「最近の若いのは…」
いつの時代も、職場やどこぞやの酒の席で交わされる“若者ろん”。
これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰も一度は通る、青二才。
現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。
アメリカでは「ミレニアルズ」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。
というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、
夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。
お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで米国の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。
四人目「写真はシャッターを押すだけだからね。たくさん考えたくないし」
青二才は「三日坊主」では終わらない。四人目はとってもアイキャッチーな青二才Julian Master(ジュリアン・マスター)24歳。
待ち合わせのウォール街に少し遅れて現れたのは、立派な髭面、恰幅の良い体を揺らして歩く大男。その大きな体を纏うのは、まさに戦場カメラマンルック。
「今日のためのとっておきの一着さ」と。これはずるいです、ジュリアンくん。青二才二人目に登場してくれた(リバー)くんとは、なんでも小さな頃からの腐れ縁なんだとか。
現在ストリートフォトグラファーとして、日々路上で起こるその一瞬を探しにニューヨークのストリートに出るかたわら、Viceなどのメディアと仕事をこなし、週に三日はフードプロセッサーの撮影もするジュリアンくん。
生活するためのフードプロセッサーだって、すべては自分の好きな写真を撮るため。青二才の多くが直面する「自分に正直でいたい気持ち」と「生活のための妥協」、二つの間で葛藤する、とことん青二才なジュリアンくんに訊く「青二才、Julianのあれこれ」。
HEAPS(以下、H):こんにちは。まずはじめに、あなたについて教えてください。
Julian(以下、J):あー、膝が痛い。日本の皆さんこんにちは。ストリートフォトグラファーのジュリアン・マスターだよ。生まれはオレゴン州、ユージーン。そこの大学に進学して社会学を学んだよ。在学中は学生が作るテレビ番組でドラマを作っていたんだ。「バトル・トレインズ」っていう、電車が宇宙を舞台に戦うっていうドラマなんだけど…。みんなで宇宙船を作ったりして遊んでいたんだ。まぁそんなこんなで映像制作をはじめたわけね。
H:キャリアのスタートは、静止画ではなく動画。
J:そうだね。初めてのカメラは20歳の頃かな。周りの友人を撮りはじめて。
H:ニューヨークにはいつ?
J:21歳のときだよ。
H:で、ここではもっぱら写真? ビデオは辞めちゃったの?
J:ニューヨークにきて、とっても有名なテレビドラマのプロデューサーアシスタントをやったよ。だけどあれはもう最悪だったね。プロデューサーにコーヒーを淹れるだけの仕事だよ。12時間で100ドル(約1万2000円)しかもらえないし(笑)。
H:え、それまだマシにもらってるほうじゃない?
J:とりあえず、何も面白くなかったんだ。これまでの仕事で一番最悪だったよ(笑)。それが初めての仕事だね。
H:ほうほう。
J:しばらくそこで働いたあとは辞めて、今度はコーヒーショップで働きはじめたんだ。そこで本当にたくさんの人に会う機会があった。いまも定期的に仕事をくれる女性がいるんだけど、彼女もそこのお客さんだったんだ。それで、週に3日はフードプロセッサーを撮っているよ。
H:フードプロセッサー? 生活していくっていうのは大変なことだね。Viceでもよくジュリアンくんの作品を見かけるけどまだ大変?
J:そうだね。まだまだだよ。Viceもそうだし他の雑誌にも僕のストリートフォトが使われているからチェックしてみて。
H:ストリートフォトグラファーになったきっかけは?
J:さっきのコーヒーショップで働いていたときなんだけど。ある時、お客さんとしてRichard Sandler(リチャード・サンドラー)が来たんだ。彼はもうおじいちゃんなんだけど、偶然僕の祖母と同じ高校に通ってたっていうのもあって、仲良くなったんだ。
彼、グッドなストリートフォトグラファーで作品をたくさん見せてくれた。その写真にとっても引き込まれたんだよ。
H:それでストリートフォトグラフに惹かれた。
そう、それがきっかけでストリートに出るようになった。最初はただただ理由もなく、カメラ片手に歩き回ってた。だけど、1年半前くらいからかな、写真を撮ることにフォーカスして出歩くようになった。いまでは週に三日は、写真をとるためにストリートにいるよ。
H:フォトグラファーとして活動をはじめたのはいつからでしょう。
J:パートタイムでは3年くらいかな。フルタイムは1年半くらいだね。写真はたくさん撮る。1週間で5〜10本はフィルムを使うね。
H:何からインスパイアされるんでしょう。
J:やっぱり、路上を歩くこと。1日最低5時間はストリートを歩いているから。そこでたまたまた出くわす、“偶然”を探してね。
H:その偶然の被写体、コミュニーケーションはどう取ってる?
J:ストリートフォトでは、基本的には被写体とコミュニケーションを取らないね。僕は彼らのプライバシーを盗むプロフェッショナルだから(笑)。
H:あ、じゃあたまにバレて怒られることもあったり。
J:時々、怒鳴られることはあるね。でも、ニューヨークって怒鳴られるのに最適な場所だと思わない? ニューヨークの路上では四六時中怒鳴り声が聞こえるだろ?タクシードライバーとかさ。
H:確かに。怒鳴られてても悪目立ちせず溶け込んでしまいますね。
J:被写体には、そりゃあいい気しない人もいるよね。僕だってバカなことを路上でしていると思うし、そんな瞬間に写真を撮られるのは絶対いい気はしないよ。でもそれが僕の仕事なんだ。
人に不快感を与えないようにすることによって、自分の撮りたい写真が撮れないなら、それはもはや写真家ではないよね。良い写真が撮れるなら、怒鳴られようがなんだろうがいいね。
H:ちなみに怒鳴られたときの対象法は?
J:まずは彼らに笑顔を向ける。それから笑顔そのままで歩み寄る。そして僕の仕事を彼らに説明するんだ。でも最近は逃げる術が上達していて、撮ってただちに立ち去るって感じ。3メートルも歩いちゃえば、こんな人が多いニューヨークだと捕まえることできないからね。
H:まさにプライバシーの泥棒です(笑)。今日みたいに誰かの被写体になるのは好き?
J:うーん。今日みたいに計画の上で行う撮影はオッケーだよ。でももし君たちが何も訪ねず写真を撮るのであれば、やっぱり良い気はしないかも。
H:でもそれがジュリアンの路上での仕事(笑)。
J:その通り(笑)。
H:路上の魅力を教えて。
J:ストリートに出るって宝探しみたいなものだよ。ストリートの魅力って“予期せぬ”ものとの出会いだと思う。スタジオの中での撮影って被写体が決まっていて、撮るべく絵もすでに決まっているものだけど、ストリートにはそれが当てはまらない。自分の目と感覚、そしてカメラ。それだけあれば良い。「こんな写真を撮ろう」なんて考える必要がないのが僕の性に合ってるのかもね。とにかくシャッターを切るだけ、たくさん考えたくないし(笑)
H:“予期せぬ”、はワクワクするもんね。ジュリアンくんの写真を見てて、そんな予期せぬモノに出くわすことが他の人より多いと思うんだけど、その遭遇の秘訣ってあるの?
J:それは、ただ他の人よりも外にいて変な面白いモノを探してるからだと思う。実際できるだけ長くストリートにいることが良いストリートフォトを撮るために必須条件だしね。
H:これまで遭遇した中で一番クレイジーなものは?
J:植物におおわれた男がいたよ。でもそれもさほどクレイジーではないか。
H:ニューヨークですからね(笑)。
J:僕の写真も、クレイジーである必要はないよ。僕にしか見えない面白い視点でその偶然の出来事を撮ることを意識してる。
H:ちなみにジュリアンのお気に入りのストリートは?
J:ここブロードウェイだね。多くの人が行き来するストリートだからね。
H:チャイナタウンなんかフォトジェニックな人多そうだけど。
J:チャイナタウンもグッドなスポットだね。この辺りからチャイナタウンまで歩くことが多いよ。人が多いところに行けば、何かが起こるチャンスがグッと上がるからね。
H:路上を撮るために、他の国に行ったりも?
J:タンザニアとキューバだね。年末にはモロッコに行くよ。とってもエキサイティング。
H:日本の路上にもいつかお越し下さい。フリーランスで働くってことは不安定だと思うんだけど、将来のこと、不安になったりは?
J:もちろんあるよ。どんな写真が撮りたくて、逆にどんな写真が撮りたくないかっていうのが、はっきりしたのが1年半前なんだ。それがきっかけで路上写真家としてやっていこうと思ったんだよ。路上写真家がどうやってお金を稼ぐのかっていうと、結構不明瞭ではある。でも、まあ僕はそれで生きていきたいと思ったから、ただただ路上に出るだけ。
H:路上写真家として楽しいこと教えて。
J:単純に路上を歩くことが好きなんだ。何も考えずに路上を歩くことは僕にとって瞑想のようなモノだね。だから路上を歩くときはイヤフォンはつけないよ。
H:路上瞑想は僕も挑戦してみます。逆に困難なことといえば?
J:すべてに対して“YESマン”にならないようにすること。
H:と言うと?
J:たとえば、クライアントでも少しの対価で多くのモノを得ようとする人っているよね。そういう人を見定めてしっかりとNOと言える力が必要だと思うんだ。それって、とっても難しいよ。
H:話はぶっ飛びますが、ソウルフード教えて!
J:マカロニチーズ!好きすぎて週に何回も食べるよ。
H:アメリカ的模範解答ありがとうございます。ジュリアン特製マカロニチーズのレシピを特別に教えてくれます?
J:肉を使わないことかな。僕ビーガン(菜食主義者)なんだよ。
H:あれあれあれ?
J:ビーガン(菜食主義者)の家庭で育ったんだよ。大豆チーズを使うんだけど、このレシピは僕が好きなだけで、他の人はみんな気持ち悪いっていうから、ここではお伝えしません。
H:すごく気になるので、今度是非作って下さい。自由な時間は何して過ごすの?
J:ユーチューブはめっちゃ見るね。ある一人の男がプールの中に沈んでいる、ありとあらゆるものを見つけるシリーズがあるんだけど、それにめっちゃハマってる。あと、オンラインビジネスをはじめようと思ってるんだ。
H:ECですか?どんなオンラインビジネスなの?
J:ジュエリーの会社を作ろうと思って。
H:えっ? ジュリアンがジュエリー作るの?
J:その予定。いま試行錯誤してるところだよ。それからリバーと一緒にテレビドラマの脚本を作ってるよ。
H:おおー、楽しみにしてます。ストレス解消法は?
J:路上歩いて、写真を撮ることかな。
H:期待通りの解答ありがとうございます。では、恋と路上のバランスは上手くとれてる?
J:うーん、フリーの時間がたくさんあるから、多分上手いと思う。
H:ていうことは結構、女の子と遊んでるわけだ?
J:最近何もないかな。フリーランスだから、仕事次第だね。
H:そっちの話題も期待してます。もし写真家になってなかったら、何になってた?
J:そうだなー。人と働くことが好きだからね。でも飲食店では働きたくない。だって個人的にだけど飲食業界ってひどいと思うもん。
以前バンド活動してたから、もし写真家じゃなかったら、ロックスターかな。いまでもたまにレーコーディングエンジニアとして友だちのバンドのレコーディングをやってあげたりするよ。
H:なんでも屋さんですね。
J:モノづくりが好きなんだよ。その中でも写真はただシャッターを押すだけっていうところが好きだね。
H:もはや“青二才”とは言えないけど、元・青二才だからこその楽しみ教えて。
J:まだ僕はれっきとした青二才だよ。まだ何も果たせてない。
青二才ってまだ誰にも知られてないじゃん。それってものすごくいいことだと思うんだよ。なんでも好きなようにできるから。
H:青二才と一人前の違いってなんだと思う?
J:自分の取り組んでいることにどれだけ本気になれるかじゃないかな。責任もともなってくる。そこが青二才とプロフェッショナルの違いだと思う。
H:おっしゃる通りです。ジュリアンくんのようなストリートフォトグラファーになりたいこれからの青二才に一言お願いします。
J:ステップ1、まずは簡単なデジタルカメラを買う。カメラの使い方を覚えるんだよ。フィルムだと、どうしても現物をすぐに見ることができないからね。
ステップ2、自分の撮りたいもの、いわば撮っていてすごく幸せなものを見つける。もしそれが見つけられないなら、まず自分の好きな写真家の作品をそっくりそのまま真似してみること。次第に見つけられると思うよ。
ステップ3、自分の必要とする人にたくさん会えるような仕事場を見つけること。僕の場合はコーヒーショップだった。人に出会うことなくして、仕事は見つからないからね。
H:とてもしっかりしたアドバイスありがとうございます!僕らの世代である、ミレニアルズに関して何かコメントある?
J:僕はこの世代が大好きなんだよね。スマートフォンのおかげで、誰もが手元に高品質のカメラを携えている。みんなが写真を撮るってとても素敵なことじゃない? そして写真自体に興味を持っている人が増えたと思う。
H:そして、見せる場も同時にある。
J:イエス。SNSのおかげで15年前のストリートフォトグラファーと、まったく別物だと思う。たくさんの人が僕の路上写真を、スマートフォンで簡単に見れちゃう。そして、メディアを通してフィードバックが得られる。写真を見せる機会が写真展・写真集だけじゃなくなった。
H:簡単になって誰にでもできちゃうようになったことで、作品が埋もれやすくなった、というのはない?
J:確かにそれもあるね。ニューヨークのストリートフォトって、ここまでスマートフォンが浸透した以上、数え切れないほどにある。でもそれって、逆に僕にとっては好都合だと思うんだ。
H:なぜ?
J:僕の視点で切り取るストリートフォトはそれらの写真とは一線を画すと思っていて。だからこそより注目されていると思うんだよね。これで説明できたかな(笑)?
とりあえずSNS・スマートフォンの登場によってみんなが「撮る」「見せる」ようになったこと、僕は大歓迎だね。
H:ストリートフォトグラファー・ジュリアン・マスターの将来像は?
J:この先の未来もここニューヨークにいたいね。もちろん他の国にも住んでみたいだけど、いつも外に出るとニューヨークが恋しくなるんだ。
あとは「究極のその1枚」を撮りたいね。ジュリアン・マスターといえばっていう1枚。まだその1枚には出会ってないよ。
H:最後の質問です。ストリートフォトグラファーとしての哲学とは?
J:ストリートフォトグラファーとしてのジュリアンと、いち人間としてのジュリアンでは哲学が違うんだ。
いち人間としてのジュリアンの哲学は熱心に仕事に励んで、すべての人に優しくなること。そうすれば人生はとっても豊かなものになると思う。
ストリートフォトグラファーとしては、とりあえずたくさん路上に出て、たくさん写真を撮ること。やっぱりただそれだけだね。
Aonisai 004: Julian
1991年生まれ。FujiFilm X World Photography Contest in 2015入賞。
ストリートフォトグラファーとして活躍する一方で、Viceなどの媒体に写真提供を行う。
Instagram
——
—–
Photos by Kohei Kawashima
Text by Shimpei Nakagawa Edited by HEAPS