コアファンやアングラでなく「大衆のための電子音楽」男女ダンス禁止の“エレクトロ後進国”、シーンの実態
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エレクトロニックミュージックのメッカと聞いて連想するのは、スペイン・イビサ島のクラブにロンドンのレイヴ、ベルリンの低音テクノ。いずれも数十年前からシーンが発展していた“エレクトロ先進国”だ。しかし2017年のいま、エレクトロ“後進国”で、先進国にはなかった独特のエレクトロニックミュージックが誕生している

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Photo by Malthe Ivarsson

シーン皆無の“エレクトロ後進国”中東に、電子音楽の電流

「エレクトロニックミュージック」は広義な言葉だ。一口に言ってもさまざまなジャンルがある。たとえば、80年代デトロイトやマンチェスター、ベルリンでバキバキいっていた“クラブミュージックの根源”テクノにアシッドハウス、ニューヨークのダンスミュージック、シンセサイザーとファンクが融合したエレクトロ、シンセポップ、日本でも一時大流行したトランス、現代版レイヴ・EDM。そして現在、いままでエレクトロ*シーンになかった大きな変化が起きているエレクトロ後進国、中東イランの首都テヘランにそのシーンが形成されはじめてきたのだ

「12年前にはシーンすらなかったのですが、5年前に故郷に帰った際には若いエレクトロミュージシャンたちに出会うことができました」と話すのはイラン人エレクトロミュージシャンのSote(ソテ、45歳)。“エクスペリメンタル・エレクトロニックミュージック”の第一人者として知られている。「“エクスペリメンタル(実験的)”は、ルールや方式がないフリースタイルの電子音楽。ノイズがあってもいい、自由な形式です」。西洋音楽が統制されエレクトロシーンが皆無だった地に、未知なる音の電流が流れようとしている

*以下文章で記載する「エレクトロ」は、「エレクトロミュージックシーン」の総称として用い、1982年から85年に流行したシンセサイザーとファンクが融合した電子音楽の一ジャンルのことを指してはいない。

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Photo by Sadaf Azadehfar
エレクトロミュージシャンのソテ

“男女のダンス禁止”、ダンスミュージック後進国

男女が公の場で一緒にダンスをすることは禁止」「女性歌手が単独パフォーマンスすることも禁止」。フェスでは男女が組んず解れつ踊りまくり、女性シンガーがスタジアムのステージを駆け回る音楽先進国とは180度違う、イランの音楽シーンの現状だ。

 事の発端は1978・79年に勃発したイラン革命。王朝は倒されイラン・イスラム共和国が成立、欧米の音楽は淘汰され、革命以前に花咲いたロック、ポップス、ディスコの音は消えた。革命から40年もの月日が流れたいま、「ロックなどは“禁止”されてはいない。ラジオでイラン以外の音楽も聴くことができる」らしいが、公式には認められているかと言われればグレー。2010年に公開されたイラン映画『ペルシャ猫を誰も知らない』では、インディーロックを愛する若者たちが逮捕されながらも政府の目をかいくぐり音楽活動を続ける姿が描かれた。

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「(電子音楽に不可欠な)シンセサイザーを売る楽器店も見つけるのが難しい状況です」。クラブやディスコもない。コンサートにはきまって座席が設置され、座って大人しく音楽に耳を傾ける。となると反動で当然のようにアングラレイブに違法ライブもあるというが、イラン電子音楽の第一人者ソテ、「決してアングラではなく、マイペースにエレクトロを大衆に普及していきたい」という。ダンスミュージック後進国で届けたい電子音楽は、いわゆるEDMのようなダンスミュージックとは別物だ。

SET Festival 2017 Sote-Siavash Amini-Arash Akbari
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Photo by Malthe Ivarsson

清掃員も躍らせる。テヘラン産“クラフト”電子音楽

 ソテらがつくる電子音楽はアンビエント、ノイズ、ドローン*など実験的で、イラン伝統楽器を用いることもある。また伝説のイラン人モダンクラシカル作曲家、アリレザ・マシュアイェヒともコラボレーションするなど、単なる流行りのエレクトロとは線引き。

*単音で変化のない長い音のことで電子音楽の一種。

 イラン生まれのソテだがミュージシャンとしての活動拠点はドイツやアメリカ。12年前に里帰りしたときは、保守的な政治体制による文化統制も強化。公共スペースでのライブには演奏許可がいるなど、音楽文化が政府のコントロール下にあった。エレクトロシーンは存在しなかった。しかし5年前の帰国では一転、20、30代のエレクトロミュージシャンが登場、彼らと首都テヘランでフェスを開催することになったのだ。「若手ミュージシャンたちが電子音楽の歴史や作曲テクニック、スタイルについて熟知し、音楽活動にも真剣に打ちこんでいることに驚きました。十数年前にベッドルームで音楽を聴いてきた世代が大人になり、パソコンの普及でエレクトロも簡単に耳にすることができる。タイミングがよかったのだと思います」

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Photo by Sadaf
Sote at Jazzhouse_Sacred Horror In Design_photo by Malthe Ivarsson

 

 ソテたちのフェスの開催場所は劇場やギャラリー、コーヒーショップなどパブリックのアクセスが利くスペース。2年前、街の劇場で開催したフェスには、老若男女、職種もアーティストから科学者までが足を運んだ。「クレイジーな電子音楽のサウンドやアバンギャルドミュージックに興味がないような層も来場し、音楽を気に入ってくれました。たとえば、いつもならショーがはじまると立ち去る清掃員とか。ある清掃員は、後日、友だちを連れて再来場してくれたんです

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Photo by Stefanie Kulisch

アングラカルチャーにしたくない。“Music for Masses(大衆のための音楽)”

 ドラッグカルチャーに付随してのレイヴがマンチェスターに、壁崩壊に解放されたテクノがベルリンにあった。テヘランのエレクトロはどこに“イランらしさ”があるのか。「まだまだ若いシーンなので、他都市と比べるには早い。ただ若いだけに、プレッシャーのような変な期待や凝り固まったエレクトロの固定ファン層もいない」。フェスではパフォーマンスだけでなくワークショップやレクチャー、さらにベルリンのアート/音楽フェス「CTM」とコラボし、テヘランとベルリンのアーティストたちが互いの地でプレイするなど、エレクトロ先進国からも熱量を拝借。「電子音楽をアングラカルチャーにしたり、短命なブームにはしたくありません。コンサートには若者からおばあちゃん世代までもが来れるように、ゆっくり時間をかけてシーンを作りあげたいです」。量産型や一過性でない電子音楽を育てたい。“クラフト・エレクトロ”といったところか。

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Photo by Sadaf

 ソテが影響を受けたバンドに「デペッシュ・モード」がいる。80年代からUKニューウェーブ/エレクトロをグラマラスに奏でるいまやスタジアム級バンドだが、世界的ブレイクのきっかけにもなったアルバム名が『Music for the Masses(大衆のための音楽)』だった。皮肉的につけた“大衆のため”が、結果的に世界でヒット、アメリカでの成功やエレクトロがマスに広まるきっかけにもなった。一方でソテらが広げようとするテヘラン産エレクトロは、真摯に正直に大衆へと向けられている。尖らず焦らずマイペースな電子音楽だ。

Interview with Sote

SET Festival 2017 Sote

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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