テック界のエキスパートらが農業に参入。裏づけられた「アーバン・ファーミング」の必要性と可能性

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米国を代表するテック界のエキスパートたちが次に着手したのは、意外にも、アーバン・ファーミング(都市農業)だった。

「2050年までに地球の人口はさらに20億人以上増えて、90億人を越えると予測される。そして、そのうちの70パーセントが都市部に住むようになるといわれている。そうなった時、一体、どれだけの人たちが “リアルフード” にありつけるのか」

地球の食糧問題を解決する糸口となるか。彼らが提唱する「リアルフード革命」とは?

ピンク漏れ出すコンテナ。近未来感ただようアーバン・ファーム

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 ブルックリンにある駐車場の一角に、アーバンファームがインストールされたのは、2016年の秋のこと。都会で農業と聞いて「またどこかの空き地を耕してコミュニティファームでもはじめたのかな」と思いきや、訪ねてみてビックリ。
 コンクリートの上にあるのは「土」ではなく「貨物用コンテナ」。「Square Roots(スクエア・ルーツ)」とかかれたそのコンテナを開けると、中にはピンク色のLEDの光が充満し、レタスやほうれん草などの葉野菜やハーブたちがすくすくと育っている…。

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 ここで行われているのは、都市型農業「ヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)」。それ自体は決して新しい農法ではないが、広大な農地を有さずとも、限られた敷地、かつ室内で農業を行うことができるため、拡大する都市人口の食を支えられる「未来のための農法」として期待を集めている。やっていることは「水耕栽培」とほぼ同じで、土を使わずに水と養液(有機溶剤)をあたえ、温室で植物を育てる、というもの。土を使わないので農薬や殺虫剤は不要。水は再利用することで、通常の農業に比べて大幅に減らすことができる。
 
 効率性はテクノロジーをうまく取り入れて下支え。食べ物の味や歯ごたえなどにも影響する、室内の酸素レベルから湿度や温度、専用のLEDの量までコンピューターパネルで調整できるので、天候に左右されることがなく恒常的な収穫が期待できる。

コンテナ1台(40フィート型コンテナ、長さ12m)で「年間5万玉のミニレタスの生産が見込め、それは畑2エーカー分(8094㎡。400m陸上トラック内くらい)の生産量に匹敵する」という。

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テック界のエキスパート「農業に貢献したくなった」

 ところで、こんな斬新な都市農業を考えたのは、いったい誰なのか? 創業者は、ホリエモンこと堀江貴文氏が大絶賛するあの天才起業家イーロン・マスクの弟、キンバル・マスク(Kimbal Musk)とトビアス・ペグス(Tobias Peggs)。二人とも米国を代表するテック界のエキスパートだ。二人は約10年ほど前に、スタートアップ企業(のちにWalmartとAdobeに売却)で出会い意気投合した、という。

 余談だが、二人が農業の分野へ参入することを決めたきっかけは、キンバルの突然のスキー事故。首を骨折し数ヶ月入院し「やっぱり体が資本」と気づいたそうだ。
「カラダを作る食べ物は、生きていく上でとても大切。今後はこの分野への貢献に注力していこう」と開眼したキンバルにトビアスが心を同じくした、という。

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ただのトレンド農業ではない。見越す「10年先」のプラン

 彼らの提唱する「# Real Food(リアルフード)」とは、地元近郊で採れた無農薬で遺伝子組換え(GMO)をしていない、環境負荷が少ない安全な食べ物を意味する。

 アメリカ疾病予防管理センター(CDChttps://www.cdc.gov/)の調べによれば、毎年おおよそ6人に1人ものアメリカ人が「汚染食品」で健康を損なっている。「リアルフード革命」により目指すのは、誰もがリアルフードにアクセスできる未来。そのために不可欠なのが「ミレニアル世代の都市農業参画を推進すること」だという。

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  革命、というだけあり、「ブルックリンで若者が楽しく新しい農業をやっていますよ」、というだけの話ではない。スクエアルーツとは「若手の都市農業アントレプレナーの育成プログラム」であり、このブルックリンの駐車場を皮切りに、都市農業アントレプレナーを輩出していくことを目指す。

 同プログラムでは、都市農業のやり方だけでなく、マーケティングやブランディングなど、農業をビジネスとしてどう成長させるかというノウハウも含まれる。それだけに、初回公募には10名の枠に対し500名以上が殺到したそうだ。選ばれた10人は「農業未経験者も少なくなく、必ずしも高学歴ではない」というのもおもしろい。

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 スクエアルーツで育ったアントレプレナーたちは、やがて政府や団体から融資を受けてリアルフード・ビジネスに携わっていく(そして、収益の何パーセントかが、インキュベーターであるスクエア・ルーツに入る)という計画で2020年までに20都市への拡大を予定しているという。 
 
 効率的でエコで、安定生産が期待できて、しかもおいしい。良いことづくめで、みんなハッピーかと思いきや、やはり新しい概念ゆえに懐疑的な層もいるそうだ。「古代から、野菜や果物は土で育ってきた。それを水と養液とLEDで育てるなんて不自然極まりない」。
 そんな時「スタートアップの世界で積み重ねてきた経験が役立っている。誰もが不可能だと思うことを、可能にする作業の連続でしたから」とトビアス氏。

 アップルの創設者、スティーブ・ジョブズが起こした革命も「自宅の小さなガレージからはじまった」と言われている。スクエア・ルーツが目指す「リアルフード革命」が、「実はね、ブルックリンの駐車場の一角で10台の中古コンテナからはじまったんだよ」と、語られるようになる日は、そう遠くないかもしれない。


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Square Roots

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Photos via Square Roots
Text by Chiyo Yamauchi
Edit: HEAPS Magazine

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