「いま我々は〈魔術の黄金期〉を迎えています」
ノストラダムスのお告げか。ファンタジー映画のキャッチコピーか。胡散臭い占い師の戯言か。それとも、現代人にも関わる本当のことなのか。あるオカルティストによれば、ここ20年で“秘境で隠れておこなう魔術”から「ネットでラクに消費できる魔術」へと変幻し、ブームは全盛期だという。
オカルトブーム、まだまだ続く…というよりサイバー上で全盛期?
2、3年前、若者たちの「オカルトブーム」が話題になった。現代人のセルフケアへの注力や、無神論者(ノンズ)の増加もあいまって、マジック(魔術)、タロットカード、占星術、スピリチュアル、メディテーションなどのオカルトカルチャーが、闇の魔界から陽の当たる下界へと降臨してきたともてはやされた。
「たかだかゴシックなファッショントレンドの延長線でしょう」「ヨガでニューエイジに目覚めた若者たちの一時的なトレンド」…という予言ははずれ、2018年もオカルトは血色がよい。インディペンデント系の雑貨屋や本屋に行けば、レジ近くにタロットカードが置いてある(最近のタロットカードは従来の“見るだけで呪われそうなおどろおどろしい画”から、“今風のアンニュイなイラスト”やいわゆる夢かわいい系に変わりつつある)。
インスタグラムで「#tarot」の投稿数は278万件、占い屋に行くのではなくスカイプでタロット占い、若い女性たちはインスタでタロット占いをシェア、さらにはハリー・ポッターのサイバー版(?)“オンライン魔術学校”なるものも開講されたり(後ほど詳しく説明する…)と、サイバー上でのオカルト消費が平然となされている。
「『魔術=タブー』『オカルトは怖いものだから、触れないでおこう』の概念を捨てて、身近なインターネットというツールを使うことで、自身の精神的成長を自らの手で促すことができる。これが現代のオカルトです」。平静にこう主張するのは、オンライン魔術学校の校長ジェイソン・ルーブ。魔術の世界に身を置いて20年、世界中を巡礼しヒマラヤの山岳にいる魔術師からシャーマン教徒にまで出会い、魔術の学を身につけてきた。 最近では16世紀英魔術師ジョン・ディーの伝記を出版、またアポロ11号で月面着陸した宇宙飛行士バズ・オルドリンの人類火星移住計画に参加する(なぜ?)という話題性ももちあわせた現代オカルティストである。彼が暗示する「現代オカルトの解放」とはいかがなものだろうか。
メインストリームになった魔術。性格も明るくなってきた?
「まず、魔術は”怖いもの”では決してありません。個人に力を与え人間性を進化させていくための道具、また人を助けるため、人の意識を変えてくれるツールでもある。そしてそのプロセスには秘められた精神経験やテクニック、組織の存在があります」とオカルト先生は諭す。
そもそもオカルトって具体的にはなんなんだろう? 「オカルトと一口にいっても、魔術や呪術、西洋秘教、スーフィズム(イスラム教の神秘主義哲学)などがあります」。ふむ、タロットカード、ホロスコープ(星占い)は? 「オカルトの一分野ですね。ちなみにぼくの考えですが、『人の意識を変える』という点では、マーケティングや広告も魔術だと思っています」。オカルトと聞いたらロック好きな筆者は、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが傾倒していた黒魔術*師のアレイスター・クロウリーを思い浮かべてしまう。
「いえ、私は黒魔術は教えません。馬鹿げていますね。オカルトにダークな要素は必要ないです。魔術を勉強するのは、医者になる勉強をするのと似ています。真面目な魔術勉強家は一日数時間瞑想をしているような人。また若い子にはダークな格好のファッションオカルトもたくさんいますよね。本物の魔術師はオカルトのオの字も醸し出していないまったくもって意外な人だったりします。同じ部屋にいても気づかないですよ」
*悪魔を召喚して自身の欲望を満たすために行われる魔術。
魔術をするのに「ローブを頭に被せ山に篭らなくてもいい。Uberに乗りながらでもOK」
20年前は「オカルトはタブー中のタブー。『オカルト』と口にするだけで悪魔崇拝だとパニックに陥る社会だった」らしい。しかしここ数年、若者たちでブームになりメインストリームにも受け入れられつつある理由をオカルト先生はこう説明する。
「大きな要因は、『インターネットの出現』です。数十年前はクローリーの本でさえ手に入らなかったのに対し、いまではオカルト関連の情報がネットに無数に散らばっています」。二つ目には、「『90年代にティーンだった若者たちがオカルトに慣れていること』。いまの若者は、物心ついた頃から超自然現象をテーマにしたドラマ『Xファイル』やヴァンパイアハンターの少女が主人公のドラマ『バフィー 〜恋する十字架〜』、マリリン・マンソン(サタニックなルックスのアーティスト)、ハリー・ポッターなど魔術やオカルティックなサブカルチャーに親しんできました」。そして「『不安定でいまにも崩壊しそうな社会』も影響していると思います。たとえば冷戦が終わり鉄の壁が崩壊したとき、ソ連ではオカルトブームがおこりました。社会にすがるものがないときに、オカルトという力に頼ってしまうのかもしれません」
オカルト先生が開校したのが、オンライン魔術学校「マジック・ミー」だ。サブスクリプション型で月49ドル(約5,400円)を払うと、15のオンラインクラスを受講できる仕組みになっている。「精神向上のためのオンライン道場」と謳うコース内容は、瞑想、ヨガ、タロットカードなど入りやすいトピックから、幽体離脱、明晰夢(夢をコントロールする術)といったコアなもの、中国の易経占いに儀式魔術、ケイオスマジック(オカルト先生曰く「特定の宗教に固執していない、いわば魔術界の“パンクロッカー”」)など。
いつでもアクセスできる動画での講義は「狂ったように忙しい現代人のスケジュールにも滑り込めるようにデザインされています。仕事の休憩時間やウーバーで移動中の隙間時間に、5分のチュートリアル動画をスマホでささっと見る。魔術を習得するのに、なにもローブを被って山に隠遁したり寺院で修行しなくてもいいのです」
オカルト信仰者層にも変化があるという。「20年前は、ドラッグ中毒者やベトナム戦争の退役軍人、バイカーギャングなども含め、社会から恐れられていた文化的アウトサイダーたちが多かったです。いまは、ぼくの学校の生徒をみても、ヒップスターや富裕層、社会的地位のある人からファイナンス・広告・不動産・エンタメ分野の人々までごった混ぜです」。さらに、オンラインスクールにしたことで、受講生はヨーロッパ、アジア、中南米、インド、中東など国境を超えて世界に散らばっている。「中国の魔術を他の国の人がオンライン学校で学べる。インターネットのおかげで、魔術の文化交流がぐっと広がりましたよ」
オカルトはブロックチェーンとも共通点がある?
地下の地下にに潜んでいたオカルトが、ネットのおかげでメインストリームに顔を出しつつある。インターネットのおかげで触れやすくとっつきやすくなったオカルトだが、マイナス点も指摘した。
「オカルト関連書籍も昔は図書館ででさえも見つけることができなかったのに、いまではアマゾンで簡単注文」。しかし「世の中に流れるオカルト情報が氾濫しています。ネットに落ちている情報のどれを信じていいのか迷子状態にあるともいえる。そういう意味ではオープンになったオカルトが、錯乱した情報に真実が埋もれ、今度は違った意味で再び秘められたものになってしまった」。
最後に、オカルト先生はオカルトと現代社会システムの奇妙な繋がりについて触れる。「ひと昔前に魔術師たちが思い描いていたテレパシーや読心術は、離れた場所でもコミュニケーションがとれる電話やEメール、ソーシャルメディアに化けました。空飛ぶカーペットは、配車サービスやアマゾンプライムになった。さらにオカルティストで小説家だったウィリアム・S・バロウズの信条は『中央集権体制に揺さぶりをかけ、コントロールシステムを分化する』。どこかで聞き覚えありませんか?」
Interview with Jason Louv/Twitter @jasonlouv
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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine