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  • Jan 21, 2018

「焼きあがりピザとの対面まで300秒を数える」50年ピザを焼くピザ聖人が知る“直径33cmの至福”の堪能

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人類の平和食と(勝手に)命名したい。毎日無数の人々の胃袋に収められる円盤、「ピザ」のことだ。
これほど明快で構えさせない食べ物などあるだろうか。年齢・人種を超えて人類を繋ぐ、ピースフード、ピザのこと(何度でも言いたい)。
厚いピザじゃなくて薄いピザがいい、窯焼きピザより冷凍ピザが好き(時々いる)、トッピングのパイナップルは即排除。好みはそれこそパイと人の数だけある。

ではここで、誰よりもピザを知る男に「ピザ玄人の人生」を聞いてみよう。毎日行列を作り続けるピザの名店、ディ・ファーラ。オーブンにピザを投入し続けて50年、ピザ職人ドメニコさんの登場だ。

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50年ピザを焼く男。ピザ界の長寿ドメニコさん

「NYイチ、スライスの値段が高い店」「世界的シェフのアンソニー・ボーデインに“最高峰だ”と言わしめた店」「80歳のおじいちゃんが毎日ピザ焼く家族経営の小さなお店」。日本でも雑誌やブログなどで多々紹介されているので、聞いたことがある人もいるだろう。ブルックリンのピザ名店「Di Fara(ディ・ファーラ)」だ。今回は、店と味にとどまらず、おじいちゃん半世紀のピザ作りを知りたい。

 そのおじいちゃん、店主であり厨房のボス、ドメニコ・デマルコ(81)。イタリア・ナポリ北からの移民。ブルックリンにたどり着き、1965年に同店をオープンした。実家は農家、ピザ作りは未経験。独学で作り方を習得して足掛け50年、息子や娘と二人三脚で15席しかない店内をピザの匂いで充満させてきた。ドメニコさんによると、一日に焼くピザの枚数は150枚。月曜の定休日を考えて、1年の営業日を288日だとすると、50年でピザのパイ(ワンホール)216万枚をつくってきた計算になる…。

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「薄い生地でカリカリ」「素材の味に深みがあるのに濃厚すぎない」「チーズが口の中で溶ける…」「トマトの果肉!!!」「焼かれる前にさっとひかれるオリーブオイルの風味が利いている」。地元民から観光客まで長蛇の列ができると評判のディ・ファーラ。“食べ物屋に行列”は日本の専売特許かと思ったが、なんだ、そうでもないらしい。実は一度目の取材、客足もひけるだろうといわれた午後2時に訪れたのだが、ひっきりなしにやってくるお客で店は窮屈に。ピザづくりの邪魔になり、この日の取材は断念。二度目は、開店前に臨んだ。

 厨房の奥まったところに腰掛け、ダンキンドーナツのエスプレッソをゆっくり飲んでいたドメニコさんが話す、昨日も焼いて今日も焼き、明日も焼きつづけるピザとピザとピザについて。

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生地作りからオーブン投入まで「ピザ一枚につき、ピザ職人ひとり」

 ディ・ファーラの厨房風景その一、「注文カウンターの向こう側でドメニコさん、休み休みトマトソースまわし」。
「他のピザ屋の多くは、トマトソースを使っている。でも、私の店では生のトマトを潰してソースを作る。トマトソースは“息をしなければならない”から、こうやって時間を空けてかき混ぜるんだ」。潰すトマトは、南イタリア・サレルノからの直輸入もの。サレルノのトマトは、火山の麓、ミネラルをたっぷり含んだ火山性土壌(火山灰や火砕流が堆積してできた土壌)で育つ。酸味と甘味のバランスがとれた、どんなトマトも敵わないトマトだそうだ。「缶のソースでなく、生のトマトを潰すのが楽しい。トマトソースに砂糖入れる人もいるだろうが、砂糖はコーヒーに入れなさい。ほんとうに旨いソースは生トマトと新鮮なバジルだけ」。窓から見える街並みとお天気を確認しながら、今日もトマトソースをゆったり回している。

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 厨房風景その二、「ルチアーノ・パヴァロッティが流れるステレオのつまみをまわしながら、ドメニコさん、ピザの盛りつけ」。生地作りが一番楽しいという職人、毎朝9時に店に来ては、トマト同様イタリア直輸入の小麦粉で生地をこねる。ちなみに、モッツァレラチーズとバッファローモッツァレラ(水牛から作られたチーズで味にクセがない)、パルミジャーノ・レッジャーノは故郷のカゼルタから。イスラエル産のバジル以外、ディ・ファーラピザの素材は「すべてイタリア産だ。私も含めてね。はっはっは」

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 厨房風景その三。「もう製造されていない“特別な”オーブンの前で熱気を感じながら、ドメニコさん、焼きあがりピザとの対面まで300秒を数える」。ディ・ファーラのピザがなぜ他店と違うのかはこの「オーブン」にあるという。「これはもう市場に出回っていない特別なオーブンだ。他の店のは、華氏500度(摂氏260度)だが、こいつは900度(摂氏482度)の高温までいけるんだよ。そして焼き時間は、5分。それ以上オーブンに入れておいたらダメ。低温だったり長く焼きすぎたピザは乾燥して味が変わってしまうんだ」。以前、一緒にピザを焼いていた助手がオーブンを低温に調節して焼いてしまったことから、生地作りからオーブンに入れるまで「ピザ一枚はたったひとりの職人の手で作られるべき(only one guy should make the pizza)」が職人の鉄則となった。

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「今日の外は、なんだかどんよりしているね。いやになっちまう天気(nasty weather)だなあ」。しかし晴れの日も曇りの日でも、ピザの味は同じだ。

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“ピザの聖人”にのみ許される、玄人の食べ方

 半世紀もの間ピザを作る手を止めなかったこの職人、一番好きなピザを聞くと即答で「モッツァレラとトマトだけのシンプルなマルゲリータ」。バジルの緑とトマトソースの赤、モッツァレラの白で「イタリアの国旗みたいだね」。ピザの起源は18世紀のナポリ。元々は、毒があると信じられていたトマトを「飢えてるから食べるしかない」とチーズとともにパンに乗せ焼いた“貧乏人”の軽食だったと言われている。それを知ってか知らずか、職人も「ピザ丸々1枚で4人の食事を賄える。家族や仲間みんなの腹を満たす最善食だ

 カウンターの前で辛抱強くオーダーを待つお客さん。ディ・ファーラに通って10年族の近所のおじさん。「バッファローモッツァレラに、店主のスマイル…。小さなことが積み重なって“特別”なんです。ぼくら近所の常連たちは彼(ドメニコさん)のことを“聖人”と呼んでいます」

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 ピザ聖人、自分の味が狂っていないか確認するため、一日一枚ピザを食す。ドメニコさんしか知らない一番旨いピザの食べ方は?「高温オーブンから焼きあがって出てきたピザをそのまま口に運ぶのに限るね」。
 ファーム・トゥ・テーブルならぬ、オーブン・トゥ・マウス。毎日ピザを焼き、食べるピザの聖人にのみ、許される食べ方だ。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のジョン・トラボルタのように、スライスピザは二枚重ねで頬張るのがかっこいいね、なぞと考えていたピザ素人の予想をはるかに越えていた。

Interview with Domenico DeMarco of Di Fara Pizza

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Photos by Hayato Takahashi
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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