もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら。空飛ぶ豚・フーテン寅さん・ジョゼ、平成30年間の「あの一言」AZボキャブラリーズ

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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4月のテーマは引き続き「懐かしの映画・ドラマで放たれた、登場人物の決め台詞」…なのだが、4月といえば30年続いた「平成」最後の1ヶ月。数十年に1回の元号改定のタイミング、5月から「令和」になる前に、〈平成に公開された邦画〉をピックした。第一弾は、1989年から2005年までに公開されたあの名シーンの名セリフ。今回はそれを英語で言ってみよう。

1、「何が起きても、誰のせいにもできないからねBecause no matter what happens you can’t blame it on anyone else.) 」

ー男子と女子の等身大の恋、悩み、夢をつめた平成のエモ映画『耳をすませば』

いい映画にはその映画のアイデンティティになるようなテーマソングがある。日本国民の脳内に『カントリーロード』を何千回、何万回も再生させることになった映画『耳をすませば』(1995年)もその一例だ。

柊あおいの漫画作品を原作に、日本屈指のアニメーター近藤喜文が監督、スタジオジブリが制作した作品で、20年以上経ったいまも平成時代に思春期を過ごしたみんなの心をいたずらにくすぐる本作。物語の主人公は、読書好きの中学3年生・月島雫(しずく)。ある日、彼女は図書館から借りてきた、どの本の図書カードにも「天沢聖司」という名前があることに気づく。その後、バイオリン職人の天沢聖司と運命的に出会い、互いに惹かれあっていく。夢を追う聖司に、将来なにをしたいのか悩む雫。誰もが通ってきた道が、甘酸っぱいストーリーとどこかで見たことのあるような風景で描写されている。

劇中、夢に向けひたむきな聖司に感化された雫は、受験勉強を脇目に「自分は物語を書くんだ」と没頭。物語を書くことに真剣な雫に「よし、雫。自分の信じる通り、やってごらん」と父親は首を縦に振る。そしてこうつけくわえるのだ。

でもな、人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても、誰のせいにもできないからね

これを英語で言ってみると、「But you know, living in a different way from other people is hard in its own way. Because no matter what happens you can’t blame it on anyone else.」。夢見る少女の背筋をピシッと正すような、人生をじゅうぶんに歩んできた大人だからこそいえる言葉だ。

舞台のモデルは、東京都心のベッドタウン聖蹟桜ヶ丘。集合住宅、共働きの両親、核家族。『耳をすませば』は、随所に“平成の社会”をが見え隠れする。ちなみにこの映画、猫好きにもたまらない。不思議な雑貨屋「地球屋」に置いてある猫の人形「バロン」とデブ猫のムタは、のちに公開されるジブリ作品『猫の恩返し』にも登場している。

2、「バカヤロウ!まだはじまっちゃいねぇよ!You idiot! We haven’t even started.)」

ーボクサーとヤクザ、道半ばの2人が主人公の泥臭い青春群像劇『キッズ・リターン』

1994年、北野武は生死をさまようほどの大きなバイク事故を起こした。その後に制作された映画が『キッズ・リターン』(1996年)だ。それまでは、『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』など「死」を題材にしていたが、キッズ・リターンでは「生」について描いた映画だといわれている。

物語は、高校時代を不良して過ごしたシンジとマサル。ある日の出来事をきっかけにシンジはボクシングにのめり込み、マサルはヤクザの道へと進む。最初はそれぞれの道で成り上がっていくが、他人との関わり合いの中で挫折を味わっていく。数年後、再会した二人は道を踏み外した者同士。高校時代のように自転車に二人乗りし、あの有名なラストシーンを迎える。

シンジ:「マーちゃん、俺たちもう、終わっちゃったのかなぁ?
マサル:「バカヤロウ! まだはじまっちゃいねぇよ!

これを英語で言ってみると、こんな感じだろうか。

Shinji: 「Hey Masaru, do you think we’re already game over?
Masaru: 「You idiot! We haven’t even started!

青春群像劇として評価の高い本作、北野作品に特徴的な青みがかったトーン「キタノブルー」が、文字通り“青い”世界観を創り出している。

3、「腹なんか空かない。絶対に空かない。美しい恋をしていれば、一ヶ月ぐらい飯なんか食わなくたって平気だ!You don’t get hungry. Never get hungry at all. When you’re in love, you’ll be okay not eating for a month.) 」

ー飯より恋。ロマンチストなフーテン寅さん『男はつらいよ 寅次郎の休日』

「フーテンの寅さん」の愛称で国民から愛される『男はつらいよ』シリーズの寅次郎。テキ屋を生業としながらも、社会の規範を外れてふらふら旅をしながら、時折帰ってくる葛飾区柴又の「とらや」。自由気ままに生きる寅さんは、全48作品すべてに名言を残している。

そのなかでも、43話『男はつらいよ 寅次郎の休日』(1990年)での口上は格別に粋だ。寅さんの甥っ子・満男が恋心を寄せる女の子・泉は、“離婚したお父さんを探す旅”に出る。満男は泉を追いかけて、大分県日田市まで行ってしまう。お金も持たず旅に出てしまった若い二人を「腹が空くのに大丈夫だろうか」と心配するまわりをよそに、寅さんはこういうのだ。

腹なんか空かない。絶対に空かない。美しい恋をしていれば、一ヶ月ぐらい飯なんか食わなくたって平気だ!

寅さんが英語ネイティブならこう言うだろう。

You don’t get hungry. Never get hungry at all. When you’re in love, you’ll be okay not eating for a month.

いくら恋に胸いっぱいでもお腹は空くと思うよ、寅さん。一ヶ月なにも腹に入れないのはいけない。でも、恋をしていると、ご飯そっちのけで好きな人のことを思ってしまうのは事実。毎話で、旅先で出会うマドンナに惚れてしまう惚れっぽい寅さんならではの、ロマンチストなセリフだ。

4、「徹夜はするな、睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに、美容にもよくねえ。(A lack of sleep is an enemy of a good job. And… it doesn’t help your beauty.)」

ー働きすぎ現代人への警告? オトナ向けジブリ映画『紅の豚』

再び、ジブリ作品を。今度は大人向けの映画、『紅の豚』(1992年)だ。舞台は、世界大恐慌真っ只中の1920年代、イタリアのアドリア海。飛行艇を乗り回す“空賊”たちと、彼らを相手に賞金稼ぎとして活躍する退役軍人操縦士の豚「ポルコ・ロッソ」のカッコいい物語だ(本作のキャッチコピーは、糸井重里氏による「カッコいいとは、こういうことさ」)。

真っ赤な飛行艇を操るこの豚、実は、元イタリア空軍のエースパイロット。「自分で自身に魔法をかけて」豚になった。「飛ばねぇ豚はただの豚だ」などカッコいいセリフをかますトレンチコートを着た豚のポルコ。現代人が「よくぞ言ってくれた」と拍手喝采する一言がこちら。

徹夜はするな、睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに、美容にもよくねえ。

英語でいってみると、

A lack of sleep is an enemy of a good job. And… it doesn’t help your beauty.」。

劇中、17歳の少女フィオが飛行艇の設計をすると聞いて難色を示すポルコ。しかしフォオの腕をみて、設計を許したポルコは、「ひとつだけ条件がある」と。徹夜はするんじゃねえぞ、と釘をさすのだ。

数十年前に映画のなかで豚が発したセリフが、激務社会を生きる働きすぎな現代人の心にいまも届いているようで「日本企業に聞かせたい」という意見も続出した。

5、「別に寂しくはない。初めから何にもないねんもん。It wasn’t particularly lonely. Because there was nothing from the start.) 」

ー熱くて冷たい、脆くて強いエキセントリックなふたりの抒情詩『ジョゼと虎と魚たち』

上京してきたいまどきの大学生・恒夫(つねお)と脚が不自由な女性ジョゼの恋物語『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)。登場人物らの関西弁のセリフと心情の吐露で、ロマンスを庶民のちゃぶ台におとす田辺聖子の小説が原作。映画は長いが同作品は短編だ。独特のタイトルは原作からそのまま使用され、独特のストーリーが独特なテンポで展開される独特な映画作品に。

祖母に乳母車に乗せてもらい散歩をするのが日課のジョゼと、偶然出会った恒夫。それから彼はジョゼの家を度々訪れることになり、ある日祖母が亡くなり、ジョゼが一人になってしまったことを知る。脚が不自由なため、這いずって動くことしかできないジョゼ。恒夫はジョゼの家に居着くようになり…。

映画の終盤、一緒に旅行に出た二人。ジョゼに対する気持ちがだんだん薄れてくる恒夫、態度や会話もどことなく気持ちが入っていない。旅行先で泊まったラブホテルで、ジョゼは「なあ、目閉じて。何が見える?」と恒夫に話しかける。「なーんにも、真っ暗」と答える恒夫に「そこが昔うちがおった場所や」と。深い海の底から恒夫とエッチなことをするために泳いできたという。海底には「光も音もなくて、風も吹かへんし雨も降らへんで、シーン…と静かやねん」というジョゼに「寂しいじゃん」と返す恒夫。そこでジョゼはそうじゃない、と。

別に寂しくはない。初めからなにもないねんもん。ただ、ゆっくりゆっくり時間が過ぎていくだけや。うちはもう二度とあの場所には戻られへんねやろ。いつかあんたがおらんようになったら、迷子の貝殻みたいに、独りぼっちで海の底をコロコロコロコロ転がり続けることになるんやろ」と別れを悟った返事をする。

ここを英語にしてみると、

It’s wasn’t particularly lonely. Because there was nothing from the start」。

この後、まもなくして二人は別れることになる。泣き、恨みなし、ジョゼが餞別としてエロ本を渡してのあっさりした別れだった。

次回は、平成の邦画第二弾。
『ぐるりのこと。』『カメラを止めるな!』など、
2005年から18年に公開された日本映画の名セリフを英語に。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したあの映画の、

「でもさ、割と自分で選んだ方が強いんじゃない?」
「何が?」
何がって、絆よ。Well, the bond.)」

おたのしみに!

▼これまでのHEAPS A-Zボキャブ
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Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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