全力で“おバカ”が地域を変える

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10メートル級の巨大猫風船は救世主
“全力でおバカ”が地域を変える チープな合成映像とすっとぼけたメロディー。「B級上等」といわんばかりの映像から出るサブカル臭にガッツリと心を掴まれてしまった。コミカルで軽快な映像は何度でも見入ってしまうが、内容がまったく頭に入ってこない。3回見てやっと「どうやらアートイベントの動画」と解明。Laser Cat(レーザーキャット)という巨大な猫がいて、その目から出るレーザー光線でアートワークを投影する「Cool Shitな(ちょーカッコイイ)イベント!Pew Pew(ぴゅーぴゅー)」。Hungry Castle(ハングリーキャッスル)と名乗る30代半ばの男性二人組がそう真顔でおどける。気温5度、風の強い夜。ブルックリンのウィリアムズバーグ地区の空き地で彼らがパーティーをすると聞きつけ行ってみた。すると「いた!巨大な猫!」。

A級がB級を超える予感  イベントの奥のDJブースに、目に眩しい黄色のジャケットを着た二人の男がいた。イベントの仕掛人「Hungry Castle」だ。「やあ!ようこそ。今ね、ピザを食べてて忙しいんだ」「油で手がべとべとだぜー」と手のひらをこちらに向けて顔を覆おうとやりたい放題の二人。話を聞かせてもらいたかったが「そうか。今ハイなのね」と、勝手に解釈をさせていただきその日は帰宅した。すると、翌日、彼らからメールが届く。「Coffee?(コーヒーしない?)」

LaserCat_01

待ち合わせ場所に現れた二人。「これ、カッコイイでしょ?『Cool Shit』っていう、ファッションブランドもやっているんだ」と背中を向け、ご機嫌なDave Glass(デイブ・グラス)。ジャケットにはウ○コのマークが入っている。終始ニコニコしている彼は、オーストラリア出身。「5年くらい前に、当時付き合っていた彼女を追いかけてバルセロナに移り住んだ」という。一方、相方のKill Cooper(キル・クーパー)は、アイルランド出身。アートセミナーに参加するためにバルセロナを訪れ、そこでデイブと出会い、意気投合したのだという。「直感的に感じたことをグダグダ考えすぎず、素直にアートへと抽出するデイブのスキルに惚れてさ。それは俺がまさにずっとやりたかったことだった」。二人は、バルセロナを中心に「世界中にCool Shitなパブリックアートを広げること」をコンセプトに活動しているという。彼らが定義する「Cool Shit」とは何か。

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その1:Cool Shit Should Be Pop!(ポップであれ)  

頭に浮かんだアイデアをいかにインパクトあるもの、かつシンプルに表現するか。「あまりにストレートすぎて、普通のアーティストなら恐くてやらないけれどデイブはやってしまう」。そう話すキルの横で、デイブはソファーに寝転がりながら満面の笑み。背中にプリントされたレインボー色のウ○コを指差して「触って!」。なんだか笑えてくる。この破壊力はすごい。万国共通で笑いを誘うアイコンと、それに負けないくらいアイコニックな二人は“あっぱれ”の一言だ。「今の時代、人は自分が愛着あるものは直ぐにインターネットでシェアするでしょ。しかもそれが分かりやすいユーモアであるものほど、年齢や国籍、性別問わず広まりやすい」とデイブ。天然とみせかけて戦略的で賢い。

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その2:Cool Shit Should Be Playful! (思い切り遊べ)  

Hungry Castleの作品はバカバカしいほどデカい。Laser Catに加えて、彼らの代表作の一つに米国の黒人ポップスターLionel Richieの巨大オブジェ、「Lionel Richie’s Head(ライオネル・リッチーの頭)」というのがあるのだが、これが特大。なぜ、巨大である必要があるのかについて尋ねると「くだらないことは小さいとダメなの。やっぱり大きくなきゃ。どんなに無意味なモノでも、いっぱいあったり大きかったりすると、ヴィジュアルイメージだけで人は『面白そう』って感じるんだよね」という。「それ、草間彌生氏もいってたなぁ」と思いつつ、二人がアートの知識を持ったアーティストであることを再確認。理論を分かった上でふざけているから面白いのだ。

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その3:Cool Shit Should Be Public!(みんなで遊べ)  

思わず笑みがこぼれてしまう彼らの遊び心やウィットに富んだ作品は、アートの敷居を低くしてくれる。故・岡本太郎氏は「芸術は大衆のもの」だといった。入場料を払わずとも誰もがいつでも見られる芸術こそが「パブリックアート」の本来の姿だと。芸術とは、決して一つの答えがあるわけではなく、各々が自由な発想で向き合えばいい。Hungry Castleも「神経を刺激するようなCool Shitなモノに触れないと、Cool Shitなモノは生み出せない。だから、インターアクティブ性の高いパブリックアートにこだわっている」と話す。  

 Laser Catが投影するアートは、プロ、アマチュア問わず、一般公募から。今まで集った参加人数は3,000人以上、約2万作品。中には、世界を騒がす覆面ストリートアーティストBanksy(バンクシー)など、世界的に有名なアーティストもいる。より多くの人がLaser Catにアートという“餌”を与え参加することで、パブリックイベントは実現する。そして、「不特定多数の人々とコラボレーションをするのが前提」である。人々が参加しやすい仕掛けは意図的につくっているのかと尋ねると「イベントはただ傍観するよりも、積極的に参加した方が楽しいし、愛着が湧くでしょ?」と計算に基づいた活動であることを匂わせる。おバカが地域を変える 「大切なのは、考えすぎないこと。バカで楽しいことだったらいくら考えてもいいけれど、難しいことは考えちゃダメ。だって僕らは“バカ”で食っていくんだから」。おバカを生業にして生きる男たちの覚悟が垣間みれる言葉だ。そういえば、みうらじゅんも昔こんなことをいっていた。「B級映画撮ってる人もね、B級だと思って撮ってないからね。評価がB級になっているだけで魂はA級なんだ、あれ」。Hungry Castleのベクトルもまさにそう。「どうすれば内容が面白くなるか」よりも、「どうすれば“面白そう”と思ってもらえるか」のきっかけづくりに全力投球。その魂はA級。「このポーダブル猫とCool Shitで、世界に旋風を巻き起こす!」と二人もシャカリキだ。ひょっとすると地域を盛り上げるのは、その地域を知り尽くした人間でなくてもいいのかもしれない。「外部に手を借りて地域復興」。それもありか。

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