宇宙へのロマンが生んだ、“宇宙ごみの掃除屋”見参!

Share
Tweet

1950年代、人類による宇宙開発がはじまったころ、漆黒の闇の中、ごみひとつ纏わない地球は、さぞ青く、美しかったことだろう。それが百年も経たぬうちに、すっかり形相を変えた。地球の周りにはいま、ごみの海が漂う。その数、大小含めて1億個。さらには秒速8キロという速さで動いている。スペースデブリ(宇宙ごみ)。昨年アカデミー賞を受賞した宇宙を舞台にしたSF・ヒューマン・サスペンス映画『ゼロ・グラビティ』の主演、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの“敵”は、まさにこれだった。人工衛星やロケットの破片といった宇宙ごみは、秒速8キロもの速さで地球の周りを飛ぶ、破壊の脅威そのものだ。

space_02

「(スペースデブリは)もはやフィクションではなく、宇宙環境を脅かす大きな問題です」。そう語るのは、2013年にシンガポールに本社を構え、今年4月に東京錦糸町に製造開発拠点を開いた衛星ベンチャー、アストロスケールの広報ディレクター、山崎泰教(やすのり)だ。

宇宙を夢みて思いを馳せる彼らは、ロケットや衛星開発、宇宙飛行士といった花形ではなく、ニッチを攻めることで宇宙開発業界にとって欠かせない存在になった。彼らの肩書きは「Space Sweepers」。そう、宇宙ごみの掃除屋だ。

ニッチを狙い、宇宙に関われるポジションを創造

 空の星を見上げたことがない人はいないだろう。星座を暗記したりスペースものの映画にハマったり、「宇宙人っているのかな」と思ったり。誰もが一度は宇宙に思いを馳せるはずだ。しかし実際に、宇宙への思いを胸に夢を叶え、宇宙開発業界に身を置ける者は少ない。多国籍の民間企業とのコラボレーションで宇宙事業に携わるアストロスケールには、東京大学出身者をはじめエンジニアのエリートたちが集う。彼らが業界の花形ともいえるNASAやJAXAへの道に進まなかったのは「進めなかった」というより、「進まなかった」といえる。それは彼らが自ら、「宇宙事業に関わりたい!」と宇宙ごみ除去というニッチを狙った事業を展開しているからだ。

 宇宙の持続的開発利用を目的としてシンガポールに本社を構える同社は、宇宙ごみ除去システムの研究開発を通じて、宇宙環境問題の認知向上に努めている。「国際宇宙会議をはじめ、宇宙関連のシンポジウムや会合に参加すると、みんながみんな、『宇宙ごみの脅威』について話しているんです。ニーズがあるのにその解決に取り組む、本格的なアイデアや事業がなかった。そこに僕らはビジネスチャンスを感じたんです」と山崎。

 「宇宙ごみ除去屋」の看板を掲げて2013年にベンチャーとして設立してから、プロバイダーを求めていた業界の寵児となりずっと黒字続き。人類が生んだ「人類共通の敵」である宇宙ごみ除去に特化するアストロスケールのビジョンは、衛星を有する国家、さらには民間の大手宇宙開発企業からも支持を受け、いよいよ再来年には宇宙ごみ除去機を打ち上げる。今年4月には、東京錦糸町に製造開発拠点をオープン。調達した10億円を有意義に使っている。

astroscale_mother&boy

夢とロマンが生んだ宇宙環境改善への取り組み

 宇宙環境改善というとスケールが大きくて想像しにくいかもしれない。その啓蒙・啓発(アドボカシー)もアストロスケールはミッションに掲げている。「宇宙はもっと身近なもの」という考えを広めたい。そんな同社の夢に賛同したのが、大塚製薬。チタン製のポカリスエットの缶に子どもたちの夢を刻んだプレートを入れた「ドリームカプセル」を月に送るというもので、その名も「LUNAR DREAM CAPSULEPROJECT」。民間企業初の月面到達プロジェクトとしても注目されている。月や宇宙に興味を持った子どもたちの中から月面に自ら挑む子が出ることを願って集めたメッセージは、現在1万通以上。2016年に打ち上げられるのをいまかいまかと待っている(ちなみにメッセージはまだ受付中)。月を見上げる度に自分の夢を思い描ける。子どもたちにとって宇宙はきっと、身近なものとして心に刻まれることだろう。さらには、そんな次世代が育てば宇宙環境への関心も高まる。同プロジェクトはまさに、夢とロマンが生んだ、宇宙環境へのアドボカシーといえる。

 もしも、だ。私たち人類が気軽に宇宙旅行ができる日がくるとして、どんな風に地球を見つめるのだろうか。ガガーリンのように「地球は青かった」と言えるのだろうか。「太陽系で一番美しい」といわれる水の惑星、地球。私たちの住むこの星の周りには現在、1億個以上もの宇宙ごみが漂っている。宇宙開発が開始した1950年代にはまったくなかった鉄くずの壁が、地球を覆っている。宇宙人がもしいる

ならば、「地球はずいぶん汚れたな」と思っているに違いない。1957年からこれまで、7,757機もの衛星が打ち上げられてきた。積もり積もったそれらから排出された1億個以上もの宇宙ごみのうち、1センチ大のものが100万個。10センチ大のものが2万個強といわれ、その“持ち主”はおもにロシア連邦、アメリカ合衆国、フランス領ギアナ、中国、そしてもちろん日本も含まれている。ごみ問題は地上だけでなく、宇宙(そら)にまであった。

Screen Shot 2015-05-31 at 4.27.20 PM

ドリームジョブがエコにも貢献

 このごみを除去するのが、アストロスケールが生んだ衛星「マザーシップ」と子機「ボーイ」だ。マザーシップには6機のボーイが装着しており、ターケッドの宇宙ごみを確認すると、ボーイがマザーシップから離れ宇宙ごみに接触しその軌道を変え、地球に“焼き落とす”仕組み。つまり、宇宙ごみは流れ星になる。宇宙ごみをなくすことは、衛星やロケットなどへの接触による破損や故障を防ぐことにつながる。つまり時間やコストの削減だけでなく、エネルギーや物質的な無駄の削減=エコにもつながる。

「宇宙へいきたい」

 そんな純粋な思い、夢が生んだ宇宙ごみ削減事業が、よりよい宇宙環境を築く礎となった。自分のドリームジョブが大気圏を飛び越えて宇宙環境改善にもつながっているなんて、なんと壮大でロマンに溢れているのだろうか。宇宙漫画の傑作『キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』を生んだ松本零士氏もアストロスケールの“ファン”だ。マザーシップとボーイが宇宙へ飛び立つのは2017年。近い将来、私たちが空を仰ぎ星々を見つめるとき、宇宙飛行士ではなく宇宙ごみの掃除屋の姿を思い浮かべる日がくるかもしれない。

astroscale.com/

astroscale.com

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load