近未来シティキッズの遊び場は地下!?Underground as Playground

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大都市の地上は密集地帯。空間を求めたら、上へ上へいくしかない。おかげでマンハッタンはビルの谷間だらけだ。とくにローワー・マンハッタンは17世紀の入植時から移民でごった返した場所で、都市計画などとは無縁だった。中でも移民街として知られたローワー・イースト・サイド(以下、LES)は、住宅と道路がひしめき合うエリア。憩いの場所といえば、申し訳なさげに中央分離帯にいわゆる「公園道路」がある程度。大人がベンチに腰掛けている分には十分かもしれないが、キッズが走り回って遊ぶには危険がいっぱい。おまけに自動車の排気ガスが蔓延する道路に挟まれているので健康的にもよくない。850万人といわれるニューヨーカーのうち、公園のヘビーユーザーである14歳以下は、20%強を占める(2000年国勢調査より)。彼らには安心して思いっきり遊べる空間を求める権利が大いにある。そんな彼らの声なき声に応えるのが、地下公園計画「The Lowline」だ。

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地下菜園も?コミュニティを創造

 本誌が地下公園計画「The Lowline」を総特集したのは2013年9月のこと。建築家のジェイムス・ラムジーが、路面電車の車庫として使われていた地下空間に目をつけたのは2009年。12年2月にキックスターターで15万5,186ドル(1,862万2320円)を集め、その資金をもとに9月、実物大模型展を開催。地上から太陽光を取り入れる「リモート・スカイライト」とその光を反射させる「キャノピー」と呼ばれるメタリックな天井が、暗闇(地下空間)を「公園化」させた。

 1万人が息を飲んだ実物大模型展から2年ちかく、ジェイムス率いるLowlineチームは、自治体や市、MTA(ニューヨーク都市交通局)などと連携を取り、法的・技術的インフラの整備に尽力してきた。そして今年9月、再び実物大模型展を行う。前回の2倍の規模、さらに技術開発を重ね照度がパワーアップしたリモート・スカイライトの実用実験も兼ねる。植物学の専門家もチームに加わり、この照度が植物にどのような影響を与えるのかもモニタリングする。「地下空間で菜園、なんて未来もありだろ」。ジェイムスにはもう、公園の枠を超えコミュニティを創造する地下空間が見えている。

“放課後”は地下公園デザイン

 Lowlineのさまざまな可能性の探求。その刺激になっているのが、チームが主宰する「Young Designers」というアフタースクールとしてスタートしたプロジェクトだ。小中学生をターゲットにしたのは、コミュニティの未来を担うキッズの好奇心や探究心を育むことが重要だという考えがあったから。

 LESのツアーを通してキッズは地域に対する愛着につながる知識を得る。Lowlineを取り巻く科学技術、建築・デザイン工学、都市計画といったさまざまな要素をもってプロジェクトの意義を知る。実現にどんな問題があり、どう解決してきたかを知ることで、問題解決のための思考や技術を学ぶ。キッズは、どんな公園にしたいか思いを馳せて模型をデザインする。その発想や構想に、チームはキッズに教えていたはずが「教えられている」と語る。そして彼らの熱心な姿やエネルギーから、「必ず実現する」という英気を養っているという。

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「未来都市計画」の要はキッズ?

 13週のYoung Designersを“卒業”したキッズは、LESのギャラリーで設計模型を展示する。自らのアイデアをカタチにするチカラを披露する場を与えられたキッズたちの表情は、なんとも生き生きとしている。親御さんもキッズの成長ぶりに誇らしげだ。

「地下公園という空間を自分の公園として考えてほしい。自分と直結できれば、コミュニティの絆が強固なものになります」とは、コミュニティ・ディレクターのロビン・シャピーロ。自分が暮らす街について知り、Lowlineという地下空間をデザインすることで、どんな街を作りたいのかを話し合う。キッズは「それは本当に必要なの?」という大人たちからの問題提起に応えながら、自由に自分の地下公園を作り上げる。

 この2年、Young Designersを経験したキッズは1,000人以上。彼らはLowlineの強力なサポーターだ。この中から将来、建築家やデザイナー、都市計画に関わる人材が生まれるかもしれない。

 ある子に「僕たちでもできることを教えてくれてうれしい」といわれたのをロビンは忘れない。キッズだってコミュニティの一員なのだ。遠くない未来、シティキッズは地下公園で思いっきり遊び、知らず知らずのうちにコミュニティの大切さを学ぶのだろう。

※1ドル120円で換算

thelowline.org

Writer: Kei Itaya

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