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  • Sep 8, 2018

ワールドシリーズ八百長の黒幕、全米人気カーレースの意外な黒起源…スポーツと犯罪組織のドス黒い汗—Gの黒雑学

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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、十七話目。

***

前回は、密売酒をうまく混ぜ合わせ〈カクテル文化〉を花咲かせた禁酒法時代、またギャングの経営するもぐり酒場でも大活躍した“化学者”の存在について暴いた。今回は、「ギャングとスポーツ」について。1919年のワールドシリーズを陰で操っていたといわれるあの大物ギャングや、プロ並みのゴルフスキルをもち、ゴルフコースで逮捕されたシカゴのギャングなどを紹介しよう。

▶︎1話目から読む

#017「八百長の黒幕に、ゴルフ場でFBIに腕前を披露したギャング。スポーツとの黒い交わり」

ホワイトソックス選手を買収、ワールドシリーズで八百長したギャング

 実在のプロボクサー、ジェイク・ラモッタの自伝を下敷きに、浮き沈みの半生を描いた映画『レイジングブル』(マーティン・スコセッシとロバート・デニーロのコンビ)。ギャングのボスに抗えず八百長試合を承諾し格下相手に負けるボクサーだが、八百長をおこなったことでチャンピオン戦への機会もあたえられ…と、いちボクサーの人間臭さが滲む力作だ。“ブロンクスの猛牛”と呼ばれたボクサーを演じるデ・ニーロの体重増減も目を見張るものがあるが、今回はスポーツ界とギャングの切っても切れない関係性に目を向けてみる。

 数年前、国際反ドーピング機関(WADA)のデビッド・ハウマン事務総長が「世界のスポーツ業界の25パーセントは組織犯罪に操られている」と発言。スポーツ界にはびこるステロイドや成長ホルモンなどドラッグをもちこむ者たちが、スポーツ界の腐敗を進め八百長試合の金を動かしていると示唆したことで話題になった。

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「ギャングの八百長問題は、いつの時代も物議をかもす問題です」と、アメリカンギャングミュージアムの館長さん。「その中でも有名な八百長事件は、1919年のワールドシリーズ。通説では、大物ギャングアーノルド・ロススタインがチームを買収したといわれています」

 メジャーリーグベースボール(MLB)における優勝決定戦で、野球の試合のなかで最重要なワールドシリーズ。この年は、シカゴ・ホワイトソックス対シンシナティ・レッズ。ホワイトソックスが優勢とみられていたが、蓋を開けてみたら、レッズが勝利した。この試合を操ったといわれているのが、ラッキー・ルチアーノにファッションを教えたユダヤ系ギャングで組織犯罪の元祖、アーノルド・ロススタインだ。賭博で稼ぐ札束を数える指が止まらなかったロススタイン、ついに米国民の娯楽・野球でも悪儲けしようと八百長工作。手下を使いホワイトソックスの選手たちに賄賂を渡し負けるように仕向け、大儲けしようと企んだ。結局、工作が発覚し賄賂を受け取ってわざと負けた主力選手8人は永久追放の処分。対し、日本円にして3,900万円ほど儲けたロススタインは証拠不十分で不起訴という結果に終わった。この八百長事件は、150年の伝統あるメジャーリーグの汚点「ブラックソックス事件」として、いまでも語り草となっている。

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息子ソニー(中央)のために、シカゴ・カブスのギャビー・ハートネット選手にサインボールをねだるカポネ(一番右)。
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スポーツ観戦にもギャングの姿が。ボクシングの八百長にも関わっていたニューヨークのマフィア、ジミー・ナポリ(本誌にも過去登場したクッキングマフィア、トニー・ナポリの父)。
マディソンスクエアガーデンでボクシング観戦(撮影者:FBI)。Photo via Tony Nap Napoli

ゴルフ場で逮捕され、ボウリング場で暗殺された男

「もし彼の両親がギャングに殺されていなかったら、偉大な国民的スポーツマンになっていたでしょう。野球選手かゴルファーとしてですね」。館長さんがそう話すのは、アル・カポネの手下元で腕のいい殺し屋として活躍したギャング、ジャック・マクガーン。彼は食料品店を営む両親をギャングに殺され、その復讐としてギャングの道を突き進んだ男だ。

 マクガーンは、あの聖バレンタインデーの虐殺(カポネ一家と対立するラモン・ギャング一味の間で起こった抗争)を指揮したといわれている。

 プロ並みのゴルフの腕をもっていたマクガーン、ある日スピード違反で逮捕。この時彼はゴルフ場にいて、まさに第1打を打とうとしていたところだったとか。またある時は「プロのゴルフトーナメントに出場しました」。もちろん偽名でだ。しかし新聞に出場プレーヤーとして名前が露出、偽名にも関わらず張っていたFBIがこれをマクガーンだと気づいた。「ゴルフトーナメント中にコース上で逮捕されてしまいました。しかし(牢獄生活が待っていることを覚悟した)マクガーンは、『近い将来、もうゴルフが簡単にできなくなる。せめてこの試合だけ終わらせてもいいか』とFBIを説得。FBIもマクガーンの試合結果が気になったので、まあいいだろうと試合続行を許可しました」。逮捕という事実を前にしてもゴルフを続けるほどのゴルフ好きの最期は、シカゴのボウリング場だった。2人の暗殺者にマシンガンで撃たれ暗殺。死ぬときまで、スポーツに興じていたギャングである。

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ゴルフトーナメントで逮捕され裁判所へ赴く、実際のジャック・マクガーン(左から2番目)。1933年。

 マクガーン以外にもゴルフ好きのギャングはいる。ニューヨークのイタリア系マフィア「コーサ・ノストラ」のボス、ヴィト・ジェノベーゼもゴルフを嗜み、別荘にゴルフコースをつくってしまったほどだ(どれだけデカい土地だったんだ…)。ゴルフ好きなGたちが多いことについて館長は、「ゴルフはビジネスマンたちにとって、とてもいいスポーツです。コースを一緒に歩きながら会話をし時間を過ごすことで絆を深められます。また(ゴルフ場は広いため)、聞かれたくない会話も盗み聞きされることなくできますからね」

禁酒法が生んだ全米人気のカーレース

「あぁ! スポーツと組織犯罪にまつわる重要な小話を思い出しました」。突然思い出した館長さんがいうに、「禁酒法時代の酒の密売が『ナスカー』の起源となりました」。どういうことだろう?

 ナスカー(NASCAR)とは、米国で人気の自動車レースだ。走らせる車はフォード、ダッジ、シボレーなど一見すると市販用のセダンだが、車体、サスペンション、エンジンなどがレース仕様に改造されている。米国では、最高級クラスの車と迫力のスピードが見所のF1よりも、国民的人気が高いモータースポーツなのだ。このモータースポーツの発祥が「追っ手から逃れるため、密売酒を配送する車を改造した密売人たち」。禁酒法時代後も彼らは車を改造しレースを続け、それがナスカーとなった。

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「禁酒法時代とスポーツの関係はナスカーだけではありません。スピードボートで密造酒を運んでいた密売者ビル・マコイも、禁酒法時代後もスピードボートを造りボートレースに参加していました」。密売酒の輸送を取り締まる沿岸警備隊を出し抜くマコイのボート、レースは難なく一等だったに違いない。

 次回のトピックは、「組織犯罪とゴミの意外な関係」。表向きはゴミ処理業者のトニー・ソプラノ(ギャングドラマの代名詞『ザ・ソプラノズ』の主人公でマフィアのボス)など、なぜかGたちが背後で操るゴミ処理業界や、イタリアで活発な環境破壊集団「エコ・マフィア」の正体について探りを入れることにしよう(だったはずなのだが、ちょうど“NYイタリアンマフィアとも濃ゆい関係”のある祭りが開催されていたので、次回はそちらのレポをお届けする)。

▶︎▶︎#018「マフィアも頬張った(?)屋台フードが集結。リトル・イタリーのど根性『サン・ジェナーロ祭』に行ってみた」

重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Museum Photos by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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