海賊盤で育ちWeChatで配信、21世紀中国音楽キッズの計画:〈シノ・シーン〉で中国独自のカルチャーを起こす

遡ること1年ほど前。本誌連載「ベルリンの壁をすり抜けた音楽密輸人」のマーク・リーダーとやりとりしていたとき、こんなメッセージを受け取った。「いま中国にいる。あるバンドのプロデュースをしているんだけど、彼らは中国音楽シーンを変えていくような気がする」

いかんせん中国のインディーズシーンというのは謎だ。謎を解明するには当事者に聞くのが最良であるので、マークに現在の状況を分析してもらいつつ、2010年代に独自の音楽シーンを切り拓こうとしているその若手インディーズバンドに事情を聞いてみることにした。

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音楽密輸人の秘蔵っ子、新しい中国サウンドのパイオニア「ストールン」

 そのバンドというのが、中国四川省の省都・成都(せいと)を拠点にするインディーズバンド「Stolen(ストールン:秘密行动)」だ。2011年の結成から7年、新作『Fragment(フラグメント)』ではマークをプロデューサーに指名し、成都にある彼らのホームスタジオとベルリンのスタジオでレコーディングした。「ワーキングクラス出身の地に足のついた若造たち」で「中国の新世代を引っ張るサウンドの作り手」とマークが表現するストールン、どんなものかと実際に曲を聴いてみたらあまりのダークでバキバキのテクノ・ロックサウンドに度肝を抜かれてしまった。

 世界がインターネットという情報網を日々密に広げていくなか、政府の規制で情報の自由が制限される国・中国で、この新しいサウンドはどうやってできたのだろうか? 純粋な疑問の答えと、マークが見た中国の新世代のインディーズシーンの実情を求め、ストールンのフロントマンでボーカル、リャン・イーに取材。ティーン期、“中国らしい”方法で聴いた西の音楽や、地元のごた混ぜ音楽シーン、保守的な国で新しいサウンドをつくることなどについて、とても謙虚にとても正直に話してくれた。

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ストールンのフロントマンでボーカル、リャン・イー。

  
HEAPS(以下、H):写真を見る限り、バンドメンバー、みんな若そうですね。

Liang Yi(以下、L):平均年齢24歳だよ。

H:ということは、音楽世代でいうと2000年代なわけか。ティーンの頃はどんな音楽を聴いていましたか?

L:ほんとに小さい頃は、香港や台湾のポップスを聴いていて、だんだんUS、UKロック、特にオルタナティブロックを聴くようになった。周りはテレビで流れているようなメインストリームの商業ポップを聴いている子がほとんどだったけどね。

H:だからか、ストールンの音楽性ってそれこそクラフトワークやジョイ・ディヴィジョン、ニューオーダー、ナイン・インチ・ネイルズなど欧米のバンドに共通すると思っていました。政府による抑圧がある環境で、どうやってロックを? 

L:確かにロックを聴くのは簡単じゃなかったけど、中国では“独自の方法”で出回っていたんだ。たとえば、空港の税関で没収された傷だらけのCDやカセットなんかを密売する人たちがいたり。すべて海賊盤だったと思う。そういうCDのことを僕らは、“壊れかけのディスク”と呼んでいた。

H:キケンな匂いがプンプンします。

L:はじめて買ったレコードはポーティスヘッド(英エレクトロニカバンド)。彼らのドラマチックでダークなスタイルはストールンにも影響をあたえたと言える。あとは、ぼくのギターの先生がブリティッシュブルースやハードロック、ニュー・メタル、ポストパンクやトリップホップなどを教えてくれた。その中で、ポーティスヘッドとジョイ・ディヴィジョンだけに溺れていったんだ。エモーショナルでダーク、鬱っぽくて、不完全で、制御できないほどに美しい音。幼い頃に耳に入っていたハッピーなポップとは真逆だった。

H:その先生は、恩師ですね。

L:そうこうしているうちに、中国にもデジタル時代がやってきてね。MP3やネットで音楽を聴くのが主流になって、新しい音楽もネットから知るようになった。まだその時はネット規制もはじまったばかりで未完全だったから、世界中のいろんなロックにアクセスできたんだ。まあ、規制がきつくなってからも、ファンはあの手この手をつかって、違法サイトからダウンロードしたりするんだよね。音楽業界に身を置くいまとなっては、違法ダウンロードという行為の重みについて理解しているけど、ティーンのころはそれが一番早く安くいろんな音楽を聴ける方法だったからさ。

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H:そうやって賢くロックを入手していた者たちが中国独自のロックを作ったり? 

L:1996年に中国初のパンクバンドが武漢で生まれてから10年しか経っていない、と中国産ロックの歴史は浅かった。ロックを聴くのは少数派だったし、中国社会にとってロックは、退廃的で謎でネガティブな西洋の影響だったから。デスメタルみたいなサタニックなイメージ=ロックだとみんな思ってたんだろうね。アメリカやイギリスのバンドを模倣した、メタルやハードロック、パンクバンドはいたけど。当時、地元の成都にもライブハウスは少なかったし、当然アングラシーンてものは存在していなかった。はじめて行ったロックコンサートは、高校二年のときだった。

H:じゃあ、エレクトロニックミュージックなんかは?

L:エレクトロは出回っていなかったし、僕らみたいな郊外キッズたちは、エレクトロという音楽の存在さえ知らなかった。でも、その後、ドイツの電子音楽集団・クラフトワークの音楽に出会ったんだ。“エレクトロニックミュージックのパイオニア”として世界的に有名だけど、その時は知らなくて。人生ではじめて聴くタイプの音楽だったね。でもなぜかどこかで聴いたことがあるような音でもあった。彼らの歌詞を読んだら、人間不在の未来を舞台に血の通っていないロボットのこととかで。預言者みたいな人たちだなと思った! 彼らが香港でコンサートをすると聞いて、どうしても観たかった僕らは、要らないものを売ってお金を作って、それでも足りないから家族や友達から借りて観に行ったんだ。

「“ちゃんとした職”につけというプレッシャーはある。でも、僕らの音楽で踊るオーディエンスを見ると、その気持ちは消える」

H:クラフトワークに心酔した高校生たちが、ストールンを結成。

L:結成当時、学生バンドだった僕らは、好きなバンドに似せたサウンドや子どもじみた曲ばかり作っていたよ。次第に、そこから自分たちのオリジナルを作ろうと違うアプローチをとった。ストールンは、音楽の知識が広がっていくとともに徐々にできあがったバンドなんだ。活動していくなかで、中国で僕らみたいにエレクトロ・ロックをやっているバンドはいない、と気づいた。

H:最近だとコンピューター制作のエレクトロやテクノバンドはわんさか出現してきているけど、ストールンはそれだけではなくて、ギターも絡めたロックを奏でている。ここが独特だと思います。

L:そうだね。電子楽器や音楽ソフトウェアが手に入りやすくなって、中国でもエレクトロシーンが発展している。もっと多くのバンドがエレクトロを実験的に探求していると進化途中だね。音楽制作に打ち込む女の子も増えてきているし。テクノの可能性は常に広がっていっていると感じるよ。

音楽制作では、ぼくがアイデアを考案して音楽の方向性を作る。シンセサイザープレイヤーがレコーディングなどのテクニカル担当で、ドラマー、ベーシスト、ギタリストは演奏に徹する。みんなが納得するまで調整していくんだ。

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H:歌詞が英語なのにはなにか意味が?

L:最初は中国語のみで書いていたんだけど、後になって中国にもいろんな方言があるじゃんと思って。それに国外の幅広いオーディエンスにも届いてほしいから、英語にした。ぼくの英語はまだまだなんだけどね。マークはぼくの英語を“イングリシーズ(イングリッシュとチャイニーズの造語)”と冗談で呼ぶんだ。マークも英語に関してはいろいろヘルプしてくれてる。

H:(笑)。マーク、ちょっと冗談キツい。バンドのヴィジュアルイメージについても聞いてみたいのですが。ストールンのテーマカラーってダークな黒ですよね。黒って、中国の伝統ではネガティブな色ですよね、確か。

L:中国文化の「黒=ネガティブ」って、古い信仰からじゃないかな。黒=夜=恐れのような。夜を恐れてほしくはないな。夜は外に出て遊ばなきゃ! 黒を着る人がネガティブなわけじゃない。僕らはただ黒が好き。安心するし深みを感じるんだ。

H:中国という音楽的には保守的な土地で、このような新しい“黒い”イメージづくりや新しいサウンドを作るって大変じゃなかった?

L:一番大変だったのは、やっぱり伝統的な考えをもつ社会からのプレッシャー。プロとしてバンドのキャリアを築くというのは中国ではとても異例なことだから。未だにミュージシャンやアーティストは“ビジネス”とは捉えられていない。この考えは変わるとは思うけどね。

僕らはワーキングクラス出身で、いまでも週3のアルバイトは辞められない。毎日スタジオ通いで、夜遅くに家に帰ってくる。家族や友だちから「“ちゃんとした職”につけ」というプレッシャーを感じることはある。でも、ライブで僕らの音楽で楽しそうに踊っているオーディエンスを見ると、充実感でプレッシャーは消えていくんだ。正しいことをしてるって実感もあるしね! 

H:オーディエンスも若い子が多いんですか?

L:そうだね、ロックやエレクトロが好きな若い子たちがメイン。駆け出しの頃からサポートしてくれている子もいる。ストールンの音楽はシンガロングするタイプじゃない。ライブの最初から最後まで狂ったように踊ってくれることが、オーディエンスの僕らの音楽に対する“感想”。最近、どんどん若い子たちが来てくれている。たぶん、僕らにどこか通ずるものを感じてくれているのかもね…。こんなこと言うの、ちょっと照れるな。

H:謙虚(!)。反対に、親世代ってストールンのことや他のインディーズバンドのことをどう思っているかが気になる。

L:親世代が若い頃は、音楽というものは生活のメインではなかった。中国が貧困国だったという時代背景によるものだと思うんだけど、日々重要なことは、充分なご飯があるかどうか、冬に着る暖かい服があるかだった。だから親たちは、音楽の価値をどう理解してたのしんだらいいかわからないと思うんだ。親に僕らの音楽を聞かせてみても、なにも意見をいわない。ほんとうにどう評価したらいいかわからないんだよね。でも僕らが音楽活動に一生懸命打ち込んでいる姿をみて、感心して応援はしてくれるけど。

H:確かに忌み嫌うというより、純粋に“わからない”のかもしれませんね。そういう大人もいる社会で、ファンを拡大するためにどのようなことをしていますか。

L:ライブ会場やイベントオーガナイザーに積極的にアプローチすることで、ライブをする機会を作ろうとしている。いま思い返すとちょっと笑っちゃうけど、昔はバンドバトルなどもやった。初ライブ後、いいライブだったとで口コミで僕らの名前が広まて、その後ライブの機会も増えたよ。

最初の頃は、ライブ機材のセットアップを手伝ってくれるプロも周りにいなかった。あとは残念なことだけど、ベテランの年上ミュージシャンのなかには、音楽業界に新規参入してくるバンドに対して上から目線の気取った態度をとってくる人も未だにいると思う。彼らはきっと新しいタレントたちに脅威や敵意を感じているんだろうね。

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商業ポップを聴いたあとロックバンドを観て、そのあと深夜テクノ
ごちゃまぜの街が育む“自作の音楽シーン”

H:マークも、ストールンや同じ地元のガールズバンド、ザ・ホルモンズは“中国の新しいサウンド”を切り拓いていると言っているけど、7年前にバンドを結成してから中国のインディーシーンはどう変わりつつありますか?

L:僕らがバンドを結成した頃は、ステージで演奏する機会もなかったし、ミュージシャンに対する敬意も人々からあまり感じられなかった。でもいまは、もっと多くの人たちが真剣に音楽活動に身を捧げて、プロモーションしている感じはある。これはうれしいことだね。

H:ストールンの地元、成都でも?

L:成都の音楽シーンもまだまだ初期段階だけど、確実に急速に発展している。土地の気質としては、オープンで寛容だから、ちょっといろいろなテイストがごちゃ混ぜかも。メインストリームポップを聴いたあと、ロックバンドを観て、そのあとテクノで夜を踊り明かすこともできる。実際、元銀行の高層ビルがあって、全フロアがクラブになっていたりね。各階がポップからカラオケ、テクノなどにわかれていて。

H:一夜で盛りだくさん。人気なのはまだまだ商業ポップ?

うん、大半の若者はまだ商業ポップを聴いていると思うけど、パンクシーンもあるし。もっと重要なのは「オルタナティブ・テクノロックシーン」が成長中なこと。エレクトロニック、アンビエント、ダークウェーブ、ロック、テクノが融合したね。トレンドを単にコピーすることはしない若者たちの小さなエレクトロ・ロックグループが、地元産の音楽を作っている。マークは、成都が“古臭い音楽シーンを解放した”マンチェスターに似てると言ったんだ。ザ・ホルモンズは僕らのいい友だちでもあるんだけど、彼女たちも実験的だよね。過去にはこういう自分たちの手でつくった音楽シーンはなかったから。もっと多くの人たちが、北京や上海など伝統音楽が根づく都市とは異なる成都の特質性に気づきはじめている。

H:最近の中国の音楽キッズたちはもっぱらWeChatで音楽を消費しているとマークから聞きましたが。ストールンは国外にも視野を広げているから、どのようにインターナショナルにプロモーションできるのかと思って。

L:WeChatでリンクをシェアして音楽を共有しているよ。ユーチューブなどのプラットフォームはないけど、WeChatで同じようなことはできる。音楽やファッションのテイストをシェアするには一番大切で手っ取り早い方法かな。
WeChatのプロフィール以外に、オフィシャルフェイスブックとインスタグラムアカウントはあるけど、スタジオと家の往復生活の毎日で、音楽以外にはポストすることもないし、ぼくは長けたSNSユーザーじゃないから。もちろん、SNSを使ってもっと多くのファンにリーチしてフォローしてほしいけど、ソーシャルメディアは正直、ちょっと怖いし、困惑してしまう。

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H:デジタル世代も悩みますね。自分たちが新しいサウンドの先駆者だという自覚はある?

L:「謙虚」に重きをおく中国人からしたら、答えるのが難しい質問だね(笑)。自分たちのことを先駆者なんて言えないかな、リスナーからは言われるけど。他の中国のバンドとは違うサウンドということは言えるから、そういう意味では“先駆者”なのかもしれないけど、僕らはとやかく言う立場じゃないよ。

H:やはり謙虚だ…。今後ストールンは中国の新しいインディーシーンでどんな存在になりたいですか?どのように文化や社会に影響を与えたい、というか。

L:音楽と音楽に対する姿勢で、なにかしら若いミュージシャンに影響を与えられたらいい。中国は、まだ発展途中の国。成長過程にある社会で創造的になるためにも、物質主義や真似ごとに走らないでと言いたいね。人生はデザイナー服と地位だけに成り立っているわけじゃないから。いまの若者は親や祖父母世代と比べてぜんぜん違う欲求をもっているし、中国オリジナルの音楽シーンが確立する可能性は大いにある。本当に僕らが社会を変えられるかどうかは正直言ってわからないけど、ストールンは新しい社会の生活を反映した音楽スタイルを作ることで、独自の新しいカルチャーをプロモートしているんだ。現代中国を体現する“サウンドトラック”、
“sinographic〔sino(中国の)とgraphic(視覚的な表現)〕”
をね。

Interview with Liang Yi from Stolen

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All images via Mark Reeder
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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