プレイボーイ世代のファンタジー〈締めつけの“鎧ランジェリー”〉が終わる。#Metooが動かす下着の消費

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「もうプロのモデルは起用しません」。新興ランジェリーブランド「ライブリー」の創業者だ。プロのモデルを起用しない、は、もはやアパレル業界でも珍しいことではないが、この言葉が厳しいモデル条件を掲げ世界のトップモデルを次々と起用したセクシー下着の代名詞であり、事実米国のランジェリー市場を席巻した「ヴィクトリアズ・シークレット」のエグゼクティブをつとめていた人物によるとなると、聞こえはまた違う。

“盛らない”“自分らしく”は確かに時代のキーワードではあったが、実際の消費行動が変わってきたのはこの2年。背景にあるのは「#MeToo」運動、消費者の意識の変化が実際の消費行動を変えはじめたようだ。

自分の身体を「より〇〇にみせる」という発想の閉幕

「上層部の男性たちは、女性消費者が最も気にしているのは『どれだけセクシーにみせられるか』だと豪語していました。しかし、私はそうは思いませんでした」

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 そう話すのは、元「ヴィクトリアズ・シークレット」のエグゼクティブで、ミシェル・コーデイロ・グラント(Michelle Cordeiro Grant)。現在、彼女はヴィクトリアズシークレット時代と対極のコンセプトをもつ新しいランジェリーブランド「Lively(ライブリー)」のCEOを務めている。
 “ヴィクトリアズシークレットV見解”は、言い換えれば、女性の消費者は「胸をより大きく丸くみせるためならば、多少の締めつけは厭わない」「セクシーにみせるためならば、非合理的であっても装飾は多い方がいい」と考えている、である。セクシーにみせたいその対象が当たり前のように男性であったことにも「違和感があった」。2012年の時点でそう感じていたと話している。
 
 同社は16年まで米国のランジェリー市場の62パーセントを牛耳る独走状態をキープ。だが、この2年間で低迷し、ついには新興ブランドにシェアを奪われつつある。そのシェアを奪いつつあるのがミシェル氏が16年にはじめたライブリーをはじめとする女性目線で作られた新しいランジェリーブランド。他にも「ThirdLove(サードラブ)」「AdoreMe(アドアミー)」など、資金調達に成功している強豪ブランドは多く、それらには以下の点で共通している。

・着心地の良さ、動きやすさを重視
・フリルやリボンなどの装飾を減らしたシンプルなデザイン
・サイズの豊富さ(インクルーシブ)

*スタートアップの中で、最も多いものだとサードラブが計70サイズを展開中。ヴィクトリアズシークレットは35−40サイズ程度。

・創業者が女性。従業員も圧倒的に女性が多い
・生産と販売の間にいるミドルマン(中間業者)を排除した「中抜き」ビジネス。高品質なものを手頃な価格で提供

 理念、そしてデザインも「シンプル」だけに、どのブランドもよく似ている。すでに成功例があって需要が有り余っているところに飛びつかないのは資本主義ではないわけで、ここ数年で米国では次々と女性目線で作られた新しいランジェリーブランドが誕生している。


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出典:Lively official Website

従来の「憧れ」のイメージが「嫌悪を感じるもの」に

 ライブリーは、16年の創業時から一貫して「プロのモデルを起用していない」。ウェブサイトのフィット・ガイドのページでは、様々な体型の一般人がモデルを務めている。
 
 ただこの手法、18年現在はうまく行っているのものの、2年前は「いまいちだった」という。同社のコアターゲットは、従来の「男性にセクシーに見られるためのデザイン」に違和感を覚えていた女性たち、つまり、やや乱暴なまとめ方をすればフェミニストたちだとはいえ、このあまりにも自然でモデルがモデル然としていない雰囲気「ウェブサイトを訪れても購入せずに離脱する消費者が多かった」そうだ。
   
 その消費者たちが、この2年で「フォトショップ(加工)をしていない自然で健康的なモデルの方が」、また「自分に近い容姿のモデルが着ている方がブランドに対して好感が持てる」と消費行動を翻した。その理由について、彼女は「#MeToo」運動との関連性をあげる。#MeToo運動自体は、セクハラなどの被害について見て見ぬ振りをするのは終わりにしようというものだが、そもそも女性を尊重すべき個人としてではなく「性的関心の対象」としてみる男性優位の社会のあり方が複雑に絡み合っている。

 ヴィクトリアズシークレットが打ち出してきたような「男性が定義する『セクシーな女』の条件:細身なのにグラマーな非現実的な美を纏ったモデル(悩ましげ、あるいは挑発的なカメラ目線を送る)」という、男性優位の社会で一方的に女性消費者に刷り込まれてきた一種の「憧れ」が、この運動とともに「嫌悪感」に変わったのではないか、と指摘。調査会社ユーガブ・ブランドインデックスも、ヴィクトリアズシークレットの低迷の理由について、#MeToo運動により女性の意識が変化したことをあげている。

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@wearlively

ハッシュタグが消費者を啓蒙し、行動を変える。視覚から「内面」の時代へ

 くわえて「自分に近い容姿のモデルが着ている方がそのブランドに親近感がわく」という感覚は、自分自身を愛することの大切さをとく「自己受容」の考えが浸透した結果なのではないかと感じている。
 雑誌や広告のプロのモデルの容姿と自分の容姿が違うことで悩むなんてナンセンスだ、自分のありのままの姿に自信を持とう、というのはかれこれ5年以上前からソーシャルネットワーク上で幾度となく言い続けられたこと。最初こそ「頭ではわかっているけれど、なかなか精神がついていかない」感があったが、日々、ひとり、またひとりと、影響力のある人たちが立ち上がるにつれ、熱量を上げてムーブメントになった。それにより、米国の消費者の意識、そして消費行動も確実に変わっている。
「自分のありのままの姿に自信を持とう」という自己受容の理念は、女性だけでなくLGBTQの人々の意識の変化を反映した「ジェンダーレス」ブランド、つまりは女性がボクサーを履いたり、男性がワイヤーレスのブラを身につけたり、といった需要に応えるブランドも生まれている。

 ファッション、とりわけ婦人服は、いつの時代もその時代の社会情勢や消費から成り立つ文化を反映してきた。女性が社会に進出し、取り巻く環境が変わると、その装いも女性が自ら着心地のいいと感じる服、いわば“内面”から捉えたものへと転換してきた。それは、表には見えない下着も然り。プレイボーイの洗礼を受けた米国人男性たちのファンタジーをベースに作られたヴィクトリアズシークレットのランジェリー。“視覚”的スペクタクルの極みだった同社の寡占時代が終わり、次は現代の女性が重視する「内面」の時代へ動く。

 一見すると、フェミニストたちが男性のファンタジーにガンジーのごとく不服従を掲げているようにも見えるかもしれないが、彼女たちは決して「非セクシー」を目指しているわけではない。やろうとしているのは「セクシーな女性像」の再定義と、従来のプロダクトの非合理的な部分の改善だ。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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