四方に散らばり、羽を休め食べかけのピザをつつく鳩たち。と、その中心に座り込むのは一人のおばさま。なんか異様な光景だな…と思い見つめていると、さらに異様なことに気づく。
鳩たち、一切動かない。
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彼女を取り巻く鳩たちは、ようく見てみると、本物に見間違えるほどにそっくりのフェルトでできた人形だった。危ない人には近づかないのがニューヨークの掟だが、どうしても「一体何をしているのか」と問うために、後日、鳩おばさんを尋ねてみた。
動かない鳩と鳩おばさんの謎、ついに解ける。
ティナ(以下、T):今日は来てくれてありがとう。ねえ、ドーナツはいかが?(もぐもぐ頬張りながら)
HEAPS(以下、H):ありがとうございます。でも、結構です。まず自己紹介をお願いします。
T:私はティナ、アーティスト。両親がアーティストだったからクリエイティブな家庭に育って、小さい頃からお絵描きやものづくりが大好きだったの。自分で作った服をまとったり、少し変わった子どもだったわね。
H:早速ですが。気になる鳩との出会いは、いつ頃?
T:サントニオ、という街からニューヨークに引っ越してきたとき。もう30年近く前ね。
H:なにゆえ鳩好きに?
T:動物に餌付けをするのが大好きなの。というより、人間も含めてね。みんなお腹が空いていると思うから。こっちに移り住んできたときに、周りにいた唯一の唯一の生き物が鳩だった。周りはビルばかりで。それで公園に行って、鳩にエサをやるようになったのね。
H:公園で並べていた鳩たちはお手製なんですよね。この鳩が乗ったお帽子も。
T:そう全部私が作っているわ。フェルトでね。
H:今までで何羽くらい作ったのですか。
T:そうね…。100羽以上。2年半前から作り始めたの。
H:100羽…。かなりの数ですね。しかしまた何で公園に並べようと?
T:鳩の素晴らしさを知ってもらいたくて!鳩って可愛いのよ。私がエサをやると、こうやって(羽をばたつかせる様子を真似して)近づいてきて食べるの。科学的にも証明されているけど、鳩は賢い。当初は夫と一緒に鳩の格好をして歩いていたのだけど…
H:今より目立ちそうですね。
T:写真撮影ばかり頼まれて、全然成功しなかった。他の方法を探していたときに、ニット編みでできた鳩を作っている人に出会ったの。
H:鳩って以外と人気なんでしょうかね。
T:欲しかったんだけど高くて買えなかったから、自分で作ってみた。そしたら、すごく上手くできて。さらに2、3羽作って、アートショーに持っていったらみんな欲しい!って。
試しにまた10羽を作って道端に並べたら完売よ。そしてまた20羽作って…。そんな感じでこのインスタレーションとフェルトの鳩のビジネスがはじまったの。
H:なんと。これはれっきとしたビジネスだったのですね。インスタレーションはどんな反応されます?
T:私が一番好きなことは、外に出てアートを展示することね。ギャラリーや大きな美術館って嫌いなの。外を歩いてて大道芸人がパフォーマンスしてたり、絵描きがペイントしていたり、そういうのを見るとエネルギーが湧いてくる…。あれ、質問なんだったけ?
H:通行人の反応はどうですか?
T:ああ、そうそう。多くの人は「あなたがやっていることは美しい」「心が温かくなった、明るくなった」と声を掛けてくれる。反対に、「気味が悪い」「なんでこんなことをしているんだ」っていう嫌悪の声もあるけど、私は気にしないわ。
H:インスタレーションには、「Do Not Feed The Pigeons. They’re Already Stuffed(鳩たちに餌付けしないでください。彼らはもうお腹いっぱいです。)」って看板がありますが…。
T:そうよ、彼らはお腹いっぱいなの。
H:今後、どのような活動をしていきたいですか。
T:そうね…。いま、知り合いのマリオネット師と一緒に鳩のマリオネットを作ろうとしているわ。
私の夢はスーツケースいっぱいにフェルトの鳩たちとマリオネットの鳩を入れて、彼らに囲まれながら鳩の美しさを伝えていきたい、そのことに尽きるわ。
謎だった鳩おばさん。ちょっと変わっているのは予想通りだったが、危ない人ではなく、鳩に魅了されその魅力を啓蒙する、鳩の伝道師だった。
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Mother Pigeon /
motherpigeon
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Photos credit to Lippe
Text by Risa Akita