ナイトライフに“共謀”したゲイとギャングたち。ギャングが牛耳ったゲイバー経営、開かれたNYCゲイシーン—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十六話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十六話目。

***

前回は、貧しい子どもたちや大恐慌時代に飢える市民、シカゴのジャズミュージシャンたちを支えたギャング、アル・カポネの地域コミュニティでの存在について話した。今回のテーマは「犯罪組織とゲイ」について。ニューヨーク・ゲイシーンに深く関与していた地元マフィアやストーンウォールの反乱の背後にあったマフィアの存在、自身がゲイだったギャングなどについてカミングアウトする。

▶︎1話目から読む

#026「NYゲイシーンのバックにいたギャングたち。ゲイとギャングの複雑な関係」

ニューヨークの観光地の一つといったら、グリニッジ・ヴィレッジにあるバー「ストーン・ウォール・イン(略してストーンウォール)」。店先にはレインボーフラッグがかかっていて、写真を撮っている観光客の姿が常にある。ここは老舗のゲイバーでありながら国の歴史建造物でもあるという、現代のLGBTカルチャーを語るには絶対に避けられないスポットだ。その背景には1969年におきたゲイコミュニティと警察の衝突事件「ストーンウォールの反乱」があったりするのだが(その話はあとで詳しくする)、当時のニューヨークで、ゲイシーンと切っても切れない関係にあったのが「マフィア」なのである。

〈ゲイ〉と〈ギャング〉、共に法を犯したパートナーたち

 LGBTにオープンな都市として名を馳せるいまの姿からは想像がつかないかもしれないが、1960年代のニューヨークは、ゲイたちにとっては罠の仕掛けられた危険地帯だった。その頃は、同性愛行為を禁止する「ソドミー法」が効力を発しており、その法の下ではゲイたちが公共の場で愛情表現を示す行為などが禁じられ、また、バーがゲイに酒を出すことも違法。市警察がバーにガサ入れし、ゲイたちが法を犯していないかどうか調べてまわることが日常的だったという。

 そのような状況下で、ゲイバーの経営に乗り出したのがギャングたちだ。禁酒法時代(1920年代から1930年代)にもぐり酒場経営やアルコールの違法販売を経験し、そのノウハウを知っていた彼らにとって、“違法の酒”は朝飯前。ゲイに酒を出すという“当時の違法”を犯すゲイバービジネスに着手し「ゲイバー経営に目をつむってくれ」と警察を買収しながら、当時のナイトライフシーンを牛耳るようになった。つまり、法の目をかいくぐって遊ぶという違法行為をしていたゲイたちと、法を破ってゲイたちの交流の場(=ゲイバー)を経営したギャングたち、二人の法を犯す者たちが“共謀”してナイトライフが栄えていたといえるのだ。

 先述のストーンウォールも、ニューヨーク5大マフィアの一つ・ジェノヴェーゼー一家の構成員、トニー・“ファット・トニー”・ローリアが66年に買取り、経営をしていた。わたしの知り合いで女ギャングのテリーもスタテン・アイランド(市内にある島)でゲイバーを経営していましたね」と、アメリカン・ギャングスターミュージアムの館長さん。「それにわたしの父は、実はバイセクシャルだったのですが、彼もギャングが経営しているクラブに通っていたりもしました」とも打ち明けた。

 マフィアが経営するストーンウォール・インは、すぐにゲイコミュニティのあいだで人気になり、ここなら誰の目も気にせずにダンスすることができた。また他のバーでは白い目を向けられていたドラァグ・クイーンやゲイの家出少年たちも出入りをしていた。

(ギャングとマフィア、二つの呼び方が原稿に混在しているとお気づきの方。それについては以前、「スヌーピーもコロンブスもギャング」ギャングの定義は? マフィアと呼ぶな? で説明しているので、そちらを読んでほしい。)

今年50周年「ストーンウォールの反乱」ゲイコミュニティが反抗したのは警察だけじゃなかった?

 ゲイたちがゲイであることをあけっぴろげに社交をたのしめたストーンウォール。ゲイたちの隠れ蓑のような小さなパラダイスに“落雷”が落ちたのは、1969年6月28日のことだった。警察による抜き打ちの踏み込み捜査が入り、そこに居合わせた200人の客のうち、身分証をもたない同性愛者や異性装者が連行されていく。それを目の当たりにしていた客や野次馬たちが警察についに反発、暴徒化して「セクシャルマイノリティ V.S. 警察」の大乱闘へ。「同性愛者への抑圧をぶっ潰そう」と、最後にはデモにまで発展した。反乱は翌日には沈静化されたが、この事件をきっかけに全国的にゲイ解放運動が一気に広がりを見せたことで、ストーンウォールの反乱はLGBTカルチャーの象徴的な出来事となった。

 と、ここまでみるとストーンウォールの反乱ではセクシャルマイノリティが警察の弾圧に抵抗した、というシンプルな構図がみえてくる。しかし、なかには少々違った見方をする専門家もいる。それは、ゲイたちは警察に対してだけでなく「ギャング」に対しても反抗していたという見方だ。ゲイたちがゲイバー以外に遊べる場所がないことをいいことに、ギャングたちは高額な入場料やドリンク代などを要求。ゲイバービジネスを独占状態だったギャングは、行き場のないゲイたちから金を絞りとる。

 さらに「ゲイたちには『もっと公共の場での権利があるべきだ』という主張がありましたが、『ゲイバーの自分たちへの対応や扱いがよくない』という不満もありました。同性愛に厳しいカトリック教徒のアイルランド系ギャングには、経営しながらもゲイの客に耐えられなかったと考えられます」。金銭的な搾取に、バーを牛耳るギャングたちからの冷遇。ゲイたちの反乱は、ゲイコミュニティを搾取する地元ギャングたちへの抵抗だった、との構図も考えられるというのだ。事実、反乱後にはゲイの権利団体たちはゲイバービジネスからギャングたちを排除しようと働きかけた。

暴動のあと、ギャングたちは気づきました。『ゲイの客たちを冷遇することはビジネスにとってよくない』と。ジェノヴェーゼー一家は、その後ゲイのバーテンダーを雇いはじめたりして、ゲイカルチャーを支えました。そのような意味では、ギャングはゲイカルチャーにおいて重要な役割を果たしたといえます」

レズビアンの娘に葛藤したマフィア、自身がゲイだったギャング

 ボクサーあがりのイタリア系マフィア、ヴィンセント・“チン”・ジガンテには、悩みがあった。愛娘のリタがレズビアンだとカミングアウトしたからだ。「カトリック教徒だったジガンテは葛藤しました。結局、娘は父の職業(ギャング)を、父は娘の性的趣向を、それぞれ互いに認める形で和解しました」と、リタと交流のある館長さん話す。

 さらに、家族の誰かではなく自分がゲイだったギャングが、ニュージャージー州の犯罪組織デカバルカンテ一家のボスを務めたジョン・ダマートだ。彼は「ゲイであること」を理由に92年に殺害された。彼の殺し屋は裁判でこう話したという。「コーサ・ノストラ(シチリアのマフィア)のビジネスに関して協議の場にいるのがゲイでホモセクシュアルのボスであるとしたら、誰も敬意を払うことはないだろう」。また、ガンビーノ一家の元ヒットマン、ロバート・モーマンドは、2009年に法廷でゲイであることをカミングアウト。公開裁判でゲイであることを明かした最初のギャングといわれている。

 次回は「ギャングの奇行」。自らのアソコにピストルをぶっ放したあのギャングや、シーツを被りブツブツ独り言をいいながら街を徘徊していた変人マフィアなど、ギャングたちの不可解な奇行バナシをしよう。

▶︎▶︎#027「パジャマ姿でマンハッタン徘徊、股間に発砲。紙一重なGたちの、奇怪な一挙一動」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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