青二才、八人目「有名になっても『友だちと何かを作る』というお互いのマインドは変わらない」

【連載】日本のゆとりが訊く。世界の新生態系ミレニアルズは「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、八人目。

「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。

現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。
米国では「ミレニアルズ」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。
というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、
夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。
お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで米国から世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

八人目「有名になったいまでも『友だちと何かを作る』というお互いのマインドは変わらない」

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「七転び八起き」なんて言葉がありますが、奮闘する青二才を取り上げる同連載も、あれ? 気づけば八人目。
青二才八人目はマイラ・リビン(Milah Libin)、マルチな24歳。どれくらいマルチかというと、名門レーベルRough Trade(ラフ・トレード)よりリリースされたアルバム『1992 Deluxe』が、ローリングストーン誌が選ぶ「2016年知られざる名盤15枚」に選ばれ、今年のフジロックにも出演が決定しているラッパー、デスティニー・ファスケリ(Destiny Frasqueri)ことプリンセス・ノキア(Princess Nokia)のMVを手がける(その数10本)映像監督にして、巨匠から無名アーティストまでが横並びで会するDizzy Magazine(ディジーマガジン)も刊行するくらい。これらすべて「とりあえずやってみる」から生まれているということ。つまりすべて独学。それでいて、ここまでの活躍をみせる彼女だから、インスタグラムには決して映らない人知れぬ葛藤や苦悩もないはずがない。
というわけで、先日東京でのポップアップイベントへの参加を終え、ニューヨークに戻ってきて間もない彼女を訪ねてきました。「青二才・マルチアーティスト、マイラのあれこれ」。

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HEAPS (以下、H):壁に使い捨てマスクが貼ってあるね(笑)

Milah(以下、 M):なんでもかんでも壁に貼っちゃうの(笑)

H:生まれはブルックリンだよね?

M:生まれも育ちもブルックリン。ちなみに、このシリーズに出てるアディナのことは中学生の頃から知ってる。

H:二人同い年だもんね。

M:そうなの。で、話は急に本題に行くんだけど、父が映像監督をやってて、日本のバンドの「PLASTICS(プラスティックス)」のMVも撮ってるわ。

H:わお!

M:だから小さな頃から、映画だったり、たとえばスパイク・ジョーンズのMVだったりを見て育った。音楽が好きでバンドもやっていてたし、カメラも好きで中学生の頃にはアートスクールの夏期講習に参加して、フィルムの現像もその頃にはできるようになってた。映像もそうで、いまでも使っているミニDVカメラで友だちを撮ったりしていたわ。

H:いまのマイラもMV監督をやって、雑誌も作ってってなんでもやっているけど、小さな頃からそうだったんだ。

M:おじいちゃんがミュージカルのプロデューサーだし、おばもペインター、そして父が映像監督っていうのもあって、他の人より少し制作の多めな環境で育ったからかも。10、11歳くらいの頃だと思うけど、何人かの友だちと映画のレビューだったり自分で作った詩だったりを、ニュースレター形式で配信もしてたし。

H:それ送ってほしい(笑)。好奇心旺盛なマイラだけど、その当時には将来の青写真ってあったのかな?

M:とても小さな頃は先生になりたいと思っていたの。文章を書くことも好きで、いつも本ばかり読んでいたわ。医者の子どもが必ずしも医者になる必要ってないでしょ? 私の父は映像監督だけど、金銭的な浮き沈みも見てきてフリーランスって大変なんだなって子どもながらに思ってたから。だからね、最近まで一度たりとも映像監督って仕事が魅力的なものだと思ったことがなかったの、実は。

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H:そんなマイラがなんでまたMVを撮ることに?

M:自然発生的に近いかも。その昔、友人のラッパーを通じてディスティニー(プリンセス・ノキア)と出会って遊ぶようになったの。誰かの家だったり、公園で溜まってだべって。絵に描くティーンネイジャーの生活ね。そうやって遊んでる中で、ディスティニーがMVを撮ってほしいって頼んできた。「全然わからないけど、友だちと何か作るってたのしいし、とりあえずやってみるか」って。

H:それで生まれたのが、『Dragon(ドラゴン)』だ。

M:あのMVは本当にただ「友だちと一緒に何かおもしろくてクールなものを作る」って感じだったの。でも実際にやってみて、「あれ、MVってめちゃくちゃたのしいじゃん!!!」

H:どんなところに魅力を感じたんだろ。

M:実際にカメラを操作する作業が一番たのしいと思った。それこそ父がやっている仕事ね。

H:「血は争えない」だね。ドラゴンにはじまり、これまでプリンセス・ノキアのMVを10本手がけてきたわけだけど、その撮影プロセスについて少し教えてくれる? クレジットをみるとマイラとプリンセス・ノキア、二人でディレクションしているみたいだけど。

M:曲のテーマに合わせて、ディスティニーと一緒にアイディアを練る。参考になるようなイメージを各々が持ち寄って、そのビデオにぴったりのノリを見つけだすの。それに、これまでディスティニーのMVのほとんどが、彼女のリアルなライフスタイルをベースに作っていて、どちらかというとドキュメンタリー撮影のような感じ。だから一つひとつのカットが綿密に計画されたようなMVの撮影現場とは違うと思うわ。

H:「とりあえずやってみるか」ではじまったプリンセス・ノキアのMV制作だけど、その精度はビデオ毎に磨かれているよね。

M:ディスティニーとやってて何がおもしろいかって、これまで一緒に作ってきたMVのどれをとっても同じようなものが一つとしてない。ラップだけじゃなく、最近だったらエモも取り入れてて彼女の音楽が多様なだけMVもがらりと違うものが作れる。

H:プリンセス・ノキアとのMV作りにおいて、マイラがいつも心に留めているものってなんだろう?

M:嘘偽りなく、あるがままのディスティニーを捉えるってことかな。それが親友である私が撮れるディスティニーだと思うし。

H:ここ最近、プリンセス・ノキアの人気はうなぎのぼりだけども、正直プレッシャーを感じることはないの?

M:ドラゴンを作ったときなんて、ディスティニーがプリンセス・ノキアとしてどれほど有名なのかも全然知らなくて。再生回数をみてびっくりしちゃった。
本音をいうと、私と一緒にやりたいって言ってくれることにいまでも毎回驚いてる(笑)。だって、いまの彼女だったら、もっと権威のある監督に頼めるわけでしょ。ディスティニーが有名になったいまでも「友だちと何かを作る」というお互いのマインドは変わらない。それってやっぱりいいよね。

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う〜ん。好きなものたくさん。

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日本製の使い捨てマスク、見つけられます?

H:素晴らしいことだよね。

M:彼女はとてもインディペンデントなアーティストだから。他のアーティストのMVも撮影したことがあるんだけど、MVって商業的になりすぎてしまうこともあって、正直あまり好きじゃないっていうのが本音なんだ(笑)。ディスティニーとのMV制作はそういう既存のものとはまったく別。作る部分は彼女がすべてをコントロールしていて、レーベルの人も口を出してきたりしないから。

H:ちなみに、手がけた10本の中でお気に入りのMVは?

M:『FLAVA(フレイヴァ)』は、MV監督として自分の新しい部分が見えた作品になった。冒頭の2分間ほどはショートフィルムのようなものになっているんだけど、この部分を今後もっと追求していきたい。さっきも言ったように、これまでは映像というものに対してちょっと拒否感みたいなものが私の中にあったんだけど、フレイヴァを撮影したことがきっかけに自分の中に新たな発見できたし、MV以外のものも撮りたいと思うようになった。

H:ということは今後映画制作に力を入れていく?

M:「どこどこの映画祭に・・・」みたいに映画産業にどっぷり浸かるというよりは、自分が納得できるものを作りたいかな。自分のやり方でやりたいと思っているわ。

H:マイラの作品を語る上で、「仲間と作る」という部分は重要な要素だと思うんだけど。

M:「仲間と作る」ってとても価値のあるものだと思う。ただパーティーにいくだけの関係とはまるで違うよね。それに、自分の周りにはこれだけ素晴らしいアーティストたちがいるのに、何もやらないなんてありえないでしょう。

H: MVを制作の傍ら、アーティストでボーイフレンドのアービットと『Dizzy Magazine(ディジー・マガジン)』も作ってるよね。素朴な疑問なんだけど、その飽くなき創作意欲はどこからくるの?

M:どこなんだろう?ただ、色々なことに興味がある私にとって、何か一つに絞って、一生それをやり遂げるっていうのはちょっと怖いことだなって思っちゃう。
一方で「ただ一つのことだけに熱中できる人」を羨ましいななんて思うこともあったり、そういう人たちと、色々手をつけている自分を比較して不安な気持ちにかられることだってなくもない(笑)。でも、もし自分が「たった一つ」を選ばないといけないとしたら、絶対ハッピーになれないと思うから。

H:悩める年頃です。

M:色々なことに興味があると、時にとりとめもなく頭がこんがらがっちゃうから、そういう意味でディジーマガジンを作ることで自分の頭の中の整理もしてる。

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H:毎号、有名無名問わず様々なアーティストがコントリビューターとして参加しているけど、その多くは友だち?

M:友だちもいれば、インスタだったりインターネットで知った人もいるし、紹介で出会った人もいるの。最新号で登場してくれた写真家のアリ・マルコポロスは、私たちが10代の頃からよくしてくれてる大先輩。一見すると、有名なアーティストと無名のアーティストをランダムに並べているように見えるかもしれないけど、これは意図的にしていて。無名な新人アーティストにとって有名アーティストと並ぶことで純粋に見てもらえる機会も増えるだろうし、ディジーマガジンは上の世代と新たな世代のギャップを繋ぐプラットフォームでありたいと思うから。

H:昔の日本の雑誌が、誌面のデザインのインスピレーション源になっているみたいだね。

M:昔のポパイやオリーブのページデザインがもともと好き。というのも日本の雑誌って私が見て育ったアメリカの雑誌と比べて、色もそうだし、テキストの置き方、至る所に切り抜きが使われていたりするところとかもまったく別物。一見風変わりなデザインがなぜかとても機能していて。日本の雑誌デザインは芸術だと思う。
あとはキャラクターも。ポリスでさえも「ピーポくん」っていうキャラクターがいるでしょ? それに影響を受けて、ディジーでも猫とネズミと女の子のキャラクターを作ったの。

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H:そんな日本は原宿にあるドミサイルで2回ポップアップをやっているね。

M:ニューヨークの友人たちが主宰のポップアップに参加して帰ってきたのが数週間前。もうすでに日本が恋しい(笑)。でもね…今回の日本滞在は結果的にとっても現実的だったの。それがかえって日本を恋しくしてるのだと思うんだけど。

H:ん? というと?

M:アービットが東京でグラフィティを描いて警察に捕まっちゃって。数日間留置されちゃったの。外国にいくと、すべてが新鮮でみんな高ぶっちゃうと思うんだけど、その出来事でファンタジーからハッと目を覚まされたような感覚になって。大好きな日本で起こったまさかの現実的な体験で、日本をより好きになってしまったというか。

H:是非、日本を舞台に映像を作ってほしい。ちなみに、MVも雑誌も、誰から教わるでもなく、独学でここまでやってきたマイラだけど、そこには人知れぬ苦労もたくさんあったかと思うだけど。

M:映像制作にしても雑誌制作にしても、「とりあえずやってみる」ではじまってこれまでやってきたわけだけど、もちろんはじめた頃なんて、できないことだらけで大変だった。でも、できないことをやらなきゃいけない環境に置換することで自然とスキルアップしてきた。私には、こういう学び方が合っているのかも。

H:独学のアーティストとして、いつも心がけていることってある? たとえば、友人ではないクライアントとの案件とか。

M:ニューヨーカーであるっていう強みはあるかも。良くも悪くもニューヨーカーっていかにハッスルすればいいのかを心得ているじゃない(笑)? 「大丈夫。心配しないで」という具合に任せてもらって、そうしたらあとはやらざるを得ないでしょ。

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H:ハッスルしてるね(笑)。そんな毎日をハッスルしているマイラの今後の展望はある?

M:いまやっていることを、精度をあげつつ継続していきたい。あと、今後はディジーマガジンにより注力していきたいと思っているわ。ディジーマガジンを非営利組織にするのが直近の目標。何よりも、情熱を注げられるものを愚直にやっていく。これまで色々な人からMV制作のオファーを受けてきたけど、断ったものも多いの。というのも、自分が「本当にやりたい」と感じるものじゃなきゃいけないと思っていて。そこだけは曲げられないかな。

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Aonisai 008: Milah

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マイラ・リビン(Milah Libin)
1993年生まれ。
ブルックリン生まれ、ブルックリン育ち。NYを拠点にする注目のフィメールラッパーPrincess Nokiaや、バンドBeach FossilsなどのMVを手がける映像監督にして、インディペンデントマガジン『Dizzy Magazine』を主宰。

@milahlibin
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Photos by Kohei Kawashima
Text by Shimepi Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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