カップルの数だけ、愛の形は存在する。本人同士にとって「当たり前」でも、他人には「タブー」ということも多々あるだろう。何が正解で間違いなのか。第三者にはジャッジする権利はない。ここにもまた、新たなスタイルで付き合う人たちがいる。「男三人でつき合っています」と話すのは、松井俊太だ。ゲイの道へ進んだきっかけから、家族や友人へのカミングアウト、日本のゲイ事情、ニューヨークでゲイとして生きていくこと、三人の関係性、セックスの話まで、次から次へと浮かぶ疑問を抱え、彼の元へ出向いた。そこには、型破りだが欲望に愚直なまでに幸せを追究するスタイルがあった。
このユニークな関係を築く“三人カップル”の一人は日本人男性、松井俊太(26)。二人のアメリカ人男性とオープンリレーションシップ(恋人がいながらも、第三者との性行為も公認した付き合い)を持っているとあっさりと公言する。
現在、ファッション専門学校「Fashion Institute of Technology」にてファッションマーケティングとコミュニケーションを学ぶ傍ら、ショールームでインターンをしながら忙しく毎日を過ごしている。キャリアアップのために松井が来米したのは2011年。移民としてニューヨークで生活するのは簡単なことではないと話す松井。不安や困難にぶち当たったときに、「いつもそばにいてくれたのがニコラスとアンソニーで」と二人のことをうれしそうに笑いながら話す。
心理学教授のニコラス(33)と、大手米系デパートメントストアの管理職のアンソニー(32)は12年来の付き合いで、約2年前に松井が加わり「三人の関係」がスタートした。ニコラスとアンソニーは松井のことを「ハニー」と愛嬌たっぷりに呼び、恋人、友人、セックスフレンド、その全てに当てはまる関係を築いている。一つの関係に固執せず、絶対的な信頼のもと、三人の自由な関係があるという。「今では週の半分以上を一緒に過ごしています」と話す松井は、「三人の関係」を包み隠さず話しはじめた。
Q.三人でつき合いはじめたきっかけを教えてください。
A: 2012年、ニューヨークにハリケーン・サンディが上陸したときに、外出できる状況ではなかった。家にこもって退屈していました。そのときに、ゲイ専門出会い系アプリ「グラインダー」を通じてニコラスが近所に住んでいることを知り、「会ってみよう」と軽いノリで会ったのが最初でした。
率直に「体の関係を持ちたい」という思いでした。それ以上の関係は期待せずに(笑)。実はその当時、ニコラスはアンソニーはすでに付き合っていて、仕事の関係でアンソニーがダラスにいたので遠距離恋愛だったそうです。ニコラスも僕とは「体の関係のみ」と割り切って会っていました。しばらくその関係が続きましたが、変化が訪れたのは、出会ってから数ヶ月経ったバレンタインデーでした。
“デートらしい”プランでニコラスが僕を楽しませてくれて、体だけの関係ではないのかも、と薄々気づきはじめました。僕とニコラスが知り合ってから半年後、アンソニーがニューヨークへ越してきて、二人は同棲を始めました。そのとき、ニコラスはアンソニーに、僕との関係を打ち明けたみたいなんですが、それをアンソニーはすんなり受け入れたようです。
それから週に1回、三人で会ってごはんを食べたり、家でゆっくりするように。今では週に4回は一緒にいます。自然な流れで、三人の付き合いがスタートしました。
Q.アンソニーから嫉妬を感じたことはありますか?
A: 実は、それ以前からも二人はオープンリレーションシップの関係で、僕とニコラスの関係についてもアンソニーは何も言わなかったようです。ゲイ同士のセックスでは、トップとボトムという役割があります。
両者が交代制でセックスを楽しむというカップルもいるだろうし、最初から役割分担が決まっているカップルもいます。以前はニコラスがトップで、アンソニーがボトムと、役割が決まっていたそうです。だけどある日、アンソニーが「僕もトップになりたい」と言い出したようで、それならセックスに関してはお互い自由にしようと、オープンリレーションシップがはじまったようです。今は僕がそこに加わっている状況ですが、トップ同士になってしまったニコラスとアンソニーが二人でセックスをすることはないんです。
「三人で」ということもほとんどない。僕自身はアンソニーとニコラス、両方とセックスします。ニコラスは夜型人間で、アンソニーは朝型人間だからっていうのも、別々にできる理由の一つ。三人ともが、お互い、三人以外の人とセックスすることもあります。性行為に関しては、本当に欲望のままという感じですね。
Q.他の人とセックスする上でのルールなどは。
A: コンドームをつけることは絶対のルールですね。三人ともセックススケジュール帳をつけることを約束しています。いつ、誰と、どんなセックスをしたか。それもかなり詳しく(笑)。オーラルセックスだったか、きちんとコンドームを使用したか、感想まで(笑)。三人でオンラインのドライブを共有して、オープンに読めるようにしています。
Q.後から加わったことで、「アウトサイダー」のように感じることはありますか?
A: ないですね。彼らはお互いのことを「ラブ」と呼び合い、僕のことは「ハニー」と呼ぶんです。そこの区別に関しては、僕はあまり気にしていません。そう呼びたければそれでいいって感じですね。形にこだわるから、嫉妬したりもめるんですよね。彼らにとって僕は「ラブ」ではなく、「ハニー」の存在だということを受け入れて、その関係がお互いに心地よければそれがベスト。
去年のサンクスギビング(感謝祭)には、二人の実家を訪れて、彼らの両親にもちゃんと紹介してもらいました。その時にちょっとしたハプニングがありました。家族の前では僕のことを俊太と呼ぼうと事前に決めていたのに、いつも通り「ハニー」って呼んでしまったんです。ニコラスとアンソニーが付き合っていることを、家族はもちろん知っている。
けれどそこに僕が加わって、三人の関係となると、理解され難い。ニューヨークほど都会でもなくて、日本人も少ない地域だから、家族にどんな風に受け取られてしまうのかと気になりました。でも、とても優しい家族でした。僕らが三人で付き合っているということは、はっきりとは伝えませんでしたが、なんとなく気づいていると思います。
Q.ニコラスとアンソニー、それぞれどんな存在ですか?
A: どちらかというとニコラスはもの静かでインドア派。アンソニーが出張でニューヨークにいない時もよくあって、その時はニコラスと二人で家にずっといることが多いです。心理学教授というだけあって、知的で興味深い話をしてくれます。先日、ニューヨークに遊びに来た母が腕の骨を折ってしまったんですが、ニコラスが一緒に病院に付き添ってくれて、助けてくれました。困った時にはどんな時でも、必ず助けてくれます。
アンソニーはアウトドア派。休日には朝から二人でジムに行き、その後、外でランチします。彼もとても頭がよくて、社交的で面白い。社会経験も豊富で、これから就職をする僕にとって、そういう点でも学ぶことが多いです。ニコラスもアンソニーも、二人とも、見返りを求めない深い優しさがある。人として尊敬している。これからも変わらないことは、僕は二人のものだし、二人は僕のものっていうこと。
上手く言葉で表現できないけれど、彼ら二人はユートピア(楽園)のような場所。人は必ずブラックな部分とクリーンな部分を持ち合わせているものだと思う。彼らは僕のその両方の部分を受け入れて、尊重してくれる。
これ以上ないほどの安心感を与えてくれる存在。ニューヨークのようなエネルギーがフル回転している街だと、誰もがそんな存在を欲していると思う。聞いたことはないけれど、きっとニコラスとアンソニーも僕のことをそう思ってくれているのだと思う。そう思ってくれているといいな。
Q.3人での付き合いがうまくいくコツはありますか。
A: とにかくオープンに「話す」ことを彼らは大事にします。「困ったこと、嫌なこと、何でも話して」というタイプですね。それにいつも言葉でストレートに気持ちを伝えてくれるから、僕も安心できるし、信頼しています。
時には「今は話したくない」と僕が言うこともある(笑)。そんな時も僕が話すまでいつまでも二人は待っていてくれます。だから僕も時間をかけてでも少しずつ話すことができて、いつもありのままの自分でいられる。そんな僕を二人は受け入れてくれます。
ケンカはほとんどありません。一度揉めたことといえば、ニコラスが僕の交友関係に口出ししてきた時。僕が仲良くなろうとしていた男性のことをニコラスが偶然知っていて、あまり彼のことを良く思っていなかったみたい。「関わらない方がいい」と言ってきた。たとえニコラスであっても、僕の交友関係に口出しする権利はないと思ったから、彼にそう伝えました。
僕が誰と仲良くするかは僕が決めるし、それはどんなに深い関係であっても、第三者には関係のないこと。ニコラスとじっくり話し合って、結局お互い理解し合えましたよ。話すことの大切さも、彼らから教えてもらいました。
Q.ゲイであることを自覚したきっかけなどはあったのですか?
A: 大学の夏休みに、トルコへ2ヶ月半、ボランティアをしに行ったんです。そこで仲良くなったトルコ人男性とよく遊んでいました。日本へ帰国する間近のある夜、自宅で彼とお酒を飲みながら過ごしていると、彼が冗談まじりでポルノを見だして、結局そういう気分になっちゃったみたいで、結果的には襲われました(笑)。男性との関係はそれがはじめてだったんだけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかったし、抵抗もなかった。
帰国後少ししてから、当時付き合っていた彼女から突然別れを告げられ、ショックのあまりかなり落ち込んでいたんです。その時、ふとトルコでの一夜を思い出して、なんとなく新宿2丁目に。2丁目は想像以上に楽しくて居心地がよい場所でした。徐々に友人も増えて、そうするうちにデートをする機会も増えて。女性と付き合うと男性が食事でも支払うことが多いでしょ。でもゲイの人とデートすると、払ってもらえたり。なんだかもてなされることが新鮮でもあった。
僕の場合、実はゲイだったというよりは、むしろ、なんか面白そうな世界、だから「ゲイになろう」と思った。
Q.ゲイの世界の何が面白い、何が自身に合うと思いましたか?
A: ゲイの世界には、建前がないから、自分の考えや思いを、ストレートに話すことができます。そこが気持ちいいですよね。縄張りはありますけどね(笑)。女性に比べると嫉妬も少なく、いつまでも引きずったりしない。そんな風にあっさりとしてる部分は、基本、「男」ですね。心を開いて、それを受け入れてくれて。フェアな人間関係でいられることと正直でいられることは、僕にとって生きる上でとても大切なことだったんです。
Q.ゲイになったことで、これまでに葛藤や困難はありましたか?
A: 両親にはまだ話していないんですが、おそらく気づいています(笑)。友達にカミングアウトしても、彼らの僕に対する対応が変化することは特になかったし、あったとしても気にしない。僕のカミングアウトを相手が受け入れられないのであれば、それは相手の問題だと僕は解釈しています。“普通”ではないものを受け入れることができないのは、その人の器が小さいということ。
相手に嫌われたくないから、嘘をついて好かれるよりも、正直でいて嫌われる方がまだいい。ゲイであることは自分のパーソナリティの一部だから。本音を言い合える、そういう人たちを大切にしたいです。
Q.なぜニューヨークへ?
A: ニューヨークへ来たことと、ゲイであることはあまり関係していません。最先端の場所でファッションを学びたい、ということが一番です。留学は自分で生計を立てて、自立するためのステップ。でも、ゲイとして生きていくという点で考えると、ニューヨークに来てよかったなって思いますね。発想や恋愛に対してジャッジされないし、みんな好きなように生きてますよね。自分らしく自由に。
Q.アメリカと日本、ゲイカルチャーの違いって何でしょう。
A: 権利を主張するかどうか、それが大きな違い。アメリカでは既に同性結婚が認められている州もあります。それは、同性愛者たちが「私たちは差別されるべきではなく、平等に権利がある」と主張をしてきたから。これはゲイカルチャーに限らず、アメリカは個人の尊重や主張が強い。一方、日本では、個人が何かを打ち破ろうとか、新しい世界を開拓していく力がまだ弱くて、すでにあるものや、与えられた社会の仕組みをどう受け入れるか、ということが分かるのが「大人」だという価値観。肩身の狭い同性愛者も、その中で、彼らなりの居場所や生きる術を身につけるっていうのが、いわゆる日本でのサクセスストーリー。
おねえタレントなどがいい例で、「私たちはゲイだから結婚できずに、一人で孤独に死んでいくのよ」って姿勢で自虐的でしょ。あの姿勢だから日本の社会に受け入れられている。本当の意味で同性愛者たちの代弁者になってくれるような人がメディアに出てくれないかな、日本のゲイカルチャーもシーンもこれじゃ当分変わらないかな、と思ってしまいます。
結婚を認めるかどうかにこだわっているわけではなく、ゲイであろうと何だろうと、一人の人間として平等に、みんなに権利があると僕は思う。凝り固まった概念の中で、自らを卑下して生きるよりも、堂々と正直に生きていたい。だから、どちらが正しいということではなく、僕の場合は、ニューヨークの方が好きですね。
Q.同棲することは考えていますか?
A: 出会った当初は考えていましたが、今は同棲したいとは思っていません。もちろん同棲の方が楽だし、家賃の高いニューヨークでは金銭面でとても助かります。でも、外に出て行かなくなってしまいそうで。今は特に、卒業後のことも考えています。自立して生きたいという、来米前の軸は変わらないので、外でのコミュニティも大切だと思っている。ニコラスやアンソニー以外にも、いい人が見つかるかもしれないし。
Q.この先の三人の行方は?結婚も視野に入れているのでしょうか。
A: 今の状態が続けばいい。そこに結婚が必要だと思っていないので、特にすることもない。「夫婦」や「恋人」とカテゴライズするからこそ、逆に不安になるんじゃないかな。僕たちは「付き合おう」と口に出したことがないから、今だって恋人なのか友人なのか曖昧。一言で言い表すことのできない関係です。自分たちで好きなように作り上げてきた関係で、その三人の関係に値する言葉が何もない。
ただそれだけのこと。今後もしかしたら、また一人加わって、四人になるかもしれないし、必要なら結婚するかもしれない。何にせよ、本音を言えて、ありのままの僕でいられるこの関係がベストですね。
「こうでなければいけない」と、型にはまることのない生き方。無限の選択肢があり、ライフスタイルが多様化している今の時代、いつまで目に見えない柵に怯えているのか。自らの価値観を軸にしてこそ、本当の幸せを感じることができる。固定概念や世間体、「当然」とされていたことを打ち砕き、新たなルールを自ら構築していける。「自分にも他人にも正直に生きる」。そんな三人の生き方を包容してくれる、ニューヨークという街。おそらく今日もこの街のどこかで、新たなライフスタイルを切り開こうとしている人がいる。
Writer: Elie Inoue
掲載 Issue 17 LGBTと歩む街