“スローフード”、“オーガニック”といった言葉を日常的に聞くようになって数年。オーガニックレストランがあちこちにオープンし、スーパーマーケットの有機野菜コーナーはにぎやか、これまで添加物・人工甘味料たっぷりな加工食品に頼るアメリカ人の食生活に革命的な変化が起こっている。
ただし、その食生活の革命の恩恵に預かったのは中流階級以上だけというのは忘れられがちだ。ミネラルウォーターよりもどぎつい色のソーダが安く、野菜よりもピザ・スライスが安い。貧困・犯罪がはびこるエリアでは、オーガニックなど夢物語だ。
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まさにドンピシャの例が、カリフォルニア州サンフランシスコ近郊の都市、オークランド。全米上位の失業率・犯罪率の高さを誇り、無論そんな街に美しいオーガニックなど似合うはずもなく。立ち並ぶのはファストフード店、オーガニックのオの字も関係のない地区である。
そんな荒廃のエリアでコミュニティを変えようと5年前に立ち上がったのは、「Planting Justice(プランティング・ジャスティス)」。農業からコミュニティを変えようとしている。
Image via Planting Justice
プランティング・ジャスティスのスローガンは、「Grow Food, Grow Job, Grow Community(花開け、食文化・雇用・コミュニティ)」。
「低所得者コミュニティに新鮮で栄養価の高い食物を」という目標に加え、黒人男性のおよそ半数が失業者で元受刑者の8割が失業者というエリアで、「元受刑者を更生させ雇用機会を与えよう」とこれまで250以上の菜園を元受刑者たちとともに作り上げてきた。
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そのプランティング・ジャスティスが現在進めているプロジェクトが、大型農業複合センターの設立。
昨年購入した苗床にある1,100種類のオーガニック樹木をセンターの農園に移植し、さらにアクアポニックスを導入することで、古来の農業方法で使用される水のわずか10%の量で栽培できるシステムにする予定だ。
*アクアポニックスとは :水産養殖(魚の養殖)と水耕栽培(土を使わずに水で栽培する農業)を掛け合わせた、新しい農業。魚と植物を1つのシステムで一緒に育てるシステム。魚の排出物を微生物が分解し、植物がそれを栄養として吸収、浄化された水が再び魚の水槽へと戻る、地球にやさしい循環型農業。
収穫した野菜や果物をその日に生産者の手で販売する直売所を設け、健康にいい食材をコミュニティへ届けることができる。
さらに、農業訓練所も併設。元受刑者やコミュニティの若者たちが訓練費用なしで、給料をもらいながら農業のノウハウを一から学ぶことができるというシステムだ。
Image via Planting Justice
貧困・犯罪と隣り合わせにあるコミュニティにもっとも程遠かった健康的で安全な食を、社会更生の真っ只中にいる者たちの手で作り上げる。
カリフォルニアの治安最悪な街で、安全な食と元受刑者によってコミュニティが少しずつ変わろうとしているのだ。
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Text by HEAPS, editorial assistant: Shimpei Nakagawa