世界一「ニッポンプロデュース」がうまい、あの企業に聞いた クールジャパンの作り方

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15億円投資獲得、FBファンの99%は海外。それが、Tokyo Otaku Mode

「かわいくてポップ。ときにクール」。
そんな日本のカルチャーシーンの商品や情報を海外に発信するTokyo Otaku Mode(以下、TOM)。昨年9月、クールジャパン機構※から3年間で最大15億円の投資を得ることに成功した、いま、最も日本のコンテンツを世界に売り出すことに長けた企業(または組織、集団)といっていいだろう。そんなイケイケ企業な彼らだが、インタビューで話してくれたのは、「市場を決して楽観視していない」という意外な言葉だった。

英語にまでなった「Umami」がウリの日本食や、匠の技である伝統工芸品などは「クールジャパン」として世界各地の「日常」に溶け込み、日本におけるイタリアンやフレンチのように当たり前の存在にまで昇華していく可能性は高い。一方、アニメや漫画のコスプレ集団は、派手で目立つために世界中のメディアに取り上げられてはいるものの、あくまで「非日常的なもの」として終わる可能性を危惧するのも当然かもしれない。

それでもTOMは、オタク文化をイチオシしている。なぜ、アニメや漫画に将来の可能性を感じているのか。現状を打破する可能性やその取り組み、そして彼らのこだわりについて、CFOの小高奈皇光(なおみつ)氏と共同創業者で広報を務める秋山卓哉氏が語ってくれた。

※日本の文化や商品を売り込む経済産業省をはじめとする官民ファンドの海外需要開拓支援機構

オタクコンテンツを守る勇者たち

「アニメや漫画といった日本の誇るべきコンテンツが海外で垂れ流し状態」。いち早くその危機を察知し、「なんとかせねば」と立ち上がったのが、Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)の初期メンバーだ。小高も秋山も、ほかのメンバーと同じく、本業の傍ら、手弁当でスタート。2011年にFacebookページを開設、フォロワーのいない暗黒時代を経たのち、シリコンバレーのベンチャーキャピタル「500 Startups」の投資先に選ばれるまでに。それをきっかけに、MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏や元アップル副社長のアンディ・ミラー氏をはじめとする、インターネット業界の重鎮からの支援を受け爆発的な成長を遂げた。Facebookページは2年弱で1,000万「いいね!」を獲得。現在、全世界から1,726万「いいね!」(2015年4月末時点)を持つアイコニックなオタクコンテンツメディアに成長した。先見の明だ。ニッチだろうとニーズのある分野に、いち早くSNSとクリエイターに還元する正統なビジネスで市場をつくったのだ。アニメや漫画は「クールジャパン」の代名詞、向かうところ敵なしではと思いきや、どうやらそうでもないらしい。

「『クールジャパン』という言葉に惑わされないこと。日本のコンテンツは世界に知られているようで、実際はまだまだ。僕らはその事実に危機意識を持っています。だからこそTOMには、日本から発信する、日本のコンテンツを守るという使命があります」。そう話すのは、CFOの小高氏。海外ではすでに日本食や伝統工芸品といったコンテンツには「クールジャパン」が定着している。一方で、ポップカルチャーは奇抜で目立つため注目されているが、まだまだ得体の知れないものだ。それでも一部の人々が熱狂し、その人気は一人歩きし、海賊版がまかりとおるなどの問題も発生。だからこそTOMは、日本発信だが英語を第一言語に多言語で展開している。「オリジナル(コンテンツ)の価値を伝えそれを守る、それが私たちの使命です」

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オタクをもっと普通のスタイルに。

 日本のコンテンツを多言語化し、最もユーザーに届くSNSを通して発信することで、原作者、オリジナルをリスペクトする、質の高いユーザー(読者)を育てる。海賊版に対抗するためにTOMはまず、オリジナルのコンテンツホルダー(著作権者)に交渉し、正規品を取り扱う。中には、小さな企業が作っているクレーンゲームのぬいぐるみなどがTOMのECサイトを通して世界デビューするなど、シンデレラストーリーも生まれている。

 買い手側のメリットは正規品が手に入るというだけではない。TOMを通じて購入すると「正統なオタクの証明」をも手に入れたような、ちょっとした優越感をも得られる。クリエイターの権利を尊重した正規ルートの確立は、著作権の常識が通らない海賊版の世界では難しい。“正しい”倫理観を芽吹かせようとするのは、大いなる挑戦だ。それでも、入り方は“パチモン”だったとしても「本当に清く正しいオタクであれば、オリジナル(本物)にたどりつく、尊重するようになる」。そう信じたいじゃないか。

 昨年夏からは、国内の流通拠点のほかに、北米にも物流拠点を構えたTOM。製造元が北米に在庫を持っているケースが多い上、売上の50%強が北米だからだ。「今後はアジアにも拠点を構えたい」と意欲を燃やすのは、アジアの市場を正したいという思いがあるのと同時に、アニメや漫画のコンテンツ人気はアジアも欧米にひけをとらないからだ。

「おもしろい」をカバーする多様性

 ならば、一体、コンテンツの何が「イイ」のか、世界に通じるのか。「いろいろな人の『おもしろい』をカバーできる、ストーリーの多様性です」と断言するのは秋山氏だ。「おもしろい」の価値観は、人それぞれ違う。しかしアニメや漫画では、メガヒット作品以外にも、多種多様なキャラクターとストーリーが存在し、ニッチな層にも刺さる良質な作品が数多くある。一つの作品で世界を取るのは難しいとしても、多様性を届けると、世界中の人の「おもしろい」をカバーできるという算段だ。欧米ではアニメは子ども向けのものだが、日本の作品はすべての年代に響くコンテンツが多い。スタジオジブリ作品をはじめ、家族一緒に楽しめるものがあり、そのターゲットの広さも海外戦略の強みになる。

 コンテンツが届けるのは、従来ある考え方や価値観、世界観に取ってかわる新しいもの。日本の漫画やアニメが世界でもウケる理由の一つは、そのユニークさであり多様性だ。欧米では勧善懲悪型の内容が多く、白黒付けることに違和感を覚える層に刺さる。「キリスト教をはじめとする一神教の文化土壌で、オルタナティブ(選択肢)を提供している側面がある」と小高氏は指摘する。単一民族国家で多様性に乏しいとされる日本。しかし実際は、廃藩置県前は関所という国境があり、尾張国(おわりのくに)だ武蔵国(むさしのくに)だと、それぞれの「国」ごとに言葉や風習があり、とても「単一」なんかではなかった。「十人十色」「百人百様」「千差万別」という四字熟語があるように、「みんな違って当たり前」が当たり前の風土だったはずだ。日本には多様性がある。そしてそれを体言しているのが、アニメや漫画といったポップカルチャーのコンテンツであり、その多様性こそが、世界に通じる理由だと、二人は声をそろえる。一を十にもするコンテンツの“感染”力

 コンテンツ制作側に常に求められるものについて「海外視野」を挙げる両氏。「キャラクターやストーリー設定で、世界中の人が共感できる要素を散りばめる必要があります。たとえば日本だけでなく世界的にヒットしている『進撃の巨人』。登場人物たちは、◯◯人と特定されていません。テーマも、『自由のために闘う』『だがその自由とは何か』という、国や宗教といった枠を超えたもの」と、ユニバーサルなコンテンツ設定の強みを強調する小高氏。また、秋山氏は、「グッズなどの関連商品化やスピンオフを念頭に、それぞれのキャラクターが際立つ設定とデザインが求められます」と、一をニにも十にもする視野を持つことをすすめる。こうした制作側に必要とされることに対し、TOMはコンサルティングを提供できる強みがある。

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 さらにTOMには、ユーザーをサービスプロバイダーにする“感染力”がある。世界各国に「TOM所属」を名乗る翻訳家がいて、よりオリジナルに忠実な多言語化を試みるなど、まさに「好きこそものの上手なれ」。オタクパワーはハンパない。そこでTOMは、国内外に広く日本マンガの魅力を伝えていくための漫画翻訳コンテスト「Manga Translation Battle」の運営を文化庁などとともに協力した。さらには、「TOMのニュースメディアのファンだった者が、うちで働いていたりします」と秋山氏。「好き」の感染力はバーチャル世界を飛び出して、現実世界でもコンテンツの拡大に貢献している。「クリエイターにもユーザーにもwin – winになるようなフィジカルな場を創造すべく、将来的にTOM主導のエキスポなどを各国で運営できたらよいですね」と小高氏は今後のビジョンを語ってくれた。

 欧米ではサブカルチャーをはじめとする「何か」を極めた専門家として一目置かれる、オタク。「暗い」「社交性がない」などのステレオタイプはもう古い。TOMは、オタクは「萌え」だけではなくスタイリッシュでファッショナブルなあり方、つまり「MODE」だ、と定義する。日本発で海外にオタクカルチャーを発信することで、その評価や反応が、国内でのオタク再定義にもつながると信じている。多様性を持つオタクなコンテンツこそが世界をもっとおもしろくする。そんな未来を実現したいなら、まずはあなたの中の、オタクモードをオンにせよ。

otakumode.com
facebook.com/tokyootakumode

What is Tokyo Otaku Mode?

日本のオタク文化を世界中のファンに体験してもらうためのサービスを運営・開発。2011年に日本のアニメやマンガといったオタク関連情報を紹介するFacebookページとしてスタート。ページのファン数は日本人が運営するものとしては国内最大級で、日本発のメディアでありながら、ファンの99%は海外。日本からは見えにくかった多くのファンたちが、TOMの配信する作品や情報を支持しています。2012年に、Webサイト「Tokyo Otaku Mode(otakumode.com)」を設立。優秀で若いクリエイターとファンを結びつけるギャラリーやニュースサイトの運営を開始。2013年には公式に海外での販売許諾を得て国内アニメや人気クリエイターの商品を世界中に送り届けるECサイト「Tokyo Otaku Mode Premium Shop」をスタート。英語翻訳された電子ブックの配信など、多様に存在するオタク文化をより多く、より速くリーチさせるために複数のサービスを運営。創業メンバーがサラリーマンをしながらサイト開設をしたこと、米シリコンバレーの有名ベンチャーキャピタル「500 Startups」の投資先として選ばれ、実業家でMITメディアラボ所長の伊藤穣一氏や元アップル副社長のアンディ・ミラー氏をはじめとするインターネット業界の重鎮が支援していることでも知られる。

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Photographer: Tomoko Suzuki
Writer: Kei Itaya

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