「アーバンアグリカルチャー(都会での農業)」の注目が高まり続ける近年、サンフランシスコの街中では「コミュニティファーム」が増加中。「共同農園」のことで、人々が“共同”で野菜や花を育てる区画だ。「誰もが」出入り自由、参加自由。そのコミュニティファーム、実は「高速道路の反乱」から生まれていた。
Photo by Tomoe Nakamura
他人同士が一カ所の農場で共同作業?
日本でも「貸し農園」や「コミュニティーファーム」といった言葉を聞くようになったが、日本の「貸し農園」はその名の通り、賃貸料を支払って各々が個別に野菜などを作っている土地のこと。個人の借り主やグループが自由な時間に好きな作物を作る。
日本での「コミュニティー・ファーム」の定義はまだ曖昧で、グループで都会の空き地で有機栽培をしているところもあれば、農家が減少している田舎に共同で土地を借りて、地産地消の農業をやっているところもある。
田舎の場合は自治体や農協と共同で運営しているところもあるが、日本の「コミュニティー・ファーム」は“個々の団体”が一カ所でやっているところが多いといった感じ。比べてサンフランシスコは、他人同士が「一カ所のファーム」を作りあげる、真に「共同」農場だ。
Photo by Chris Martin
女ともだち同士で農園
女友だち同士で始めた小さな農園の「リトルシティ・ガーデンズ」、オーガニック食材や生活用品で市民に知られているスーバーマーケットの「レインボー・グローサリー」や近隣で作られている野菜やオーガニック製品を売る「ミッション・コミュニティ・マーケット」など、サンフランシスコのコミュニティ・ファームの種類は様々。
というのも、サンフランシスコ市内には様々な「アーバンアグリカルチャー系」のNPO団体や個人がSFUAA(San Francisco Urban Agriculture Alliance:サンフランシスコ都市農業連合)に所属しているため、その活動の土壌が整っているからだ。
多くは団体や友人同士、学校単位で土地を所有したり、個人宅の裏庭で栽培しているが、SFUAAに所属することで互いの存在を認識することで、さまざまな団体が対立することなく合法的に野菜を販売している。
単に野菜を育てるだけではなく、農業従事者教育から子どもたちが自然に親しむ施設、育てたものを受け入れるスーパーマーケットやレストランに至るまで、すべての組織がこのSFUAAによってつながる仕組みになっているのだ。
Photo by Tomoe Nakamura
「農場」は市民の反乱の産物
「49 Farms(フォーティーナイン・ファームズ)」、サンフランシスコのコミュニティ・ファームを運営する団体なのだが、これまた成り立ちが面白い。
「有機栽培をやってみたい」「農業を守りたい」というきっかけとはちょっと違う。
1949年以降、第二次世界大戦後カリフォルニアが発展していき、都市化、宅地造成で、不動産業者や国が土地を買収。市民が立ち退きを余儀なくされ、高速道路もどんどん整備されていった。
70年代になると、サンフランシスコにもハイウェイを通す計画が起こる。それに反対していたグループがハイウェイ建設途中の土地を買取り、とにかく「地域に還元するような土地を持っていれば、道路をつくれないだろう」と考えた。
そこでできたのが「49Farms」が母体となる「ヘイズバレー・ファーム」というコミュニティ・ファーム。農業のためというよりも、都市化による高速道路建設に反発する運動がきっかけとなり、「地域還元」するような土地として考えられた結果、農場になったというわけだ。
Photo by Edible Office
市長も認めた「自由な農園づくり」
49 Farmsはヘイズ・バレーファームをきっかけとして、サンフランシスコ市の49マイルを1平方マイルずつ分割して、区画一つに最低一つはコミュニティーファームを作りたい、という計画を立てているそうだ。49 Farmsがすべてての農園の管理、運営している訳ではなく、サイトなどから市民に呼びかけて、趣旨に賛同した人が、また別の場所で同じようなことをやっていく、というシステムになっている。
市民の憩いの場所にしたり、園芸やパーマカルチャー(持続可能な農業)の教室を開いたりなど、コミュニティ・ファームは市民のために幅広く活躍している。
2011に、サンフランシスコ市長より正式にアーバン・アグリカルチャーを市内につくることを承認を得たことも、コミュニティ・ファームの増加の大きな一因だ。
それまでも趣味的な畑はあったが、家庭菜園や、コミュニティーファームなどで作ったものを販売したりするには複雑な手続きが必要だった。この許可を得て、49 farmsや他のコミュニティ・ファームは、公認で市内に農園のプロジェクトを広げる事が出来るようになった。
「市民を守る」サンフランシスコの農園
ヘイズバレーファームの運営メンバーの一人のジェイさんは、49 Farmsコミュニティーファームは、農園ではなく「臨時のコミュニティーセンター(集会所)」と話す。地域の交流が本来の目的なので、使用料はタダ。
“実験農園”といったところもあり、土はコンポストで要らない食べ物を使い回したり、人糞を使ったりしてリサイクルして作る。大量の土を生産して畑作りや肥料に使う。都会の中で、自分たちの消費した物がどう循環するか市民に伝えようとしている。
教室で培った知識や副産物を農園で活用するため、自分で新たに土地を開墾するときには、一から作るときよりもスピーディーに出来るという。
「コミュニティー」としての役割とは別に、新たなコンドミニアムやアパートが乱立して、家賃が高騰しているが、「農地」として土地を使用し続けることで、不動産の乱立を極力押さえるという役も担っている。
農園の土地が高騰して運営が難しくなったときは、他のところに潔く移動する。そこが一定の土地に根ざした日本の農業とは発想が違う。土地を保つことよりも、「コミュニティーの中で持続可能な農業」をすることが、最重要なのだ。
Photo by Edible Office
日本でも開発で、道路やビルの建築などで、昔からいる住民が立ち退かされることがある。国と開発業者が、土地所有者の前に立ちはだかって、「一色触発!」といったシーンはニュースでも見るが、あまり気分のいいものではない。大抵は結局話し合いの上、お金のやり取りがあり、所有者は別の場所に移動して終わり。
サンフランシスコのフリーウェイを守って来た人々の活動は、争い無くして、結果、市も説得したうえ、市民のための「持続可能な生活」まで考えている。現代的でスマートなプロテストの形なのではないだろうか。真っ向から戦っても無理な場合は、新たな発想で物事をはじめてみるのもいいかもしれない。
Text by Tomoe Nakamura edited by HEAPS