『スカーフェイス』名脇役も。リトルイタリー〈極道映画の常連俳優たちの集会〉全員悪(そう)な4時間、裏ルポ—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十二話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十二話目。

***

前回は、アル・カポネや女強盗ギャングの意外な“ロマンチスト趣味”や、元祖ユダヤ系ギャング、アーノルド・ロススタインの“かわいい大好物”など、ギャングたちのギャップある趣味について暴露した。今回は、ちょっと息抜きスピンオフ「極道映画の常連俳優たちが集まるパーティーに行ってみた」。ある極道に連れられ筆者が参加した、ギャング界隈(?)お集まり会のレポートを垂れ流す。

▶︎1話目から読む

#022「名物マフィア俳優主催のパーティーに、あの名脇役現る。今世紀最後の大物ギャングも現る。そして、いつの間にか終わっていた締めのカラオケ」

 遡ること3ヶ月前の話。本連載でもおなじみ、クッキングマフィアことトニー・“ナップ”・ナポリから、招待状が届いた(ハガキではなく、フェイスブックメッセで。トニー・ナップは、テッキーマフィアでもある?)。そこにはこう綴られていた。

「毎年恒例ドミニク・マンチーノ主催のディナーパーティーに一緒に行かないか。10月30日午後7時から、167マルベリー通りのレストラン『ラ・メラ』にて。地道にがんばる俳優やプロデューサーたちが70人くらい集まるので、カメラを持ってくるといい」

 どなたでしょう、ドミニク・マンチーノというお方は。お顔を拝見しようと検索…無念にも、見覚えはなかった。だが、検索結果に並ぶ彼といったら、揃いも揃ってイタリア系らしい日に焼けた赤銅色のサングラス顔、ごつい指輪をはめた手、筋者好きのするスーツや白Tシャツを着こなすガタイのいい体。そしてIMDb(俳優、映画監督などをリストアップするエンタメ業界人データベース)には、“いかにも”な出演作品がリストアップされていた。どれどれ…。犯罪テレビシリーズ(複数)で“マフィア役”、あるショートコメディ作品では“地元ギャングのボス役”、マーティン・スコセッシ監督の最新マフィア映画『ジ・アイリッシュマン』(2019年公開予定)では、NY5大マフィア“ジェノヴェーゼ・ファミリー構成員役”。ぬぬぬ、極道役をこなすギャング俳優ときたか。彼主催のパーティーに集まる俳優となったら、やはりギャング役者が多いのだろうか。あまり居心地がよさそうな集まりではないと思ったが、またとない機会なので誘いを受けることにした。
 ちなみに会場となった「ラ・メラ」という店、イタリア系マフィアの本拠地リトル・イタリーにあるのだが、かつて店内2階にはジェノヴェーゼ・ファミリーの事務所が構えられていた、とかなんとか。マフィアの影がちらつく、曰くつきの場所である。


ギャング俳優(?)たち、再会早々、散弾のごとく止まぬセルフィー

 待ちに待った当日、夜7時ちょっと過ぎに会場に着く。招待してくれたトニーさんはまだ着いていない模様。レストラン外では、ギャングのような風体の男たちと、ギャングの愛人のような風体の女たちが、タバコを吸いつつたむろしていた。あくまでも、彼らは“ギャング”ではなく(だと思う)、ギャング俳優やその界隈の業界人である。なのだが、なぜかギャングのボディガードのような強靭な図体の男がそこらを見張っていて、トニーさんをまだかまだかと待つ筆者を怪訝そうにチラチラ(この集まりにアジア人の若い女性がフラリと来たのですからね)。何度も目が合った。

 そうこうしているうちに、トニーさん登場。橙(だいだい)色の鮮やかなドレスシャツでキメてきた彼の後に続いて、レストランに入る。イタリア系のドスのきいた紳士・淑女が集まる場で筆者、さぞかし陸に上がった河童のような表情だったろう。受付嬢(どなたかの奥方たち。みんなドスの効いたマダム)に名前を告げると、案内されたのはテーブル番号。自由席ではなく、あらかじめ席決めされているらしい。




 テーブルにつくと、隣には恰幅のよい金縁メガネのおじさんが座っている。トニーさんしか知り合いのいない筆者を見て、元看守だという親切なおじさんとまさに美魔女然の奥方は四六時中なにかにつけて話しかけてくれた。会場に続々と遅れて到着する来場客同士は久しぶりの再会も多いのか、顔をあわせるたびに大げさなくらいのハグとキス合戦、そして会って早々のセルフィーをはじめるから、なかなか着席しない。
 筆者もトニーさんに連れられ挨拶まわりに。繰り返される「日本のマガジンのジャーナリストだ。以前、俺の料理のストーリーを取材したんだぞ」の口上を何度も聞きながら、トニーさんの知り合いにひと通り面会する。ほにゃららというギャング作品(作品名は忘れてしまった…)に出演している俳優(複数名)、役者の卵だという身長2メートルくらいの大きな青年、俳優業の他にカジノビジネスをしている紳士、トニーさんの伝記映画(自主制作の)でトニーさんの祖母役を演じた女優、テレビのプロデューサー、俳優のマネージャー、何度聞いてもなんの仕事をしているのかが不明な謎多き者たち…。目の端では、主催者のドミニクが忙しそうに会場を往来している。パーティー開始時間より30分が過ぎていたが、一向にパーティーははじまろうとしない。


10月30日、店内はハロウィン仕様だ。

パーティー中盤、映画「スカーフェイス」の俳優登場に会場沸く

 ぼちぼち各テーブルの空席が埋まっていく。80人ほどが集まった頃だろうか。パーティー開始の挨拶もないまま、唐突に料理が運ばれてきた。レストラン、テーブルの配置を間違えたのか、ウェイターたちが通る隙間がほぼ皆無で、ウェイターが通るたびに、恰幅のいいイタリア系男たちがいちいち席を立ったり椅子を前に動かしたりするという、手際の悪い料理運びになっていた。料理の方はというと、大皿に乗せられてきた濃厚トマトクリームソースのペンネにガーリックでシンプルに味付けされたブロッコリー、そしてメインのミラノ風イタリアンカツレツ・チキンパルミジャーノ。テーブルに身をのさばらせながら、フォークを伸ばして、ペンネにブロッコリーをキャッチ。とめどなくおかわりが置かれる赤ワインに白ワイン、ビールに、客たちの気持ちも高揚していく。



 胃も満たされ、だいぶ会場の雰囲気もほぐれてきたところに、女性客たちの甲高い声が響いた。「Chi Chi(チチ)!」。何者か。振り返ってみると、ボルサリーノ帽をかぶった背丈の低い男がいた。彼の本名はエンジェル・サラザール。参加客の一人が筆者に耳打ちする。「あれが、『スカーフェイス』のチチだ」。

『スカーフェイス』といったらギャング映画の金字塔だ。キューバからマイアミにやって来た移民の青年が、麻薬売買でギャングのトップまで登りつめる半生を描いたピカレスクロマン。アル・パチーノ演じる主人公の盟友ギャング・チチを演じたのが、いましがた会場に到着したボルサリーノの彼だったらしい。会場に着くなりチチは、どのテーブルからも引く手あまたで、撮影に応じていた。筆者にも声をかけてきたチチ、現在はスタンダップコメディをしているらしく、“来月俺のショーがあるから来てくれ”と(結局、その後電話が1回あったきり、チチからの連絡は途絶え、彼のコメディショーには行けず仕舞いだったのだが)。


右がチチ。



撮ってはいけない。今世紀最後の大物ギャングも現る。そして熱唱のカラオケ大会へ

 やっと会場の雰囲気にも慣れてきた頃には、パーティーも終盤にさしかかっていた。と、ここで「ちょっと道をあけてくれ」の鶴の一声で、海を分断したモーゼの奇跡のように、混雑する店内に道がひらけた。大名さまのお通りだと言わんばかりに、車椅子に乗った老紳士が通る。ここでまた参加客の一人が筆者に耳打ちを。「彼は今世紀最後に生き残る大物マフィアだ。紹介してやるよ」。ほぇぇ、誰…誰よ、と混乱中のまま、車椅子に座る老紳士の前におどり出る。名前を告げると、老紳士、筆者の手を握り、こっちを見つめる。わずか5秒くらいの出来事だった。写真を撮ろうとすると、ボディガードのような男から「写真はダメだ」とバッサリ。一体、誰だったのかは闇に葬られたままだ。

 さて、大物マフィアも会場を去った。だいぶみんなができあがってきた頃合いに、主催者のドミニクがマイクをもつ。抽選大会だ。入場時に受付で渡された番号の書かれた紙きれは、このためだったようだ。次々に発せられる番号に、みんな手元の紙をみる。トニーさんは見事抽選に当たり、シャンパンボトルをゲット。酒は飲まないから、と筆者にくれた。抽選大会が終わると、知らないうちに、あちらのテーブルでカラオケ大会がはじまっていた。各テーブルが離れていることもあり、カラオケに参加しているテーブルとしてないテーブルの温度差が目立つ…。が、ドミニクやその他カラオケ参加客は気持ち良さそうにマイクを握り十八番を熱唱していたから、すべてよしとしよう(?)。



 夜11時をまわり、知らないうちにカラオケ大会も終了し、参加客もぼちぼちと会場を後にする。パーティー前は大忙しで話す機会のなかったドミニクとも、ここではじめて挨拶を(近いうち、ギャング俳優という仕事裏について取材できることになったため、首を長くして待っていてほしい)。そんなこんなで、トニーさんの運転する車で夜のリトルイタリーを去る。ハロウィンを翌日に控えてどこか浮ついた街に、イタリアンワインとカラオケとチチで色めき立った俳優たちの“ギャング”が散り散りに消えていった。


ドミニクさん。

 次回は、ギャングとマンマ(お母さん)について。90歳のお母さんと同居していた大物マフィアや、母の日には大量のバラを贈ったあの映画にも登場するギャングなど、GたちとGの生みの母たちの血の通う愛について語りたい。

▶︎▶︎#023「母の日には何十本ものバラの花を。ギャングとマンマの斬っても斬れない図太い愛」

WANTED

本連載・重要参考人、館長さんの「ミュージアム・オブ・アメリカン・ギャングスター」から、探し人のお知らせ。下の条件にあてはまる者は、必読せよ。

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CONDITIONS(条件)

☑︎ニューヨーク在住
☑︎日英スピーカー
☑︎本ギャング連載ファン

我らがミュージアムでは、信頼のおける日本語/英語をはなせるツアーガイド(パートタイム)を探している。日本語のツアーは、週の決まった曜日におこなわれる。英語でもツアーができればなおのことよろしい(英語のツアーは1日に最低でも3回はある)。信頼できる者、時間厳守できる者、求む。

興味ある者は、dedicatedonly@gmail.com まで。

Text by Risa Akita
Photos taken by Risa Akita, Retouched by Newton Kawashima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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