ラップやビューティーもエモ路線? 00年代エモシーン全盛〜今日のTikTok“Eガール”までたどる〈エモーショナル〉

最近エモいと感じたもの:森進一の『冬のリヴィエラ』、なぜか機内で配られた「おっとっと」。あと、引き出しの奥から出てきた「ステンシル」。
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「エモい」は「ヤバい」と同等に便利な言葉らしい。あの曲エモい、この映画エモい、その情景エモい。ノスタルジー、哀愁、切ないなどの感情(エモーショナル)が動いた、なんとも表わしにくい状態を「エモい」という3文字に凝縮。前に見かけた「エモみがヤバい」とは、その最上級みたいなものなんだろうか。

「今年の新語・2016年」の第二位の座も獲得、それから数年経ったいまも若者の中心で叫ばれる“エモい”だが、10年以上前に遡ると“エモい”は音楽ジャンルのひとつであり、はみ出た若者のサブカルチャーだった。月日は流れ2019年、いまだにエモは米国ではラップ、ビューティー、SNSにもその片鱗をみせ、エモい節をきかせているという。

まずは「エモい」の背後。はみ出しキッズのカウンターカルチャー〈エモ〉

 エモいのエモは、「エモーショナル(感情)」の「エモ」が通説だ。「エモい」の使われ方からその意味を察することはできる。だが、エモの語源の話となると、ここでまだ終わらない。エモーショナルを「エモ」と略し、エモという言葉を形容詞として使うことは、すでに音楽シーンではおこなわれていた。
 エモ(emo)は、2000年代に最高潮に達した「音楽ジャンル」。ちなみに発音はエモではなく「イーモウ」だ。ジェラルド・ウェイ、ザ・ブラック・パレード、フュエルド・バイ・ラーメンと聞いてエモい吐息が漏れた者は、エモ全盛期にはこじらせエモティーンだったに違いない。ジェラルド・ウェイは、エモすぎるエモバンド「マイ・ケミカル・ロマンス(略してマイケミ)」の顔色悪いフロントマン。ザ・ブラック・パレードはマイケミの代表曲で、エモ世代のアンセムとなった。フュエルド・バイ・ラーメンは、邦ロックバンドONE OK ROCKとも契約した、代々のエモ・ポップパンク系のバンドが多く所属する米レーベルのこと。

 エモの曲はシンガロングできる泣きメロが必須のパンク系ギターロック、感情を体から絞り出すようなメロディアスで感情的な歌唱、歌詞は10代ならではの悩みや心の痛みなど内省的で暗い。死や血といった破壊的なモチーフなどの中二病的な要素も、エモならでは。マイケミの他には、ジミー・イート・ワールドやフォール・アウト・ボーイ、パニック・アット・ザ・ディスコ、パラモアといった大衆受けする「ポップ・エモ」や、絶叫系のヘビーな「スクリーモ」というサブジャンルも誕生した。


代表的なエモ・バンド「マイ・ケミカル・ロマンス」。エモキッズたちに嘆かれながら、2013年に解散した。

 せっかくなので、音楽シーンにおけるエモをもっと遡ってみると、感情の起伏を激しく奏でたフガジなどのハードコアパンクバンドが「エモコア(エモーショナル・ハードコアの略)」と呼ばれた80年代がある。サニー・デイ・リアル・エステイトなど初期エモバンドが出てきた90年代にまで漂流するが、エモがカルチャーとして確立したのは2000年代だ。音楽だけにとどまらず、ファッションや社会へのアティチュードなど自己表現を含めたティーンのカルチャームーブメントになった。エモキッズのドレスコードは、漆黒に染めたストレートヘアか緑や紫などの奇抜な髪色、目にかかった前髪、目の周りをぐるりと黒くアイラインのゴスメイク、容赦なく体に刺さるピアスにタトゥー、好きなエモバンドのビートを刻む足元にはコンバースかVANS(ゲーマー、アニメオタクと重複する部分ややあり)。

 傷つきやすいメンタルの脆さ、危うさを秘めてマイスペースをフル活用。教室ではキラキラ女子やパリピ系男子が構成する人気グループを横目にヘッドフォン、お気に入りエモバンドのボーカルのエモい叫びにエモる。エモは、ピンクのミニスカやローライズジーンズ、チューブトップを纏う当時のイケイケ女子カルチャーをケっと嘲笑うようなカウンターカルチャーだったといえる。その厭世的で内向きな音楽や態度に、当時の新聞は「親が注意すべきエモ・カルト」「絶望、鬱、自傷行為、自殺で特徴づけられる」と、エモキッズたちを不満分子のように扱った。

エモ×ビューティー、エモ×ラップ。エモは、2019年も健在でした(?)

 マイケミも解散し、ポップ・エモたちも別の方向性へ、いつしかエモボーイ、エモガールも見かけなくなったが、“エモ”という言葉だけはしっかり残った2010年代。初恋相手はエモボーイだった筆者も、我が青春のエモは抜け殻となってしまった…とエモい気持ちになっていたのだが、2019年、気になる見出しを英カルチャーマガジン『デイズド』で発見した。「いまビューティー業界ではエモがトレンド?」。

 今年のディオールやグッチなどハイブランドのショーでは、黒い涙や透明な涙などモデルの目の下には「涙」のメイクアップが相次いで見受けられたとのこと。その他デザイナーズブランドのショーでも、パンキッシュでメッシーなエモヘアがトレンド。さらに、ランウェイを下りてもビューティー業界の流行りは「エモ」らしい。イヴ・サンローランの黒いハートがプリントされたリップバームや、歌手リアーナのブランドのマットな黒い口紅…。え、これってエモ、なの? 黒いハート=エモとは聞いたことがない…。
 しかも「エモのトレンドがカムバックした理由。それは、気候変動や政治的混乱、不安定な社会などにビューティー業界もエモーショナルになっている」というこじつけのようなオチで終わる謎記事だった。

 一方で、こちらはもう少しだけ説得力がある。英ガーディアン誌の『“サッドラップ”の盛り上がり』。従来のヒップホップがお金や車、バイオレンスなどを歌っていたのに対し、最近のヒップホップの歌詞は厭世感や内省的な感情など叙情的に。これも“エモ”の仕業らしく、数年前から「エモラップ」というジャンルが流行っている。別名オルタナティブヒップホップと呼ばれ、リル・ピープやXXX・テンタシオンなどが代表的エモラッパーたちだった(二人とも20代前半でこの世を去った)。
 ヒップホップ界の大御所カニエ・ウェストも自身の双極性障害について打ち明けたり、ジェイZもセラピーが必要なことを公言していたりと、ヒップホップ界がややエモに歩み寄っている。

エモガールズの妹分?人気動画SNSの〈Eガールズ〉

 いま10代を中心に爆発的な人気を誇るSNSといったら、の「ティックトック(TikTok)」にもエモの影がある。ティックトックは音楽にあわせて15秒の動画を撮って投稿するソーシャルメディアで、「中毒性がある」とも「やかましい」ともいろんな意味で話題だが、米国のティーンもティックトックにどハマり中。その中で人気の女の子たちが「Eガールズ」だ。

 Eガールズ? また〇〇女子が増えたのか。オンラインメディア「バズフィード」がいうには、Eガールズは「ファニーでキュートで、すごく90年代っぽい」。さてどんな子たちか見てみると、だぼっとしたバンドTシャツにアニメのコスプレっぽい格好、ピアス、カラフルな髪色。で、なぜかみんな小さい黒いハートを目の下に描いている(こ、これはさっきのビューティー業界のエモと繋がってる?)。バズフィードいわく、「Eガールは、エモガールやシーンガール*といった感じ」。

*黒が基調のエモガールより、ピンクや紫などの髪色や服を好むよりカラフルな“エモガール”。

 さらにバズフィードの分析は続き、「Eガールズたちは、いわゆる磨き抜かれた同じ見た目の人気インスタグラマーの“カウンター”かもしれない」。ほほぅ…? エモガールの妹分・Eガールズたちも、エモのようにメインストリームに対抗するカウンター要素を秘めている、のか(?)。

 メインストリームに抗いながら全盛期を終えた、かつてのティーンのカウンターカルチャー・エモ。10年以上を経たいまも、海を渡った日本で“エモい”という若者言葉に引き継がれただけでなく、本国でもファッションや他ジャンルの音楽、ソーシャルメディアにちらほら見え隠れしている。完全に“過去のもの”ではないのだ。エモは、まだまだエモく(なつかしく)ない。

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Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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