真紅の高級車、銃弾も跳ね返す装甲車。ギャングたちが愛し乗り回した“最強の一台”—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十話目。


「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十話目。

***

前回は、ゴミ処理ビジネスから匂う「ゴミとギャングスターの知られざる関係性」について漁った。今回のテーマは、「Gたちが乗り回した愛車」。派手好きジョン・ゴッティの赤いジャガーや、アル・カポネの最強装甲車など、ギャングスターと車についてアクセル全開で話していこう。

▶︎1話目から読む

#020「伝説の犯罪カップル、大物マフィアは車好き。ギャングらがハンドルを切った“いわくつき”の車たち」

派手好きマフィアのドンが愛した「真っ赤なジャガー」

 50年代ロックンロールのパイオニアで、『ジョニー・ビー・グッド』でお馴染みのチャック・ベリー。『ジョニー〜』に並ぶ彼の名曲といったら、『メイベリーン』だ。男女の駆け引きを歌う軽快なナンバーで、曲中には主人公(男)とその恋人のメタファーとして〈車〉が出てくるのがおもしろい。50年代のアメリカらしく、キャデラックやフォード。いずれも、アル・カポネや“世紀の犯罪カップル”、ボニー&クライド、そしてFBIから「社会の敵ナンバーワン」と命名されたジョン・ディリンジャーなど、アメリカのギャングたちがこぞって乗り回した愛車ブランドでもある。

 Gたちは一様に車好きだ。代表格はNY5大マフィア・ガンビーノ一家のボスで、“現代最後のハリウッド映画的なマフィア”と呼ばれたジョン・ゴッティ。高級スーツにメディア露出、と身なりから行動まで派手好きだったゴッティの愛車は、赤い「ジャガー(英高級車メーカー)」だ。ガンビーノ一家の幹部グレッグ・デパルマから贈られた一台で、72年製のコンバーチブル(オープンカーにできる仕様)。アメリカン・ギャングスター博物館の館長さんもつい、「ゴッティの派手好きは車にも表れていました。まあ、ギャング界のドナルド・トランプといったところでしょうか」。現在、この一台はラスベガスにある「モブ・ミュージアム」に収蔵されている。ベガスを訪れた際には、是非間近で見てほしい。

 その他にも世界のギャングたちが好むのは、メルセデス・ベンツやBMW、ロールスロイス、マセラティなどの高級車メーカー。さらにギャングスタ・ラップには、車高を低くした改造車(ローライダー)が頻出することから、現代の“ギャングスタ”に改造車を連想する者は多いと思う。これ見よがしの派手で目立つ車を乗るギャングたちだが、「なかには、派手な車を嫌がるギャングもいました」。下手に車で目立って警察や敵の目にでも留まったら、人生行き止まりである。

最強、カポネの装甲車。銃弾もはじく「鋼鉄のキャデラック」

 ここにもう一人、車狂いのギャングがいる。26歳にして暗黒界のトップに立ち、警察や裁判所、政治家などを買収し国民にも愛される筋者となった、アル・カポネだ。味方が多ければ、敵も多し。敵ギャング「ノースサイド・ギャング」のリーダーだったジョージ・モランは、カポネがレストランで食事しているところを、走行中の車から窓に向かって発砲しようと企てたりしていた。

 いつでもどこでも命を狙われるカポネを守ったのが、特注の1928年製「キャデラック」だ。「車内の天井は高く、内部は鋼製の板で覆われていました。燃料タンクも板でしっかりと守られていましたね」。窓ガラスは2、3センチの分厚さで、銃弾が飛んできても内部まで貫通しない防弾完備の「とんでもなく安全な装甲車でした」。カポネ投獄後、FBIに没収されたキャデラックの装甲車だが、のちに意外な人物を乗せることに。銃弾も跳ね返すほどの安全性が買われ、1941年、フランクリン・ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃を受けてのスピーチをする際、暗殺を恐れた大統領を会場まで乗せる車として使用されたのだ。

 カポネの装甲車はこの一台だけでない。ニューヨークのユダヤ系ギャング、ダッチ・シュルツが所有していた1931年製の「リンカーン」を、シュルツ没後に購入している。こちらも数センチの防弾ガラスと鉄板で覆われたカスタマイズカーだったという。

あの銀行強盗カップルを乗せた「最高馬力の逃走車フォードV8」

 ジョン・ゴッティやアル・カポネなどのギャングについて詳しく知らない人でも、この犯罪カップルの名前は聞いたことがあるかもしれない。「ボニーとクライド」だ。1930年代前半、米中西部を車で逃避行しながら、銀行強盗と殺人を繰り返したボニー・パーカーとクライド・バロウ。ハイヒールにドレス姿のボニーと、スーツにきっちりセットされたヘアのクライドの美男美女カップルは、れっきとした犯罪者であるのにも関わらず、世の中では英雄扱いされることもあった。世界恐慌時代の真っ只中、社会を信じられなくなり鬱屈した市民たちの目には、次々と金を巻き上げていく若きカップルの犯罪逃避行は、すがすがしく粋にさえも見えたのだろう。

 少々美化された銀行強盗カップルの彼らが、逃走用に乗っていた車が「フォードV8」だ。「当時この車種は、最新の大きなエンジンを搭載しており、スピードも抜群の素早い車でした」。最高の馬力を出力するV型8気筒エンジンを積んだ車で、当時の大衆車では最速。警察の車も追いつかなかったとか。カップルは、銀行から金をぶんどったらフォードV8に乗り込み州をまたいでひとっ飛び、を繰り返した。しかし、目にも鮮やかな逃走劇にも終わりはくる。1934年、待ち伏せしていた警察にフォードV8を蜂の巣にされ、2人は銃弾に打たれ死亡した。カポネの装甲車ほどの防弾性はなかったということか。

「この話には続きがあります。クライドは死ぬ前、愛車フォードの会社宛てに手紙を送っていました」。クライドは死ぬ1ヶ月ほど前に、フォードの創設者ヘンリー・フォードに“感謝の手紙”を書いていたというのだ。内容は、

拝啓、

まだ息の根があるうちに伝えておきたいのですが、あなたはなんて粋な車をつくったのでしょう。ぼくは、いつもフォードのみを盗み運転していました。持続可能なスピード感と追っ手から逃げられる自由を、あなたの車はあたえてくれた。万が一ぼくたちの仕事が厳密には合法ではないにしても、最高の性能がある、と言いたかったのです。

敬具
クライド・チャンピオン・バロウ

 この手紙が実際にクライドによって書かれた本物なのか、あるいは誰かが捏造した偽物なのかは長らく論議され、真相は闇の中だ。しかし現在、手紙はミシガン州にあるヘンリー・フォード博物館に展示されているところをみると、本家本元のお墨つきだと信じたくなってしまう。

▶︎▶︎#021「アル・カポネの独房からは美しい音色が漏れ聞こえた〜ギャングたちの“ギャップ激しき趣味”」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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