大衆広告にも浸透する“フェミニズム”。企業が打ち出す「フェムバタイジング #femvertising」戦略って?

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最近だと、エマ・ワトソンの下乳騒ぎ。90年代まで遡れば、パンクガールズたちのライオットガールムーブメント。涙と汗(時には血)を流しながら、女性の権利、イメージ、在り方について主張してきたフェミニズム。政治集会にアート作品から、近年ではお茶の間やバーの会話レベルまでフェミニズムが論じられている。

近年話題の「フェムバタイジング」は、聞いたことあるだろうか?

“フェムバタイジング(femvertising)”。フェミニズム(Feminism)と広告(advertising)を掛け合わせた造語、つまるところ“フェミニズムな広告”と言うわけだ。知らず知らずのうちに見かけていたあの広告も、フェムバタイジングかもしれない

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Image via Mingwei Li

ダヴ「ほんとうのあなたは、想像以上に美しい」

“ビールの広告=グラマラスな水着ねーちゃん”のような、女性を目をひくモノ(特に男性の)として扱う広告に対して「いや、おかしいでしょうよ」と疑問を呈す広告がフェムバタイズだ。コンセプト*は、「『男だから、強く』『女だから、控えめに』など、性別に対して社会がもつ固定概念に挑戦。女性を鼓舞するようなメッセージやイメージを内包した女性ターゲットの広告」だという。

*2014年に女性ライフスタイルメディア『SheKnows Media(シーノウズ・メディア)』による。

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Image via Bambo
セクシー美女を起用する従来のビール広告

 フェムバタイジングの先駆者ともいえるのが、ボディソープでもおなじみの「Dove(ダヴ)」だ。10年以上にわたって、女性を鼓舞する広告を打ち出す「リアル・ビューティー・キャンペーン」を展開。人種もボディシェイプも(胸の大きさも)バラバラな下着女性たちが並ぶ広告や、“自分の想像する顔”と“他人が描写する自分の顔”を比べる動画を制作したことでも話題になった。他人の目に映る顔の方が自分の思う顔より美しく仕上がったことに感動する、というのが同動画のクライマックスで、彼女たちへのメッセージは「You are more beautiful than you think(ほんとうのあなたは想像以上に美しい)」だった。フェムバタイジングのお手本ともいえるこの広告動画、再生回数は1億5,000万回以上にものぼった。

生理用品メーカーも男性向け雑誌も「#femvertising」

 上で例にあげたダヴのようなボディイメージから攻める広告もある一方で、あらゆる産業分野の企業が独自のカラーとセンス、ユニークな切り口でさまざまな広告を制作している。

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Image via Corinne Kutz

生理用品大手メーカー:走り方ひとつでジェンダーイメージを斬る
この動画は見たことのある人が多いかも。フェムバタイジングに贈る賞「#Femvertising Awards(フェムバタイジング・アワード)」受賞作。“女の子”の動作やイメージがいかに固定観念としてみんなに植えつけられているかを思い知らされる生理用品大手メーカー「Always(オールウェイズ)」の動画。思春期女性や、成人男性、少年、少女に「女の子のように走って」「女の子のようにボールを投げて」と指示、どのようなアクションをするのかを捉えたもの。思春期女性や成人男性、少年は意図的に不自然で弱々しい“女の子の走り方”を真似する一方で、少女たちだけが全力疾走に全力投球するのだ。

男性向け大衆スポーツ雑誌:水も滴るプラスサイズ水着モデル
水着美女が表紙を飾ることでも人気を博す老舗スポーツ雑誌「Sports Illustrated(スポーツ・イラストレイテッド)」は、自社PR動画にタルついたお腹丸出しの水着モデルを起用。同誌が掲げる女性イメージ像を覆すものとなった。

大手通信会社:理系女子の芽を摘まないで
大手通信会社の動画に登場する女の子は、小さな頃から自然や動物、科学が好き。惑星の模型を作ったりお兄ちゃんとミニロケットを工作したりするのだが、両親から掛けられる言葉は、「お洋服汚しちゃダメよ」「危ないからお兄ちゃんにやってもらいなさい」。科学が好きな女の子は多くても実際に将来サイエンス分野に進むのは一握り。小さい頃から「サイエンスは男のするもの」ということを植えつけてはダメだと静かに警告している。

 これらの広告の効果はてきめん。実際、昨年4000人の男女を対象に行ったフェムバタイズメントについての調査では、約半数の人が「広告内の女性描写に好感が持てたことを理由に、商品を購入した」と回答。それに加え、「広告は社会が持つ女性観に対して影響を及ぼす」と回答した男性は90パーセント(女性は96パーセント)にのぼった。フェミニズム広告は女性がターゲットといえど、男性にもそのメッセージはきちんと届いているのである。

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Image via freestocks.org

フェムバタイジングは「フェミニズム民主化」を促進する

 筆者(男)はフェムバタイジングに対して基本的に好感を抱く。受賞した広告作品は、販促という広告本来の目的があることを加味したとしても、男女ともに嫌な感じはしないうえに、「女性とは。フェミニズムとは。自分らしさとは」を、男性自身も改めて考えるきっかけにもなる。

 ただ、その一方でフェムバタイジングに対するネガティブな意見ももちろんだがあり、そこにも目を向けておこうと思う。現代におけるフェミニズムという言葉や思想がスタイルとしてトレンド化している感は否めず、これすれば当たる、というように、企業側が「フェミニズムは流行りだから、クールだから」と表面的に利用している実例も少なくない。さらに、女性をステレオタイプに固めず描写するのが本来あるべき広告の姿で、わざわざ“フェムバタイジング”とカテゴライズすること自体が自然ではない、という意見も。
 論議は尽きない。だが、フェミニズムという概念が企業広告、つまり不特定多数の大衆に届くヴィジュアルイメージにまで用いられるようになったという事実は、フェミニズムの民主化が進んだことを何より表しているのも、また疑いのない事実だろう。

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Image via Marvin Meyer

 現在、“圧倒的な女性優位”がウリのデーティングアプリ「Bumble(バンブル)」や、“大自然×女性”キャンペーンを仕掛ける老舗アウトドアショップ「REI(レイ)」など、フェムバタイジングを実践する企業に取材交渉中だ。

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Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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