カルト的人気を集める〈リアルタイム星占い〉星座を使って“特定少数”と繋がりを確かめ合う若者たちのコミュニケーション

NASAのデータ×リアルタイム×星占い×友だち。
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雑誌の巻末に掲載されていたり、朝の情報番組で目にしたり、なにかと馴染みの深い、娯楽としての「星占い」。近年はデジタルに移行しつつあるが、依然としてそのあり方は、占い師が発信したメッセージ(情報)を、ユーザーが受け取る‐‐、そこに終始するものが多かった。

いま、リアルタイムで応えてくれる星占いがある。NASAの観測データを用い「今日、この瞬間の私の状況ってどう?」にその時のデータで応える能動的な星占いが登場。ソーシャル機能も搭載していて、星占いによる「特定の人との繋がりを確かめる」たのしみ方も、開拓されつつある。

カリスマ占い師はAI? ユーザーがアクセスしたタイミングでリアルタイムの星占い

 米国の若者からカルト的人気を誇る占星術アプリ「コー・スター(Co-Star)」が誕生したのは2017年末。占星術アプリ自体は、ほかにもあったが、「AI(人工知能)を使った」はじめてのものとして、また、NASAの観測データを使用していることや、ゴス(goth)カルチャーをイメージさせる白と黒だけを使った斬新なビジュアルも注目を集めた要因だった。
 
 創始者は、バヌゥ・グレアをはじめとする3人のミレニアルズ。起業前は、ファッションブランド「ヴィ・ファイル(Vfile)」で働く同僚だったという。同ブランドは、業界の中でもいち早く、デジタルを用いた独自のコミュニティ形成を行なってきたことで知られる。彼女たちは2年ほど前まで、まさにその気鋭のデジタルチームの中にいた人物である。


今回の取材に応じてくれたバヌゥ・グレア(Banu Guler)氏

 リリースから1年が経ったいま、アクティブユーザー数は「100万人に到達しようとしている」。マーケティングや広告費用は一切かけず、口コミだけで広がっているという。主なユーザーは、10〜30代半ばの若者たち。特に10代後半から20代前半、Z世代での広がりが顕著なのだそうだ。そして、そのたのしみ方は、占い師が発信したメッセージ(情報)をユーザーが受け取ってたのしむという従来のものとはやや異なるそうだ。
 近年は、紙の雑誌や本よりも、インターネットで占星術を楽しんでいる人という人も多いかもしれない。そもそも、天体と誕生日の関係を占う占星術は統計学ともいえるので、本来、デジタルとの相性は悪くはない。

 ただ、このアプリの新しさは、娯楽としての占星術をデジタル(アプリ)移行したことだけに止まらない。AI(人工知能)を導入したことで、各ユーザーがアクセスしたタイミングでの「リアルタイムのパーソナル星占い」を可能にしたこと、そして「ソーシャル機能」をもたせたことで、占星術の新しいたのしみ方を開拓したところにおもしろさがある。

「ソーシャル機能」については、後半で述べるとして、まずは、AI(人工知能)を使った、リアルタイムの星占いのカラクリからみていきたい。

 (西洋)占星術の鑑定は、基本的にはホロスコープチャート(地球を中心に、天体、12星座の位置を円の図表にしたもの)をもとにおこなわれる。チャートを読み取るポイントはいくつかあり、それらは「ある程度、規則性のあるもの」だそうだ。ただ、天体は常に動いており、読み取るポイントを総合的にみるとデータの情報量は膨大。ポイントによっては、相反する結果、たとえば、一方では「穏やか」と出ているのに、他方では「エネルギーに満ち溢れる」など示されることもあり、その解釈は一筋縄にはいかない。ゆえに、「占星いが翻訳」しているのだという。



コー・スター(Co-Star)のウェブサイトより。

  
 翻訳の言葉選びは人間の方が優れているかもしれないが、膨大な情報量を瞬時に解析する作業の速さ・正確さは「人間よりもAI(人工知能)の方が優れている」のはいうまでもない。占い師のタイミングで週一ペースで発信される従来のものとは異なり、同アプリでは、各ユーザーがアクセスしたタイミングで、リアルタイムの占い結果を知ることができる。それが可能なのは、同アプリが人ではなく、AI(人工知能)を導入しているからに他ならない。「ユーザーがアクセスしたそのときのNASA(米航空宇宙局)の天体観測データと、事前に登録してある各人の生年月日や誕生した土地と時間情報の、非常に難解な関係性を、AIが瞬時に解析することで実現している」のだいう。

最近、悩みがちなのは「30歳だから」ではなく、「土星回帰の時期だから」と言いたい

 同アプリの文章やユーザーに配信するメッセージの文章は情緒豊かだ。書いているのは、AIではなく人間(ホロスコープ・ライター)なのだそう。AIは、人間によって書かれた文章を、データ解析結果に合わせて適切なものを選び、組み立ててユーザーに表示している。

「AIにはAIの、人間には人間の得意な分野があります」。それは、占星術の種類にもいえることで、専門家との一対一の昔ながらの占星術の魅力と、コー・スターのような最新テクノロジーを用いたデジタルアプリでの占いの魅力は異なり、それぞれに違った良さがあるというのが彼女のスタンスだ。
 リアルタイム星占いにくわえた、コー・スターならではの魅力。それは、人間の占い師が同じ情報量を解析したサービスを提供したら高価になるものを、無料で提供していること。そして、デジタルならではの「ソーシャル性」を持っていることにある。
  
 バヌゥらは同アプリの構想のきっかけについて「最新のテクノロジーを使って、人との結びつきを強くする方法を模索したかったから」と話す。ソーシャルメディアなどのテクノロジーは不特定多数の人とコミュニケーションを取るのに便利である一方で「人との会話や関係を浅くもしていると思う」。多くの専門家たちも指摘していることではあるが、彼女もソーシャルメディアと若い世代の欝(うつ)や自殺率の増加は無関係ではないと考えているようだ。

 星占いを選んだのは、お互いを知るための「良きアイスブレーカー(打ち解けるきっかけとなる話のネタ)」だと感じていたからだった。どこに行った、何を食べた、誰に会った、趣味はなんだのエトセトラ。そういった情報交換は、スモールトークには適しているかもしれないが、往々にして表層的な会話に終わりがち。そこで、自分はどういった人間か、といった一歩踏み込んだ会話をはじめるのに、星占いはとても便利なツールなのだと話す。




取材はコー・スターのオフィスにて。

 たとえば、“私はうお座だからロマンチストなところがある”、”牡牛座だから石橋を叩いて渡るタイプ” “いまは星の位置がこんな感じだから、さそり座の私は仕事のことで頭がいっぱいなのかも” 。それは、星座にまつわるステレオタイプを相手や自分に押しつけるのではなく、あえて「〇〇だから」とステレオタイプをはめてみることで、「自分の感情と向き合ってみることになり、また、それを人に話しやすくする効果が生まれるから。結果、お互いをより深く知ることに繋がる」からなのだそうだ。

 また、「もうすぐ三十路だから、将来について色々考えてしまう」「土星が、自分が生まれたときと同じ位置に戻ってくる時期だから、将来について色々考えてしまう」と言ってみる(土星はおよそ30年をかけて天を一周する*)。
 悩みがちなことも、年齢のせいではなく、天体の動きを理由にする方が話しやすい、という彼女たちの感覚は新鮮だ。これを、いかにも米国ヒップスターだと嘲笑する人もいるかもしれないが、年齢なんかに囚われるのはナンセンスという価値観が、日常の言葉選びにも現れていることに、新しい時代を感じる。

*土星は制限や社会的責任を与える星といわれており、占星術では土星が生まれたときと同じ位置に戻ってくることを土星回帰(サターンリターン)と呼び、その前後1-2年は、人生の大きな転機期なのだそう。

自分の運勢だけでなく「互いの関係も教えてくれる」

 新しい時代(というか、イマっぽさ)といえば、同アプリについているソーシャル機能もだ。スマホの電話帳やフェイスブック上の友だちを「招待(インバイト)」できる機能があり、この機能を中心に「コー・スター」のファンの輪は広がっているのだという。ユーザーの中には、100人以上をも招待した強者(スーパーユーザー)もチラホラいるらしい。



実際に、バヌゥとコー・スター上で友だちになってみた。

「招待」を受けた人が「承認」をすれば、コー・スター上でのフレンドシップが成立。すると、双方のフィードには、その日のお互いの星座の関係性が毎日表示されるようになる。フェイスブックでいう「2年前の今日、〇〇さん(上記の友達)と友だちになりました」の記念リマインダーが毎日来るようなイメージで、闇雲に広げるネットワークというよりは、友だちとして繋がった人と「個人間」の繋がりが深まるような作りになっているのがポイントだ。

 不特定多数ではなく「特定の友だちとの繋がり」を毎日感じさせてくれるこの機能は、これまでのソーシャルネットワークサービスにはなかったものかもしれない。ユーザーの間では「今日の私たち、お互いのクリエイティビティを刺激し合う関係っぽいよ!」などと、コー・スターのスクリーンショットを送り合うコミュニケーションも生まれているそうで、星座をきっかけにした一歩踏み込んだ会話は、オンラインでもおこなわれているようだ。

星占いの結果は、友だちとシェアしあうもの

 自分の星座について興味深いことが書いてあれば、自分一人でたのしんで終わりではなく、近しい友人やパートナーと情報をシェアし合いたいという欲求。それはデジタル世代では一般的なことらしい。もちろんその欲求は、若いデジタル世代に限ったことではないが、日常の出来事を人にシェアするのに慣れ、クラスや学校の友人たちが、休日に何をしたのかを、ソーシャルメディアを通してお互いに知っているのが当たり前の世代ならではの感覚だともいえる。

 そもそも星座占いは、どの星座を読んでも「自分ごと」として解釈しようと思えばできてしまうものではないだろうか。自分の星座の項目が、まさに自分宛てに書かれたものだと信じることで、何らかの作用がリアルライフにもたらされる側面もある。たとえば「今日は素敵な出会いがあるかも」といわれてその気になれば、通りすがりの人に対する心の開かれ方が変わってくるかもしれない。信じることで、誰かとの関係も好転するかもしれない——、そんなところに星占いのおもしろさがあるように思う。
 コー・スターは、その信じるきっかけを、自分だけでなく友だちとも共有し合う、占星術の新しい文化を開拓したわけだが、その感覚は実にイマっぽく、なんだかオープンで風通しが良い。 

Interview with Banu Guler, Co-Star

Photos by Kohei Kawashima
Eye-catch image illustration by Kana Motojima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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