旨いフライドチキンは「フライパンで揚げるのです」真のソウルフード〈パンフライドチキン〉を知る

生まれてはじめて、あんなに大きなフライパンとご対面した。直径は70センチくらい。優に目玉焼き30個をいっきに焼ける面積だ。この巨大な円形のなかで、なにかが揚げられている光景もはじめてだった。米南部、真のソウルフード・フライドチキンが、こんがりきつね色にじゅうじゅういっている。

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“キング・オブ・フライドチキン”が揚げる、本場南部チキン

 ケンタッキーなど一般的なフライドチキンが、大量の油のなかにどっぷり浸り揚げられる「ディープフライ」であるのに対し、少量の油でフライパンで揚げるフライドチキンが「パンフライドチキン(pan-fried chicken)」。

 あまり聞きなれないし想像もつかないパンフライドチキンは、米南部スタイルの調理法だ。先日、南部から遠く離れたニューヨークで、「最後にこんなに鶏肉のうま味を感じられるフライドチキンを食べたのはいつだろうか」と遠い目になるほどの、非常に正直で生真面目なパンフライドチキンを見つけた。特に、米東部に点在する某ファストフードチェーンで「私はフライド“チキン”を食べているのだろうか、それともフライド“衣”を食べているのだろうか」という衣チキン(チキン衣)に最近出会ったばかりの筆者の舌には、そのパンフライドチキンはとても律儀な味をしていた。

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 揚げてくれたのは、ニューヨークでも昔からアフリカンアメリカンの多いハーレムで、一日600個のチキンを揚げる“フライドチキンの王様”、チャールズ・ガブリエル(71)。禁じられた匂いを道しるべに歩くと、こじんまりとした彼のフライドチキン専門店「チャールズ・カントリー・パンフライドチキン」にたどり着いた。

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チャールズ・ガブリエル

鶏肉、小麦粉、溶き卵、すべてに香味料3連発

「10歳のとき、母さんが、『ディープフライはしてはいけない』と、フライパンを使ってチキンの揚げ方を教えてくれたんです」。なぜ? 「鶏肉を油にどっぷり浸からせてしまうと、本来のうま味が逃げてしまうからです。パンフライにするとチキンの味をなかに閉じ込めることができます」。南部の州ノースカロライナに生まれ、大家族で畑を耕し作物を栽培する農園育ちだった。「自分たちで鶏を飼って、それを食材にしていました」

 チャールズは、冷蔵室から昨日に仕込んでおいた鶏肉を取り出した。毎日、市場に出かけ翌日のための鶏肉を買う。「色とツヤで新鮮かどうかすぐにわかる」と目利きをした鶏肉に特製の香味料をまぶし8時間寝かせる。こうすることで、肉のなかまできちんと味が染み込むというのだ。「他のシェフは30分程度だけしか寝かせませんが、私は前日から8時間はきちんと寝かせます」

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 香味料がたっぷりと染み込んだ鶏肉に必要不可欠なのが、小麦粉と牛乳を加えた溶き卵。チャールズは小麦粉、溶き卵、それぞれにも香味料を加えた。しつこいくらいの香辛料合戦は、食べてみれば、衣、肉の表面、肉の内側まで、順を追ってのうまさの攻撃として返ってくる。ちなみに、厚かましくも特製香味料のレシピを尋ねてみたが、そこは当然教えてくれなかった。ただし「辛味は肉そのものの味を消してしまうので、必要なしです。まあ後からホットソースで食べるのは別ですよ」

 溶き卵に鶏肉をさっと通し、小麦粉をまぶし、沸騰した油に投下。丸々すべてを油のなかに突っ込んでしまうディープフライと違い、パンフライではチキンが油に浸かっているといった様子。この状態を15分から20分保つ。「チキンが揚がっているとき、フライパンの前から離れません。油っぽくならないように監視しなければいけないから」

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 20年ほど前、チャールズのフライドチキン屋は路上にあった。「アパートでつくって、トラックに積み、道端で売っていました」。お昼の11時からフードトラックを走らせ、ハーレム地区を南下。お役所に福祉センター、郵便局、そして午後6時には最終地点の床屋まで、1つの場所に30分ごとに停まり、チキンを届けた。「床屋では、従業員もお客もみんな注文してくれました。そして注文をとったら、床屋内までチキンを運んであげるんです」。いまはなきチャールズのパンフライドチキン・トラックだが、「常連客のなかには、チキントラック開店初日の味を知っている人もいますよ」

パンフライドチキンをスイートアイスティーで流しこむ

 ピザやハンバーガーをアメリカの“ソウルフード(郷土料理)”と呼ぶことがあるが、厳密にはピザにバーガーはソウルフードではなく、「多くは名ばかりですね」。本当の意味での「ソウルフード(soul food)」というのは米南部の郷土料理のことであり、「フライドチキンが真のソウルフード」と南部生まれのチキンプロフェッショナルは断言する。

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 ソウルフードの歴史は、南部にまだ奴隷制が敷かれていたころまで遡る。白人農園主に仕えていた黒人奴隷たちは、主人たちが捨ててしまう鶏の胸肉以外の部位(ダークミート)をもらい、高カロリーのラードで揚げて活力としていた。こうして誕生したのがフライドチキンなのである(その昔『フライド・グリーン・トマト』という南部を舞台にした映画を見たのだが、タイトルにもなっている青トマトのディープフライもソウルフードらしい)。

 チキンの横に添えるのは、カラードグリーン(緑の葉っぱの野菜)とマックアンドチーズが純南部風。「ソウルフードは私たちを育ててくれました。鶏を育て屠殺し食する。なにをどうやって食べていかなければいけないか、そんなことを教えてくれたのです」。チャールズが20分かけてじっくり揚げたフライドチキンの程よい油と“ソウルフード”が醸す甘味と酸味を、砂糖がたっぷり入った甘いアイスティーで心の奥まで流し込んだ。

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Interview with Charles Gabriel from Charles’ Country Pan Fried Chicken

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Photos by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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