マフィアも通った祭り?NY最古のストリートの祭典「サン・ジェナーロ祭」、アブないほど旨いイカフライに遭遇

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、十八話目。


「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、十八話目。

***

前回は、1919年のワールドシリーズでホワイトソックス選手を買収し八百長した大物ギャングや、ゴルフコースで逮捕されたギャングなど、「ギャングとスポーツ」の歴史について話した。そこで次回のトピックは「組織犯罪とゴミの意外な関係」と告知したが、イタリアンマフィアがかつて肩で風を切っていたリトル・イタリーで開催中の「サン・ジェナーロ祭」を冷めやらぬうちにレポート。ニューヨーク最古のストリートフェスティバルといわれ、『ゴッド・ファーザーII』や『ミーン・ストリート』などイタリアンギャング映画にも登場する“カトリック伝統の祭典”(と、マフィアも頬張ったであろうイタリアン屋台フード)を紹介しよう。

▶︎1話目から読む

#018「マフィアも頬張った(?)屋台フードが集結。リトル・イタリーのど根性『サン・ジェナーロ祭』に行ってみた」

NY最古の祭り「サン・ジェナーロ祭」イタリア男たちの大行進に遭遇

 ニューヨークのチャイナタウンは過去の面影を失ってしまった、と人は話す。かつては、チャイナタウンに棲家を構え商売を営む、その地区に根づく“四六時中の中国系移民の暮らし”があった。しかしいまでは観光客目当ての安い土産屋が並び、店のシャッターが閉まれば商売人たちは電車に乗ってチャイナタウンから離れた家々に帰っていく。チャイナタウンのお隣にあるイタリア人街「リトル・イタリー」も同様だ。昔はイタリア系移民の小さな家族経営の店々が並び、イタリア系のおじいさんがランニングシャツ一枚でぶらぶらしたり、子どもやらが通りで水浴びなどしていた。しかしいまは、観光客目当てのチャイナタウンに侵食され、北のほうはノリータと呼ばれ洒落たレストランが並ぶ。夕刻になればイタリアの商売人たちもまた、リトル・イタリーの外へと帰っていくのだ。

 かつてに比べ、イタリアの威厳を失ったかのようなリトル・イタリーだが、その日は少し様子が違った。目抜き通りの交差点には、いかついイタリア男たちが金ピカに光る聖像をお神輿のようにして担いでいる。その日は、リトル・イタリーが一年で一番威勢を張る11日間の中日。イタリア系移民の祭典「サン・ジェナーロ祭」の真っ只中だった。正確に言えば、祭りのハイライトである「大行進」の真っ只中だった。






担ぐ男たちは祭りの実行委員たち。聖ジェナーロ像を担ぐことができるのは名誉であって大役だ。

 このギラギラに光るちょっとアヤしい像が「聖ジェナーロ」、祭りの主人公だ。聖ジェナーロ(ヤヌアリウス)はローマ帝国の迫害により殉教した伊ナポリの守護聖人。サン・ジェナーロ祭は、聖ジェナーロを祭る宗教的なフェスティバルだ。ニューヨークでは、1926年、ナポリからやってきた移民が故郷の伝統を継承しようと開催。以来、街で一番古く一番長く続くストリートフェスティバルとされ、イタリア系移民の誇りとなっている。

 そして、サン・ジェナーロ祭はなにかと「イタリアンギャング」との関係が囁かれてきた。祭りでのマフィアの抗争や暗殺シーンがある映画『ゴッド・ファーザー』の影響もあるが、リトル・イタリーのビジネスに少なからずギャングが関与していれば、サン・ジェナーロ祭とマフィアは切ってもきれない関係にあるだろう。事実、ジュリアーニ前市長は20年ほど前に、「サン・ジェナーロ祭から組織犯罪を排除する」と宣言。祭りは“マフィア・フリー”になったといわれるが、その後も露店にゆすりをかけたマフィアが逮捕されるなど、マフィアの存在は払拭されぬままである。



 今年は9月13日から23日まで開催、リトル・イタリーの南北8ブロックにわたり、地元のレストランの屋台や的屋が並んでいた。平日の夜だったが小幅歩きがやっとな混み具合で、客もイタリア系だけでなく、ラテン系のキッズやら、会社帰りのおじさん、子どもを連れた家族、観光客、隣のチャイナタウンから流れてきたであろう中国人のおばあちゃんやらでごった返していた。みんなホットドッグにケバブ、ピザを頬張る。聖ジェナーロ像より、“B級飯”が目当てといったようだ。一番マフィアらしい食べ物を探していると、「イタリアンソーセージ」に出くわす。映画『グッドフェローズ』でもマフィアの男たちはソーセージに目がなかったことを思い出す。図太いじゅうじゅうのソーセージを豪快に切って、玉ねぎとピーマンをたんまりイタリアンブレッドに挟んだのが「ソーセージ&ペッパー」だ。あふれんばかりの玉ねぎで落とさず食べるのは一苦労で、道端にもときおり玉ねぎが落ちていた。





完食。祭りを巡回する警官も頬張っていた。

甘党ギャングの大好物、ナポリの甘菓子「ゼッポレ」に胸焼け

 塩辛いソーセージ&ペッパーを食したあとは、甘いものが欲しくなってしまう。「サン・ジェナーロ祭に行くなら、イタリア伝統の甘菓子〈ゼッポレ〉を食べないといけませんね」と館長さんにも助言をもらったので、聞き慣れぬゼッポレを求めて人混みのなかでちびちび歩を進める。ゼッポレを見つけるのにそう時間はかからなかった。数メートルに一軒の割合でゼッポレ屋台にぶち当るからだ。

 ただし、どのゼッポレ屋にも行列はつきもの(そして、通りが混みすぎて列を作れないため、誰が誰の次なのかわからない)。先客よりもなぜか先に注文を受けてくれたやさしい屋台のお兄さん(列のルールがないのもギャング風か)から手渡された紙袋には6つのゼッポレ。これは揚げパンみたいなナポリの伝統菓子で、イタリアンギャングの大好物でもある。ご安心あれ、かかっている白い粉は、パウダーシュガーだ。なかにはクリームもジャムも入っていないのだが、もちもちの素朴な味をしている。ゼッポレのあとは、マフィアも好きな焼き菓子「カンノーリ」を、と思ったのだが、大きなゼッポレを3つほど完食し血糖値が一気にあがった気がしたので、カンノーリはあとで食べることにした(そして結局、食べるのを忘れた)。


 イタリアンB級フードの屋台のはざまには、ときおりゲームの的屋がある。日本の縁日の射的といったところか。同行した生粋のイタリア系ニューヨーカーいわく、「サン・ジェナーロ祭も変わったな。俺が小さかったころは、もっとゲームができる的屋があったり、子ども向けの遊びがあった。それにチャチャという男が回していたフリークショー(見世物小屋)もあって、火を食べる男や魔術師なんかがいたんだ」。

 サン・ジェナーロ祭と子どもで思い出したのだが、ひとつ館長さんから聞いた話をしよう。数十年前のサン・ジェナーロ歳で、館長さんの友人Tは露店を出していた。祭りの最中、少年たちの喧嘩が勃発し、巻き込まれたTはある少年をコテンパンにノックアウトしてしまった。すると、まわりはシーンと静まり返り、ある男が言う。「この少年はチンの息子だ。ちょっと顔を貸してくれ」。“チン”とは、ニューヨーク5大マフィア・ジェノヴェーゼ一家のヴィンセント・ジガンテ。Tは、マフィアの息子を殴り倒してしまったのだ。「もうぼくの命はない」。そう思いながらTは連行される。
 抜け殻のようなTに、チンはこう言い放った。「お前はボクシングに興味があるのか。もしボクサーになりたければ、俺に言ってくれ。話を通しておくから」。実はマフィアになる前にボクサーだったチン、喧嘩は置いておき、Tのボクサーの腕を認めた。息子を殴られたうえ、殴った男の腕っ節を褒めボクシングをすすめるとは、チンは案外心の広いマフィアだったようだ。

マフィア“たまり場”有名店も登場。アブないくらい旨いイカフライ

 祭りも出口へ近づいてくると、ひときわ目を引く青と白のネオンサインの屋台が。「ウンベルトス・クラムハウス」ーマフィアの“たまり場”としても有名なリトル・イタリーの老舗シーフードレストランだ。事実、1972年には店内でギャングのジョセフ・ギャロが暗殺されたりと、マフィアご贔屓のウンベルトスには生臭い話も多々ある。

 ここの「フライド・カラマリ(イカフライ)」がうまいと聞いたので、12ドル(約1350円)と狼狽するほどに高いが買ってみることにした。辛いトマトソースをかけるのが通の食べ方らしい。たいてい、こういう揚げ物は、衣のこってりした味が先行してなにを食べているのかよくわからない状態に陥るのだが、このカラマリは違った。イカの魚介味がしっかりと凝縮されていて、サクサク進む。そしてシメは「添えられているパンでトマトソースをすくって食うんだ」。これがマフィアの食べ方か?


 もう何もつけ入る隙もないパンパンに詰まった腹を抱えて、ぷらぷら歩く。と、教会にたどり着いた。名をモースト・プレシャス・ブラッド教会といい、正面には十字架と聖ジェナーロ像がライトアップされている(一足早くクリスマスが来たかのようだ)。みんな、お賽銭のように、像の周りに1ドル札をピンでとめながら、聖ジェナーロ像を拝んでいく。像の隣には、イタリア国旗柄の首かけをしたおじさんが立っていた。実行委員の一人だろう。像の傍らで、次々来る参拝客を眺めるのはどうですか、と聞くと「ずっとここに立ちんぼだ。座るイスがほしい」と妥当な答えが返ってきた。今年もサン・ジェナーロ祭は、何時間立ちんぼでもふんばるこのおじさんのような“守護神”に支えられ、“92歳(祭)”を無事迎えたのだった。


 さて、次回のトピックは、待たせて悪い、「組織犯罪とゴミの意外な関係」だ。表向きはゴミ処理業者のトニー・ソプラノ(ギャングドラマの代名詞『ザ・ソプラノズ』の主人公でマフィアのボス)など、なぜかGたちが背後で操るゴミ処理業界や、イタリアで活発な環境破壊集団「エコ・マフィア」の正体について探りを入れることにしよう。

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Text&Photo by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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