSHIPS”
思い出品: “Danger” spoon「“危険な”スプーン」
場所: Los Angeles, CA (カリフォルニア州、ロサンゼルス)
期間: December 6, 2014 to July 12, 2015 (2014年12月6日〜2015年7月12日)
「あの晩はじめて会ったとき、『俺のニックネームは“Danger(危険なヤツ)”だ』と彼は言った。木のスプーンで料理するのが好きな彼に、ニックネームと誕生日を彫った左利き用スプーンを特別注文したの。でもこのスプーンが出来上がる前に彼は浮気した。結局一度も使われなかった“危険な”スプーンのまま」
“PHOTO: COURTESY OF THE MUSEUM OF BROKEN RELATIONSHIPS”
思い出品: Four used black emery boards (4つの使い古した爪ヤスリ)
場所: Austin, TX (テキサス州オースティン)
期間: December 11, 2011 to December 3, 2015 (2011年12月11日〜2015年12月3日)
「最後の夫、チャドは才能があって、クリエイティブで元気いっぱいの人だった。でも彼には爪を噛むくせがあって、甘皮までがりがりやっていた。おまけに外でもテレビを見ながらでも、車内でも爪ヤスリでがりがり。我慢できなくなって、何回もやめて言ったのに。そして彼は42歳の若さで逝ってしまった。毎日彼のことが恋しいわ。もう一度彼を取り戻してくれるのなら、なんだってする。たとえあの爪ヤスリでガリガリする音を聞かされたとしても」
“PHOTO: COURTESY OF THE MUSEUM OF BROKEN RELATIONSHIPS”
思い出品: Tiny piece of paper(ちっちゃい紙切れ)
場所: Los Angeles, CA (カリフォルニア州ロサンゼルス)
期間: 2001-2009 (2001年〜2009年)
「ぼくは芸術家。当時同棲していたガールフレンドは、別の部屋でアート制作しているぼくの注意を引こうと、いつもそわそわしていた。ある日仕事中のぼくのところに彼女はやってきて、この紙切れをそっと渡したんだ。紙にはこう書いてあった、『わたしにかまってよ(pay attention to me)』。別れてから2年後に出てきたこの紙切れ、いまは車の整理ボックスにしまってある」
預ける、が忘れ去るにはちょうどいい?
くすりと笑ってしまうものから、胸がきゅっと締めつけられるものまで、やるせなさや切なさたっぷりのアイテムが展示室に並ぶ。
「アイテムが届くまで、そのサイズや形がわからないため、展示スタイルが決められないのです。あるアイテムはケースに入れて置いたり、また別のアイテムは壁に掛けたり、天井から吊り下げたり。そんなところもこのミュージアムの面白さでもあるでしょう」とアレクシス。
2年前、メキシコシティで開催された特別展では、思い出品のひとつ、1000羽の折り鶴が天井から吊り下げられた
“PHOTO: COURTESY OF THE MUSEUM OF BROKEN RELATIONSHIPS”
鑑賞する側に回ってもよし、失恋アイテムを送る側にまわってもよし。
SNSなどで誰でもかれでも自分と恋人のストーリーや想い出がシェアできるいま、「博物館」という空間で、観客とアイテム、ストーリーが一期一会を果たすのがとても新鮮でユニークだ。
送ったあとにやっぱり返して…、と言ってくる人も多いのではと思ったが、第一号館が10年前に開いてからというものの、アイテムを返して欲しいと言って来た人は、たった1人だったそうだ。
「過去のモノを手放したら、みんな前に進むのみなのでしょうね」
捨てられないとついつい思い出に触れてしまうが、捨てたら捨てたで、もう二度と戻ってこないその品に切なさを抱き、逆に焦がれてしまうこともある。
「見たいと思ったら、見に行けばいいや」の距離が、煩わされず前に進むのには、最適なのかもしれない。捨てる、捨てないに加えて、“預ける派”。ありだなあ。
Museum of Broken Relationships Los Angeles
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Eye catch image byEmily Bergquist
Text by Sally Lemon