PCやスマホでポチっとすれば数秒。そんなEコマースが溢れて、モノの売買がインターネットのせいで“冷たさ”を感じる現代。ネット上は「自由」だのなんだのいいながら“違法化”“リジェクト”で壁ばかり。
ならば、そのEコマースを「リアル」でやってみたらどうなんだ?インターネットを便利世界から、現実世界で再現したらどうなる?もちろん、売るモノは自由だ。
「肌の温もりのあるネット世界」を求めて、2012年、東京神田の廃校舎ではじまり、翌年には新宿の業務スーパーの横で再び開催されて人気を博した「インターネットヤミ市」、またの名を「会場に行かないと買えない残念なEコーマース」。今年9月、満を持してニューヨークの大倉庫へやってきた。
「インターネット生写真」「裏URL」「お寿司のリブログペイント」
などなど、インターネットに関わるあらゆるものを「ブース」で販売していた東京のヤミ市が上陸したニューヨークの大倉庫。FBのいいね!のプロップを掲げるおじさん、instagramの写真フレームを作って実際のカメラで写真を撮るブースで『寄生獣』のミギー片手にはしゃぐギャルもいれば「オーガニックマフィン、1個2ドル」と売り出すちょっとイケメンのお兄さん、そしてごった返す来場者で当日はだいぶカオスな様子。
ヤミ市についてもう少し触れておこう。「バーチャル空間でしか可能でないと思われていることをリアル空間で」と、東京で開かれたイベント。オフラインでのネット社会の再現にネット住民たちは歓喜をあげた。多くの反響から、このギークな香り漂う闇市は東京をはじめ、札幌、ベルリン、台湾、ソウル、オーストリアへ活躍の場を広げ、ニューヨークにもようやく上陸したということだ。
ちょっと未発達な「クイーンズ地区」とネット世界、相性良し?
「急速に発展する技術に逆らい、いったん、立ち止まってみる。リアル世界でインターネットを再現してみたら面白いのではないのかと思ってね。インターネット由来のものを、あえて現実世界に持ってくることで、インターネットによって変化した概念や価値観が見えてくるのではないかと」。そう話してくれたのは、IDPWのYAE AKAIWAさん(IDPWとは、“創設者は100年以上前から活動を続ける”と自称するインターネット上の秘密結社)。「インターネットヤミ市」の生みの結社で、今回のニューヨークでの開催にも来ていた。
ところで、ヤミ市といっても闇組織の作り出すマーケットではく、テーマはただ一つ。
「インターネットに関するものを現実で売る」。実にシンプル、違法でない限り制限、規定はなし。さらに、インターネットに関するものとあるが、実際には前述のオーガニックマフィンもあったりなので、「こじつけ」られれば何でもアリなのだ。
アイロニーもたっぷり。ネットヤミ市で、「ネット世界への警告」
さて、ニューヨークといえばマンハッタン、ブルックリンと思うかもしれないが今回ヤミ市が行われたのは意外にも「クイーンズ地区」。「あえてクイーンズ」と話すのは今回のニューヨークヤミ市でのオーガナイザーのクリス・ロメロだ。
「クイーンズは、ブルックリン、マンハッタンほどアートシーンが発達していない。だからこそ、このエリアなんだ。センターにないからこそ、表舞台向きではない“インターネットのギークらしさ”溢れる世界に類似してると思ったんだ」
実際のブースでは、ネットとの共存に蝕まれている私たちをモジって、インテリアにパソコンのデスクトップの画面をプリントアウトしたもの、日々ネット上で見かけるGIF画像をリングやマウスパッドにして商品化したもの、携帯電話に依存している生活の様子をパロディ化して何も機能のない携帯電話を売り出し、いかにネット中心の生活を送っているかをコミカルに知らせる商品も多かった。
このイベントをスタートさせてからYAEさん自身もインターネットに関する価値観が変化したという。
それからもう一つ目立ったのが、「旧インターネット世界」への懐古の念。かつてのインターネットが恋しい、と主張するように、会場には今では珍しい「旧式携帯電話」をセラミックで型取りして色をのせその抜け殻たるものを販売する様子や、その昔ネット上で流行した画像やギャグのポスターやカードなどの商品が目立った。
「あの頃の微妙な不便利さが、無骨さがよかった」と、今となっては古い懐かしの商品を手にして喜ぶ姿も多かった。
ヤミ市は「オアシス」
instagramやTumblrなどで誰でもネット上に自分の日々の記録を残すことは簡単なのだが、結局は「手に取れるもの」への安心を求めている気がする。
たとえば、今回のヤミ市会場でもネット用語や流行をわざわざZINEにしたものや、Tumblrを使っている間にUSBスティックを差し込むとランダムにリブログをはじめるものなど、オンラインサーバー上で事足りるものをあえて「モノ」か「デバイス」に落とし込む。いつの時代も求められるのは「アナログ的なモノ」で、それは物理的なものに対する懐かしみからきているのかもしれない。
すさまじい進化の裏で、時々、いまのネット社会の息苦しさを痛感する。炎上、犯罪、監視。ネット世界のしがらみは、現実世界の生活に影響する。
ネット社会は本来自由なものであったはずじゃ?リアルと切り離されていたからこその自由があったはずじゃ?
こういった苦しみや憤りを感じた人々が、逃げ道や楽園を求めて、インターネットヤミ市を「リアル世界」に作った。結局は「アナログ的」なものに安心し、無意識的に癒され、リアル世界で「自由」を求めているが、もうネットなしの時代に戻ることはできない。
だからこそオフラインにネット世界の「オアシス」を築きあげて、ネット世界を「外」から見る。インターネットとどう共存するか、どう関係を築いていくのかという意識を広げ、ネットとリアルの「息苦しい融和」を食い止めようと必死にもがいているのが、インターネットヤミ市の実態なのかもしれない。
Photos by Sayaka Sakamoto
Text by HEAPS, editorial assistant: Sayaka Sakamoto