エシカルで成功するファッションブランド「STUDY NY」
今年公開されたファストファッションビジネスの闇をセンセーショナルに描いたドキュメンタリー映画『THE TRUE COST〜真の代償〜』が話題になり、深刻な問題を徐々に暴露されつつあるファストファッション。たとえば長時間に及ぶ薬品の使用に代表される劣悪な労働環境、ないがしろにされる労働者の権利。さらには、石油産業に次いで世界で2番目に環境破壊につながる産業であるという事実。とはいえ、その安さに魅了された人々に「環境にいいんです」と声高に主張したところで「サステイナブルでエシカル」な服を代わりに買う人は少ないのが現実だ。
ならば「デザインで気に入ってもらえばいい」と、純粋な消費の勝負に出たのが、Tara St James (タラ・セイント・ジェームズ)。サステイナブル&エシカルファッションを掲げるブランド「STUDY NY(スタディー・ニューヨーク)」のデザイナーだ。
「エシカルでも、デザインで勝負」
「エシカルとかエコだとかいう部分を抜きにして、とにかく気に入って買ってもらうんです。そして買ってもらったその後、ウェブサイトや店員からその服がいかにサステイナブルでエコフレンドリーかということを知ってもらえればいい」と話す、デザイナーのタラ。彼女の生み出す服はトレンドに影響されないベーシックなデザインだが、スタイリッシュでクリエイティビィティを感じる。単純に、かっこいい。
いくら“サステイナブルファッション”のコンセプトをうたおうと、その認知度自体が低ければ意味がない。だから、スタディー・ニューヨークはその問題をデザインで解決する。”着たい”と思わせるデザインで服を買ってもらう、ブランドを知ってもらう。そこではじめて、スタディー・ニューヨークの「サステイナブルとエシカルなコンセプト」を伝えるチャンスを掴んでいるのだ。
服が持つバックグランドを知った顧客は驚いたり、好意的な反応を示す人が多いという。「サステイナブルを嫌う人なんて誰もいないわよね」とタラは微笑む。
デザインは素材選びからはじめ、かなりの時間を費やすという。ネット上にはじまり、ショールーム、トレード・ショーに自ら足を運び、できる限りの情報を入手。生産地は日本やインドなど海を超えることもあるが、生地の生産背景を知るために生産者との電話やメールでのやりとりは欠かさないなど、生産者との関係も大事にする。
その関係あってこそ入手できる頑丈で高品質な生地、リサイクルされた素材はスタディー・ニューヨークには必要不可欠だ。常に持続可能かどうかを念頭に置き、生地を無駄にしないようなパターンを引くよう心がける。生地をほとんど裁断することなく作るドレス”SQUARE 1”もこのブランドならではのアイテムだ。
“うわべ”のファストファッションに勝てるか
「彼らの環境保護の取り組みはうわべだけの活動といっていいかもしれない。そのほとんどが本当の意味でのサステイナブルにつながっていない」。地球環境の改善に取り組むファストファッション企業について尋ねると、そう手厳しい言葉が返ってきた。環境保護を企業ミッションに掲げるファストファッションブランドでも、依然としてトレンドを追ったデザインを低価格で販売、結局は大量消費を促すことに変わりがないからだ。
そんなファストファッションに対抗する形で2005年頃に、「高品質なものを長く着る」スローファッションとして登場。しかし、当時は環境に優しい素材を見つけるのも難しく、ファッションが抱える環境や倫理の問題を理解している人も少なかった。
それから10年たったいま、素材の入手は簡単になり、エシカルファッションを学ぶ学生も増えてきた。「未来のデザイナーがファッション業界を変えていく」と、タラは信じる。
ビジネスを考えれば長く着れるスローファッションは決していいアイデアでないと認める一方で、長期的な視点で考えると有意義である、という。「スローフードムーブメントのように、より多くの人が普段着ている服がどういった過程で、どのように作られているのか知ることが必要になってくる」。1枚の服を作るのは機械だけでなく、人の手が必要なことや、縫製工場で働く人やコットンを栽培する農家の人たちの労働環境など、服が作られる過程について目の向けられない事実が多くあるのだ。
ファストファッションが消える未来
「工場が低コストでの生産を拒否するようになり、これまでのような低価格で服を生産できる場所を見つけるのが難しくなる時代が到来し、ファストファッションはその勢いを失っていくでしょう。すぐにほつれたりボロボロになる服ではなく、高品質で長く着れる服を選ぶ人が増えていくと思います」とタラは予想する。コットンの栽培、染色や加工などに大量の水を浪費するファッション産業の現状を踏まえて、これから重要な問題になる水資源の確保についても取り組んでいきたいと、サステイナブルファッションブランドとしての姿勢も語った。
“質問する”をブランドのメッセージとするスタディー・ニューヨーク。ブランドやデザイナーに対して「何でできているのか?」「誰がこの服をつくったのか?」「どのようにして作られたのか?」と疑問を持ち、質問する。それこそが消費者にできる、もっとも簡単で影響力のあることだ、と。私たち消費者の、毎日口にする食べ物の産地にこだわるように、毎日身につける服について疑問を持ち、その産地や過程について知ろうとする行為が、スローファッションが挑んだ闘いを後押しする力となる。
Photographer: Tokio Kuniyoshi
Writer: Akihiko Hirata, Edited by HEAPS