The Free Your Pits Movement(ワキ毛に自由を)
知っている限り、日本では剃ったり、抜いたり、レーザー脱毛したりで「なかったこと」にされている女子のワキ毛。だが、この夏、街のそこかしこで見かけたのはお洒落女子たちが、ノースリーブからのぞかせるワキ毛。剃り残しじゃなく、あるがままのボリューム感が、妙に説得力を持つ。
「あ、ヒッピー系ね」と、わかったような顔をしないでほしい。髪の毛、まゆげ、まつげ以外の女性の体毛は「むだ毛である」という固定概念。そんなもの、いつかはなくなるかもしれないとしたら?
剃らないで、カラーで遊べる新発見
「ワキ毛に自由を(The Free Your Pits Movement)」というスローガンとともに、メディアや社会が女性に押し付けてきた「美の基準」に疑問を投げかけるムーブメントが注目を集めている。
ことの発端は、米国シアトル州在住のヘアスタイリスト、ロキシー・ハントとレイン・シセルの好奇心あふれる「実験」から。「ずっと、誰かのわき毛を染めてみたくて」。そんな想いを同僚のレインにぶっちゃけてみたロキシー。
ロキシー:「染めさせてくれる?」
レイン:「いいよ 笑」
せっかくだから「髪色に会わせてブルーに染めてみようか!」。2014年10月、その“染色プロセス”をブログにアップしたところ、SNS上で反響を集めた。インスタグラムでは「#dyedpits(ワキ毛を染めよう)」 、ツイッターでは「#freeyourpits(ワキ毛を自由に)」のハッシュタグで瞬く間に拡散され、さらに、米国の朝の情報・ニュース番組『Today(トゥデイ)』で取り上げられたのをきっかけに、その認知度は全米レベルになった。気付けば、マドンナやレディーガガ、マイリーサイラスといったビッグネームも巻き込んだビッグムーブメントに発展。
注目度に比例してバックラッシュ(誹謗・中傷)も増えた。だが、「女性のワキ毛を“醜い”と思う人もいるけれど、私はそうは思わない。剃りたくないから剃らない。それだけのこと。他人に指図される筋合いはないとわ。だって、このカラダも、自然に生えてくるワキ毛も私のモノ。どうするかは私の自由でしょ?」と一蹴する。
「セレブやモデルもやってるトレンド!」というメディアの取り上げ方への違和感
そんな彼女たちに賛同する女性は続いた。その意思表示として、カラフルに染め上げたワキ毛写真をSNSでアピール。ムーブメントは世界中に広がっている。フォロワーの多くは、「これがより良い未来につながるフェミニズム運動だと理解して参加している」という。一方で、メディアは「女性の間での(ちょとした)流行」として取りあげる。それに対して、二人はどう思っているのだろうか。
「トレンドっていう取り上げられ方には違和感があるけれど、もうね、参加の動機は『SNSをみてクールだと思ったから真似してみた!』でもいいと思っているの。このムーブメントに一人でも多くの人が参加してくれれば、女性がわき毛を生やすことが、いつかは『普通』になる。それが私たちのゴールだから」。
女性がわき毛を生やすことを「普通」に変える。そうすれば、女性も心置きなく自然体でいられる。剃るも、生やすも、染めるも自由。「どの選択をしようとも、批判されるべきではない」。
「わき毛のカラーリングが流行るかどうか」、「これはアリで、あれはナシ」、そんなジャッジメントはいらない。「本当に必要なのは『それでいいんだよ』という“励まし”です」とのことだ。
ママ、痛そうだよ。娘の「どうして剃るの?」に答えられず…
ムーブメントを牽引するロキシーとレインも、「10代の頃は周りに合わせて(わき毛を)剃っていた」という。 けれど、「私は敏感肌だからカミソリ負けがヒドくて」とレイン。ヒリヒリ痛いからもう剃らないというと、周りからは怪訝な顔をされた。また、ロキシーは、ムダ毛を剃るのを辞めた理由について「娘に、『ママ、痛そうだよ。カサブタがいっぱい。なのに、なんで剃らなきゃいけないの?』と聞かれて、娘に分かるように答えられなかったから」と話す。
なぜ女性は、こんなに手間がかかり、痛みを伴うことをし続けなればならないのか。これは自傷行為と同じではないか。そんな理不尽さへの疑問は、大きくなるばかりだった。「私たちと同じように『本当は剃りたくない』と思っている女性はたくさんいるはず。一人でも多くの人に『それでいいんだよ』と伝えたい」。
無人島に一人でいれば、少々顔がむくんでいようが、毛むくじゃらになっていようが、悩むことはない。社会の中で生き、周囲の目があるから悩むのだ。「剃るも、生やすも、染めるも、本人の自由」。そういって女性の多様性を受け入れられる人が増えると、随分、生きやすい。救われる人は五万といる気がする。
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freeyourpits.com
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Wrier: Chiyo Yamauchi